【東京新聞・望月記者】官房長官会見で記者の質問が制限されていることを知ってますか?

平日午前と午後、毎日2度開かれる官房長官の記者会見は、政権の考えを知る最も重要な取材機会だ。この官房長官会見での質問を巡り、2018年末から記者への質問が“制限”される、ということが起きている。

その制限されている当事者でもある東京新聞の望月衣塑子記者と、朝日新聞政治部記者出身で現・新聞労連(日本新聞労働組合連合)委員長でもある南彰さんに、今政治報道の現場で何が起きているのかを語ってもらった。

官邸前デモ

3月14日に開かれた官邸前の集会には、メディア関係者など記者会見での「質問制限」に危機感を抱く多くの人が集まった。

撮影:今村拓馬

浜田敬子BIJ統括編集長(以下、浜田):望月さんの著書『新聞記者』が原案になった映画が6月に公開されますね。どういう映画ですか?

望月衣塑子さん(以下、望月):政権側がひた隠しにする権力中枢の闇に迫ろうとする、日本人と韓国人のハーフでアメリカで育った女性の新聞記者( シム・ウンギョン)と、理想に燃えて官僚になった男性(松坂桃李)との対峙や葛藤が描かれています。

メディアがどんどん権力によってコントロールされつつある現代において、何より一番重要なのは個。個が確立し、 一人ひとりがものを言えるような社会になって欲しいというメッセージが込められています。

記者も官僚も覚悟を問われる映画

映画「新聞記者」

映画『新聞記者』より。一人一人がものを言える世の中になって欲しいというメッセージが込められているという。

©2019『新聞記者』フィルムパートナーズ

南彰さん(以下、南):私ももう見ました。安倍政権と直接は言っていないけれど、安倍政権で実際起きている森友・加計疑惑、性暴力を告発したジャーナリスト、伊藤詩織さんなどの問題をトレースしていますよね。

政権とメディアという関係性の中で記者が個人としてどう振る舞うか、そして、官僚も個としてどう振る舞うか、がテーマだと感じました。

新聞記者や官僚に覚悟を迫る映画だと思います。自分たちの原点に照らして、今やっていることは恥ずかしくないのかと問われているようです。

浜田:2年前に望月さんの『新聞記者』が出版された時、正直、こんなに売れるとは思いませんでした。

売れた理由は、望月さんが政権ナンバー2である菅義偉官房長官の会見で質問している姿、あの女性は誰だろうという関心が高まっていたことは大きいですよね。

菅官房長官

REUTERS/Toru Hanai

望月:官房長官会見に毎日出るようになったのは、2017年6月からです。

2017年2月頃から 森友疑惑が大阪府豊中市の木村真市議や朝日新聞の報道によって浮上、続いて加計疑惑も出てきました 。加計学園が国家戦略特区に獣医学部を新設する計画を巡り、担当の内閣府が文科省に「官邸の最高レベルが言っている」などと早期新設を求めたとする文書について、 菅義偉官房長官は当初 「怪文書のようなものじゃないか」と言い切った。

でも、「怪文書と言えるのだろうか」と直接、疑問をぶつけたいと思って参加するようになったんです。

首相の官邸での記者会見(外国要人との共同記者会見除く)は2017年は4回、2018年は3回だけで、首相の番記者のぶら下がりもせいぜい聞けて1、2問で、ほとんどやってないに等しい。それなら菅さんに行こうと思いました。

前はもっと自由に質問できていた

望月さん・南さん

東京新聞記者の望月さん(左)と朝日新聞で長く政治記者をしてきた南さん。

浜田:今、望月さんに対する官房長官会見での質問制限(※)が問題になっていますよね?

南さんは朝日新聞政治部で長く記者をされてきましたが、もともと官房長官会見に質問制限はあったんですか。

※2018年12月の官房長官会見で、望月記者が辺野古の工事を巡って、「赤土が広がっている。沖縄防衛局は実態を把握できていない」と質問したことに対し、官邸側は「事実に基づかない質問であり、赤土の表現も不適切」と東京新聞に申し入れた。東京新聞によると、それ以前も望月記者の質問に対して内閣広報官名で9回にわたり、「事実に基づかない質問は慎んで欲しい」という申し入れがあったという。

南:ないですし、前はもっと自由でした。官房長官の番記者はたしかに長官と四六時中つきあわなきゃいけないから、表現には気をつけます。でも他の記者が突っ込んで聞いていたし、政治記者1年目の僕にも町村信孝官房長官(当時)は普通に答えてくれていました。

民主党政権の最後まではそんな雰囲気でした。その後、官房長官番しか聞けない雰囲気にどんどんなってきて。政権が長期化すると記者側も「どうせ記者会見で聞いてもこの程度しか答えないだろう」という相場観ができてしまったのです。

オフレコ取材を人質にとっていた

浜田:そこに「空気を読まない」望月さんが乗り込んできた。望月さんが菅さんに質問をがんがんぶつける時、番記者たちはどんな空気だったんですか?

