大企業の「スタートアップ・アクセラレーター」が失敗しやすい理由 —— アメリカでも83%が「苦労している」とのデータ

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こんにちは。パロアルトインサイトCEO・AIビジネスデザイナーの石角友愛です。今回は大企業のイノベーションにおいて重要な位置付けになってきているコーポレートアクセラレータについて書きたいと思います。

コーポレートアクセラレータとは、大企業が主体となりスタートアップに支援プログラムを提供するサービスです。ときには「ゼロエクイティポリシー」(スタートアップの株式を一切とらない)を取りながら、スタートアップに大企業がもつノウハウやネットワーク、大企業とのパイロットプログラムの実施などを提供しています(少し古いですがコーポレートアクセラレータDBはこちら)。

それではこのコーポレートアクセラレータ、アメリカではうまくいっているのでしょうか。500 Startupsが出したレポートに面白いデータがあります。

消費財、小売、金融などの大企業100社にアンケートをとったところ、多くの大企業が「スタートアップとのパイロットプログラムの商業化に苦労している」ことがわかりました。83%の会社が、過去のパイロットプログラムで商業化できたものは25%以下だという結果だったのです。

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全体の実に83%のコーポレートアクセラレーターが、商業化できたパイロットプログラムは25%以下だと回答。パイロットの商業化成功率が51%以上の企業はわずか7%だ。

そもそも大企業がスタートアップとパイロットプログラムを実施するのは、イノベーションの種を見つけて商業化、事業化につなげたいからです。なぜ、その目的が達成できていないのでしょうか。そこには大きく2つの理由があります。

【理由1】パイロット数が圧倒的に足りない

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すべてのスタートアップとの案件が成功するわけではありません。リスクヘッジも考えると、ポートフォリオアプローチが適しているのですが、年間に50社以上とのパイロットプログラムを行う大企業は圧倒的に少ないと言います(全体の9%)。成功率を高めるためにもまずは母集団の数を増やす必要があります。

【理由2】意思決定のスピードが遅すぎる

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20%の企業がスタートアップとの案件を締結するのに半年以上かけているという結果が出ています。スタートアップにとっての半年は、大企業にとっての5年くらいの感覚です。これではスタートアップ側にメリットが少なくなってしまいます。

大企業発「課題解決型アクセラレーター」という先行事例

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一方で、上記の課題を踏まえて、成功しているコーポレートアクセラレータも多くあります。

例えば、エアバス社が運営するアクセラレータープログラムの「Airbus BizLabs」はフランス南西部のトゥールーズ(エアバスの本社と組み立て拠点がある)、ドイツのハンブルグ(飛行機のデザインやエンジニアリング拠点がある)、インドのバンガロー(フライト管理システムやモデル、シミュレーションなどの開発部隊がある)とマドリッドの4カ所で展開しています。

スタートアップは6カ月のプログラムを通して、4万5000ユーロのプロトタイプ資金+5000ユーロの旅費+宿泊費を受け取り、フルタイムで4カ所のうちどれかに参加することになります。

最終日にはエアバス社だけではなくエアバスの顧客、その他VCなどに対してデモを行います。このプログラムの面白いところは、エアバス社内からイントレプレナーを集めて、面白いイノベーションプロジェクトを審査します。

審査に通ったイントレプレナーがアクセラレータープログラムに参加し、航空業界のスタートアップと6カ月の「ハイブリッド型コラボ」を通して、プロダクトを作るモデルです。多くのコーポレートアクセラレーターが、業界やテーマを絞ってイノベーティブなスタートアップを待つ「受け身モデル」なのに対して、「課題解決型アクセラレーター」とも言えます。過去3年間で50社のスタートアップと40の社内からのイノベーションプロジェクトを受け入れたということです。

例えば、2018年のバンガローグループ卒業のAIスタートアップであるStelae Technologies社はテキスト文章などをAIが扱うために必要な「非構造化データを構造化する技術」を使って、データドリブンなEFBソリューションを作るためにエアバスの子会社とパートナー契約を結びました。

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Stelae Technologies社の公式サイト。About UsページにはAirbus BizLabのプログラムに採択された7社であることを掲げている。

このように、ポートフォリオアプローチでリスクヘッジをするのも一つの方法ですが、エアバス社のように社内発の課題を解決するスタートアップを探すことで商業化への勝率が高くなるケースもあります。

イノベーションとはかけ離れていると思われがちな伝統的な業界でも、課題解決型のコーポレートアクセラレータが生まれています。例えば、イギリスで450年以上続く建築大手のColmore Tangは、Virgin Startupと組んで100万ポンド(約1億4550万円)のファンドを作り、建築業界特有の3つの課題を解決するためのスタートアップを支援しています。

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スタートアップにとっては、大企業の支援を受けることで将来的に3つの可能性が生まれます。1つは、大企業に買収されること。2つ目は大企業の提携先、サプライヤーになること。3つ目は、大企業が顧客になることです。

成長戦略が明確になる前のアーリーステージのスタートアップにとって、選択肢を多く残しておき、自由に経営できることは重要です。ですから、3つ目の「顧客」になってくれる可能性が高い大企業が運営するアクセラレータに参加することは、メリットが多いと言えるでしょう。

私の周りのシリコンバレーの起業家たちで、コーポレートアクセラレータを受ける人はあまり多くないのですが、受ける場合はこの3つ目の可能性に期待して、業界に特化したソリューションを作っているスタートアップが多いと感じます。

まとめると、コーポレートアクセラレータの成功条件には、

  • 課題解決型であること
  • スタートアップへのメリットを明確にすること(メンターシップやオフィス提供、POC実施以外に、売り上げに関するメリットの可能性が大事)

この2つが必要不可欠であると言えます。

(文・石角友愛)


石角友愛:2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのGoogle本社で多数のAIプロジェクトをリードする。後にHRテックベンチャーの立ち上げや流通系AIベンチャーを経て2017年パロアルトインサイトを起業。日本企業に対してシリコンバレー発のAI戦略提案からAI実装まで一貫した支援を提供する。新著に「いまこそ知りたいAIビジネス」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

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