2018年10月に中国・北京で開催された展示会「セキュリティ・チャイナ 2018」の会場にて。顔認証ソフトウェアのデモ。
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友だちの結婚式で撮った集合写真をFacebookにアップロードしようとして驚いたことはないだろうか。Facebook上で友だちになっている人(のうち顔写真がプロフィールやタイムラインで公開されている人)が自動認識され、投稿へのタグ付けをうながされる。現在の画像認識技術をもってすれば、このくらいのことは何でもない。
iPhoneのロック解除で、従来の指紋認証システム「Touch ID」に代わって導入された顔認証システム「Face ID」。たくさんの人が使っているとまでは言えない現状だが、一度使ってみるとその便利さ、優秀さがわかる。顔という立体画像がもつ複雑な情報を、角度や明暗が多少変わっても正確に認識する技術がこんなに身近で使われていることに、驚きを禁じ得ない。
中国の銀行400行に顔認証システムを提供
だが、顔認証分野では世界最先端を突っ走る中国では、こんなことで驚いていたら身が持たないかもしれない。香港メディアのサウスチャイナ・モーニング・ポストは3月28日、こんな衝撃的なタイトルの記事を掲載した。
「中国警察当局による1万人の犯罪者逮捕に貢献した、政府支援のAIユニコーン」
このユニコーン(非上場ながら企業価値が10億ドル=約1110億円を超えるベンチャー)は、中国南部・広州市に本拠を置き、人工知能(AI)を使った顔認証技術の開発を進めるクラウドウォーク・テクノロジー(以下、クラウドウォーク)を指す。
同社の顔認証技術は、中国31行政区(自治区・直轄市含む)のうち29の警察で使われ、1日あたり約10億人分の顔をデータベースと突き合わせ、過去4年間で1万人を検挙するのに貢献してきたという。
とりわけ大口の顧客は銀行で、中国4大銀行と呼ばれる中国銀行と中国農業銀行、中国建設銀行、中国工商銀行を含む400行のATMの顔認証システムとして採用されている。1日あたりの取引(に伴う顔認識)量は2億1600万件にものぼる。
また、同社は広州市から約3億ドルの補助金を受け取るなど(2017年実績)、行政との結びつきも深く、中国国家発展改革委員会の進める高精度顔認証プロジェクトでは、政府推奨企業にも名を連ねている。
クラウドウォークは2018年10月、中国の政府系ファンド「国新科創基金」などから1億4000万ドル(約155億4000万円)を調達。2015年の創業からの合計調達額は約5億1000万ドル(約566億1000万円)となった。
世界の顔認証デバイス市場は80兆円規模に
2018年4月、北京で開催された「グローバル・モバイル・インターネット・カンファレンス」会場にて。中国では顔認証関連のイベントが次々と開催されている。
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英調査会社IHSマークイットのレポートによると、2017年時点で中国都市部の公共空間には2000万台の防犯・監視カメラが設置され、私有地内も含めると1億7600万台にのぼる。2020年末までに、中国市場向けに4億5000万台が出荷される見通し。
また、クラウドウォークのプレスリリースによると、世界の顔認証デバイス市場は2017年に約11億ドル(約1221億円)で、2025年末までに71億ドル(約7881億円)まで成長するとみられている。うち中国市場は約29%(2017年)を占め、2023年には45%までシェアが広がるという。
(文:川村力)