南:6月6日に望月さんが最初に会見場に来て質問し、その後すぐに前述の加計学園に関する文書が出てきた。そのあたりは「あっ!やられた。こういうやり方があったか」という感じで、刺激を受けた番記者もいました。

望月さん

望月:6日の午前の会見で聞いたら、その日の午後、 ある記者から「一つの質問が長すぎると会見に支障が出る」と注意されました。それ以降も、私は知りませんでしたが、菅さんが私の質問で怒ると官邸会見後に行われる数分の「オフレコ取材」などをやらなくなったりしたことがあったようです。オフレコ取材を人質に取り、「オフレコ取材をしたいならば、望月を何とかしろ」と番記者たちに暗にプレッシャーをかけていたということでしょうか。聞いた時はショックでした。

浜田:オフレコ取材とは?

南:記者会見とは別に菅さんは、番記者と会見後に内容を確認したり、夜、議員宿舎で質問に応じたりするんです。記者会見で気分を損ねると、それに応じなくなったようです。

浜田:2018年12月、首相官邸が内閣記者会に「問題意識の共有」を求める文書を出しました。その時の周りの記者の反応は?

望月:私はクラブに文書が出されたことを全く知りませんでした。長谷川栄一内閣広報官から来た、東京新聞の臼田信行編集局長宛の抗議文書だけを受け取って読みました。

「俺はあいつが嫌いなんだ」

浜田:内閣記者会宛の文書を読みましたけれど抗議の理由としては成り立たないと感じました。望月さんの質問内容がもし事実でないなら、菅さんが否定すればいいのでは?菅さんは望月さんの突っ込んだ質問で、文書の存在を認めざるを得なくなったことを根に持っているんでしょうか。

南さん

望月: そんな昔のことが影響しているというよりも、私は2018年9月の沖縄県知事選以降、沖縄絡みの質問を重点的に聞いていました。沖縄の辺野古に造ろうとしている米軍新基地や南西諸島のミサイル要塞化は、政権のアキレス腱(けん)とも言われています。

そういう政権が嫌がるようなテーマを持って取材し、質問することが気にくわなかったのかもしれません。周りが何を言っても菅さんが「俺はあいつが嫌いなんだ」と言っているという話を人から聞きました。

あまりにも台本通りの会見になっている

浜田:安倍さんや菅さんはメディアをコントロールしたいという思いが、歴代政権に比べて強いと感じてますか?

南:以前から会見の司会役である官邸の報道室長が会見の1時間前に記者クラブを回って番記者に「今日はどんな質問するんですか」って探りを入れに来る。付き合いがあるから5問用意したうちの1問くらいは教える。勝負をかける時は、それを悟られないようにクラブには行かないようにするといった緊張感がありました。

今は望月さんの質問以外のほとんどはあらかじめ用意したペーパーを読んでいるように見えます。事前に質問を出せというプレッシャーをかけているんだろうと思います。

望月:2年前よりもひどくなっていますね。 私が会見に乗り出した時の官邸会見での記者たちとのやり取りと、現在の官邸会見でのやり取りを比べると、あまりにも台本通りにしか会見が行われていないようにも見えてしまいます。

南:(官房長官だった)町村さんや枝野幸男さん、仙谷由人さんは政策に精通していたし、どんな質問が来ても言葉で説明できて、答弁能力が抜群でした。菅さんはそういう素養があまりないように思います。

数問しか質問が出ず終わってしまう

浜田:国会での安倍首相も麻生財務相の答弁も、質問者に対して時に露骨に苛立ったり、薄ら笑いで返したり。反対意見の人に対して言葉で説明することを放棄している空気感が安倍政権全体に通底している感じがします。

一方で記者側はどうですか?

