まだ男子任せ?女子ももっと自分で避妊したいのに日本では認められていないのはなぜ?

カップル

避妊の主導権を女性が持つ方法は、世界で見れば実はいろいろある。

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「今日、つけないでしていい?」

「……」

性行為の際、パートナーにこう言われ、嫌われたくなくて応じてしまった、行為中にコンドームが外れたり、破れたりしてしまった……。「妊娠したらどうしよう」と、不安な思いで次の生理を待ったことのある女子は、多いのではないだろうか。

日本で使われる避妊法は、男性がつけるコンドームが圧倒的に多い。にもかかわらず、望まない妊娠や人工妊娠中絶のリスクを負うのは女性だ。女性だって、もっと主体的に妊娠と出産をコントロールしてもいいのではないか?

性知識の普及啓発を進めるNPO法人ピルコン(東京)が、3月12日に都内で開いた勉強会では、海外の女性がさまざまな避妊法を使っていること、緊急避妊薬(アフターピル)も手に入れやすい環境が整っていることが報告された。

注射にインプラント、シール…女性主体の避妊法が使えない

NPO法人ピルコン勉強会の会場

性知識の普及啓発を進めるNPO法人ピルコンが3月12日に都内で開いた避妊法に関する勉強会。

日本家族計画協会の2016年の調査によると、日本で使われる避妊法の82%が男性用コンドーム、避妊効果はほぼ見込めない腟外射精が19.5%と、圧倒的に男性が決定権を握っている。女性による低用量ピルの服用は4.2%、IUD(子宮内避妊リング)など女性の体内に入れる避妊具を使っている人は1%に満たない。

実は他にも、女性にできる避妊法はたくさんある。産婦人科医の遠見才希子さんは勉強会で、「日本は、女性主体でできる避妊の選択肢が少なすぎます」と訴えた。

例えば3カ月に1度、ホルモン剤を注射する方法や、マッチ棒くらいのスティックを腕に埋め込むインプラント。インプラントは医師に埋め込みや取り出しをしてもらう必要があるが、効果は3年も続く。

避妊薬

日本で使われる避妊法の82.0%が男性用コンドームで、女性による低用量ピルの服用は4.2%にとどまる(写真はイメージです)。

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皮膚に貼るシールや、腟内に入れて使うリングもある。シールは1週間ごとに取り換えればよく、リングは自分で体内に入れて3週間そのままにしておく。いずれも生理が始まるよう、4週目は使用を休む。

これらの避妊法は低用量ピルと同様、ホルモン剤を体内に投与するため、不正出血などの副作用を伴うことがある。ただいずれも避妊成功率は90%を超え、成功率82%のコンドームに比べ、格段に確実性が高い。

先進諸国に限らず、東南アジアなど多くの国で、こうした避妊法が使われている。国連が各国の統計をまとめた結果によると、ミャンマーやタイ、インドネシアではピルや注射を利用する割合が高く、ベトナムではIUD、ネパールでは注射による避妊法が広く使われている。

在日外国人女性の実情に詳しい、上智大学総合グローバル学部の田中雅子教授は「日本へ移住してきた外国人女性の多くが、使い慣れた避妊法を利用できず、望まない妊娠のリスクを抱えている」と話す。

未成年の中絶は1万4000件

福田さん

リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(性と生殖に関する健康と権利)の啓発団体「#なんでないのプロジェクト」の福田和子代表。

一方、日本で正式に入手可能なのは、IUDとピルくらいだ。一時、女性用コンドームが販売されていたが、現在は製造中止となっている。

IUDは5年間、子宮内に取り付けたままにできるメリットがある。ただ医師の処置が必要な上、避妊目的だと保険適用外となり、費用が3~5万円かかってしまう。また出産経験のない女性は出血や腹痛を引き起こしやすいとして、処置してくれる病院は少ない。

低用量ピルも多くは、毎月2000~3000円の薬代がかかり、産婦人科医の処方が必要。輸入代行業者などが、安価なピルをネット販売しているが、安全性が担保されないため利用は避けるべきだ。

リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(性と生殖に関する健康と権利)の啓発団体「#なんでないのプロジェクト」の福田和子代表は、留学先のスウェーデンで薬局の棚にピルが並び、手軽に買えることに衝撃を受けた。「これが日本にあれば、どれだけの女の子が救われるか……」と痛切に思ったという。