南さん

望月:かつてに比べると記者が追及する力は落ちているようにも見えます。ほどほどしか言わず、「この程度しかどうせ言わないよね」みたいな相場観が生まれているようにも見えます。

南さんはじめ、政治部の先輩記者たちに聞くと、以前は首相の番記者は質問する機会がたくさんあって、「次に何を聞こう」と常に考えて、どんな場でも「突っ込んでやろう」というマインドを持っていたと。でも今は記者たちが台本通りの会見に馴らされてしまっているのかも。

ある経済部の若手記者は財務省担当になった当初から、麻生大臣の閣議後の短いぶら下がりに慣れてしまい、たまに財務省の会見室で麻生大臣が時間を取り長めにやろうとしていた時、もっと聞けるのに、数問しか質問が出ずに終わっていた。「大臣会見ってこんなものかなと思った」と話していました。本来は、もっと活発に聞ける会見なはずなのですが。

記者の評価を変えないと会見で戦わない

国会

撮影:今村拓馬

南:背景は大きく2つあります。一つ目は総理という最高権力者に質問する機会がなくなったこと。小泉純一郎総理の頃から東日本大震災まではほぼ毎日質問する機会があって、政治記者1年目はこの場で鍛えられていました。最高権力者とやり合えなくなったことは政治記者にとってマイナスです。

二つ目は記者の評価基準。本来は会見で問いただして、そこで聞き出したことを評価するべきなのに、いまだにオフレコで独自情報を取ってきた人を評価して、みんなの前で聞くなんて愚かだという価値観がメディア側にある。ここを変えないと、会見が「戦いの場」にはならないんです。

浜田:望月さんはお子さんがいるから夜回りができない。だから昼間の記者会見で勝負すると、以前インタビューでおっしゃってましたが、筋が通ってますよね。

南:望月さん一人が目立つことへの記者の嫉妬もありますね。元はと言えば、周りの記者があまり追及しないせいで目立たざるを得ない状況になっているんですけど。嫉妬という日本社会的な感情が組織ジャーナリズムの中にあることは否定できません。

記者を守る仕組みがメディア界にない

望月さん

浜田:望月さん、「今回はしんどい」とおっしゃっていましたが、これまでとどこが違いましたか?

望月: 一番しんどかった時期は過ぎました。私のことを野党が国会で取り上げた時に、菅さんが顔を真っ赤にして怒っていたのを見て驚きました。

その後から、市民から「頑張れ」という声や「とんでもない!」という批判もあって。反応がぶわーーーって来て「渦中の人」になってしまった。取材依頼もたくさん来ましたが、通常の(自分の)取材もありましたし、東京新聞が社として抗議文に対する検証記事を出す前に、勝手なことは言えない。官邸の不当な申し入れ文書について自分自身の言葉で反論することができなかった。菅さんは国会でいくらでも答弁できるのにです。それがとてもしんどかったです。

南:東京新聞だけでなく、記者が誹謗中傷された時に記者を守る仕組みがメディア業界としてまだ整ってないんです。官房長官の会見のように動画配信されると出席している記者はさらされ、今後、誹謗中傷される機会は増えていくでしょうね。

浜田:個人として晒される機会は増えたのに、組織が記者を守る準備はできていない?

南:今は過渡期です。これからは例えばTwitterのフォロワーが10万人くらいいて、リスクをコントロールしつつ、不特定多数の人と対話できる人が編集局長になって、新聞業界のオピニオンリーダーになるというような価値観を確立していくべきでしょう。そういう実感がないと、会社が記者を守るということは難しいと思います。

質問制限で記者を分断していく

浜田:文書が出されたことで、ほかの記者の反応はいかがでしたか?

記者会見

REUTERS/Yuya Shino

望月: それまで官邸会見にさほど縁のない他社の社会部などの記者たちが、さすがにあの申し入れ書はひどいと会見場に来て質問していました。嬉しかったですね。会見での質問が「一問だけ」と制限されて、会見が5分で終わってしまった時は、ある記者が「(国会の)会期中とはいえ、もう少し聞けるはず。おかしいですよね」と言ってました。

浜田:東京新聞の対応はどうだったんですか?

望月: 朝日新聞や共同通信が、官邸の申し入れ書は「知る権利の弾圧だ」とする趣旨の記事や社説を書き、その後、北海道新聞や琉球新報、沖縄タイムス、報道ステーション、ニュース23、バズフィードなども取り上げてくれました。

東京新聞もこれまで官邸から受けた9回の抗議文について検証し、2月20日に記事を出しました。その頃、共同通信と朝日新聞の社会部の記者が会見で質問しましたが、朝日新聞の女性記者は1分程度なのに「質問は簡潔に」と2回も言われていました。その様子を見て、これだけ官邸の申し入れが問題視されているのに、官邸は質問制限で記者をどんどん分断していこうとしているんだなと感じました。

Twitterで拡散「一人じゃないんだ」

3月14日の集会

撮影:今村拓馬

南:今回の件を受けて、3月14日にメディア関連労組で官邸前集会を呼びかけたら、現役記者も含めて600人が集まりました。黙っていては官邸にどんどん押し込まれる。それを断ち切るためには現場の人が「これはおかしい」と自分たちの言葉で語るしかないんです。

望月:実はその集会の前日に上村秀紀報道室長による 「質問妨害」がぴたっと止まったんです。官邸側にもさすがに何か変えないとまずいという空気があったのかも。最近は地方紙の記者が会見で厳しい質問するなど、会見場の空気に変化も感じます。

浜田:望月さんは今、Twitterのフォロワー数は何人ですか?

望月:10万人を超えました。誹謗中傷もあるけれど、記者に限らず個人の価値観や思いを直接、発信できる時代になっていると思います。いろいろな人が見てくれてその人たちと双方向でつながっていける環境になりつつある。そういう意味で未来に希望を持っています。

記者会見では“一人でぽつん”で終わることがあっても、ネットで誰かが見てダイレクトにメッセージをくれたり、Twitterで会見のやりとりをツイートしてくれたりして、それが100や200もシェアされているのをみると、「一人じゃないんだ」と勇気付けられます。「頑張れ、東京新聞!!」と言って定期購読してくれる人もいてとてもありがたいです。

記者個人を商品化していくべき

浜田:新しいメディアが次々生まれる中でも、新聞には是非とも踏ん張ってもらいたいと思うんですけど、そのためには今後どうしたらいいと思いますか?

望月さん・南さん

望月さんによると、官房長官会見で厳しい質問をする記者が出るなど、少しずつ変化の目はあるという。だが、問題となっている官邸文書は今でも記者クラブに貼られたままだという。

南:新聞社でも署名記事が増えて、記者個人を商品化していくという流れが必要だと思います。これからは記者個人を応援してもらって、「その人が属しているメディアだから信頼する」という流れになっていくのかなと思います。望月さんはその一つのモデルです。

浜田:私も個人として価値を打ち出せない人は仕事がなくなっていくと思います。「この記者の記事を読みたい」と思われないと。

各自がテーマを持って取材していけば、テレビのコメンテーターとして呼ばれたり、さまざまなメディアから執筆依頼があったり、講演の依頼もある。そうすれば自信になるし新しい人脈もできる。そういう個が立つ人をどんどん生み出していかなければならないと感じます。

権力の追及や事実の掘り起こしに期待

映画「新聞記者」

映画「新聞記者」は6月28日より全国で公開される。

南:新聞社から外に出てみて、「メディアは開かれていない」「何か隠している」という不信感を持たれているということは感じています。

ただ一方で、権力に対する追及や事実の掘り起こしなど「記者としてやるべきことをやってくれよ」という期待も感じます。もちろん「ちゃんとやりたい」と言う若手記者も全国にいっぱいいるし、新聞労連で新聞社志望の大学生を集めた研修を東京と大阪で開くと、毎年合計100人は集まります。それに応えて、自分たちの働き方ややり方をあらためながら、彼らの期待に答えられるように次の仕掛けを出していかないといけないと思います。

望月:メディア志望の学生にメディアに何を求めているか聞くと、「権力をチェックする役目」と言われます。「マスゴミ」と 言れるような時代になっていても、メディアに求めている役割というのは変わらないのだなと思います。

浜田:それは希望ですね。

(構成・宮本由貴子、写真・竹井俊晴)


望月衣塑子(もちづき・いそこ):1975年生まれ。東京新聞社会部記者。千葉、神奈川、埼玉の各県警、東京地検特捜部などで事件を中心に取材。著書に『武器輸出と日本企業』『新聞記者』、南さんとの共著で『安倍政治 100のファクトチェック』など。

南 彰(みなみ・あきら):1979年生まれ。2008年から朝日新聞東京政治部、大阪社会部で政治を中心に取材。2018年から新聞労連に出向、中央執行委員長を務める。望月さんとの共著で『安倍政治 100のファクトチェック』がある。

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