厚生労働省の調査によると、2017年度に行われた人工妊娠中絶の件数は約16万5000件。このうち1万4000件が、20歳未満の未成年だ。福田代表は勉強会で「コストが安く、避妊成功率が9割を超える方法もたくさんあるのに、日本ではほとんど使えない。国が違うだけで手に入らないのは悲しいことです」と嘆いた。

進まない背景には「性の乱れ」懸念

アフターピル

日本における「緊急避妊薬」の価格は、諸外国と比べるとまだかなり高い(写真はイメージです)。

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性行為の後、72時間以内に服用することで、妊娠を85%程度予防できるのが「緊急避妊薬(アフターピル)」だ。これまで認可されていた「ノルレボ錠」は、1錠1万5000円前後と高額だったが、3月19日に安価な後発医薬品(ジェネリック)「レボノルゲストレル錠」が発売された。医療関係者は「初診料などと合わせて6500円〜1万円くらいになるのでは」と予想する。

しかし実は、この価格も諸外国と比べるとまだかなり高い。

福田代表の報告によると、アメリカでの販売価格は1500~5000円、ドイツでは2000円程度。カナダでも1000~2500円だ。さらに

「イギリスではアフターピルを含め避妊はすべて無料、ドイツやフランスは未成年には無料で提供しています」(福田代表)

アフターピルは服薬に72時間という「タイムリミット」があるため、土日祝日関係なく、身近な場所で入手できるかどうかが、避妊の成否を大きく左右する。だが日本では、医療機関への受診と処方せんが必要。病院が遠い過疎地だったり、土日や休日を挟んだりした場合に、タイムリミットを過ぎてしまうリスクが高まる。

政府内ではアフターピルを処方せんの不要な「一般用医薬品」へ転用するかどうかを検討していたが、「悪用や濫用の懸念がある」などとして認めなかった。

またアフターピルの処方には、産婦人科医に対面で診療してもらう必要があるが、厚労省は3月末、スマートフォンなどを通じたオンライン診療を条件付きで認める方針を打ち出した。離島など、病院が遠い地域の状況はある程度、改善される見通しだ。

遠見さん

産婦人科医の遠見才希子さん。

しかし海外に目を向ければ、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、カナダ、オーストラリアなど80カ国以上で、アフターピルを処方せんなしで買える。「#なんでないの~」の福田代表は、

「病院や薬局だけでなく、学校やコミュニティセンターのような公共施設で提供している国や、政府公認のウェブサイトで販売している国もあります」

とも話す。

どうして日本は、事情が異なるのか。産婦人科医の遠見さんは、

「医療従事者の中にも、アフターピルが安く簡単に手に入ると『性が乱れる』、望まない妊娠は『自業自得』だと考える人がいまだにいる」

と話し、保守的な医学界の認識も一因ではないかと指摘する。 アフターピルのオンライン診療についても、日本産科婦人科学会は「安全な使用・乱用防止の徹底」に懸念があるなどとして、反対の意見書を厚労省に提出していた。

緊急避妊の背景に潜む性暴力、女性の自衛策はあまりに少ない

染矢さん

性知識の普及啓発を進めるNPO法人ピルコン染矢明日香理事長。

ピルコンの染矢明日香理事長は勉強会で、30代の女性が「危険日だから」とコンドームを付けるようパートナーに頼んだところ「俺には関係ない」と断られ、避妊に失敗したエピソードを紹介した。この女性は仕事と週末の休診日が重なって、72時間以内にアフターピルを服用できず妊娠、やむなく中絶したという。

また染矢さんは、「緊急避妊や中絶の背景には、かなりの割合で性暴力が関与している」と指摘する。

内閣府の調査では、レイプなどを受けた性暴力被害者のうち、警察に相談した人はわずか3.7%。医療機関に相談した人は1%台とさらに少ない。性犯罪は1年間に3万件近く起きていると推計されるが、被害者のうちアフターピルにたどり着ける女性は、ごくわずかだ。

染矢さんは「正しい性知識や、対等なパートナーシップを学ぶ性教育の充実も必要」と強調する。もちろん女性による避妊だけでなく、男性用コンドームを使うことも性感染症予防などの面で非常に重要だ。ただ現実は、女性が男性の身勝手な行動や性犯罪に直面した時に、選択できる自衛策はあまりに少ない。

「#なんでないの~」の福田代表は「日本では、女性の『性』の健康は、諸外国に比べて守られていない。現状を当たり前だと思わないでほしい」と呼び掛けている。

(文、写真・有馬知子)

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