子どもの病気呼び出し、なぜいつも母親?育休からの復職で募るモヤモヤ

発熱

小さな子どものいる共働き家庭で、子どもが体調を崩した時こそ、どう乗り切るか正念場だ。

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新年度が始まる4月は、育児休業からの復職ラッシュ。なんとか保育園を確保し、久しぶりの職場に戻った親たちに振りかかるのが、保育園からの「子どもの体調不良」の連絡だ。

乳幼児の集団保育で、発熱、下痢嘔吐と病気をもらってくることは日常茶飯事。しかし、共働き家庭でも「病気の時は母親の出番」となるケースは少なくない。仕事の責任があるのは母親も父親も同じ。病児担当はいつも母親って、どうなのか。

夫は小児医療費助成を知らなかった

「行ってきたよ。子どもの医療費ってけっこう安いんだね」

神奈川県在住の会社員、ナルミさん(32、仮名)は、発熱した長女(3)を小児科に連れて行った夫(32)が、発した言葉に絶句した。

ナルミさんの住む自治体では小児医療費助成制度により、就学前の子どもは原則、保険診療対象の医療費、薬代の自己負担分が助成され、窓口での支払いは生じない。ただ、助成を受けるためには病院の窓口で「医療証」を見せなければならないが、夫は存在すら頭に入っていなかったようだ。しっかりお金を支払って帰ってきた。

「私の出産後に、役所で制度の説明を受けたのは夫なのに。どうせ妻がやるからと、頭から抜け落ちていたようなのです」

ナルミさんは、呆れた表情で振り返る。保険証と医療証を一緒に渡していたのにもかかわらず、だ。

娘が生まれて3年間、息子が生まれて10カ月、実は夫が1人で病院に連れて行ったのはこれが初めてだった。

「自分でやればタダなのに」

ルンバ

共働き家庭において、ドラム式洗濯機、お掃除ロボット、食洗機があるのとないのとでは、負担はかなり違う。

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ナルミさんの夫はこの2月まで、24時間営業のコンビニエンスストアを経営していた。午前6時から翌日の午前1時まで、家族は夫不在の毎日。休日でも、アルバイトが休めば出勤せざるを得ない。

ナルミさんは完全なワンオペ(1人ですべての業務を回すこと)家事育児で、2人の子どもを育ててきた。

問題なのはその状態そのものというより、家事育児にノータッチの夫が「なぜ私が大変なのかを理解できなかったことです」。

ナルミさんは人材サービス会社でコーディネーターとして勤務。長女の育休明けの2017年5月にはフルタイムで復帰したが、8月には時短勤務に切り替えた。

「会社が遠いのでお迎えは定時に間に合わず延長保育。1歳の娘は疲れていつも機嫌が悪く、帰ってきて1人で家事育児して寝かしつけるを繰り返すと、疲れ果ててしまいました」

かわいくてたまらない子どもを育てるために必死で働いているのに、そのために子どもに辛い思いをさせて、一体、何をやっているんだろう ——。心が追い詰められた。

夫は「そんなに大変なら辞めてもいいよ、おれが頑張って働く」と言うが、「私が辞めたら生活できないのに」(ナルミさん)。

お掃除ロボットやドラム式洗濯機、食洗機など家電で家事を効率化したいと訴えても、「全部買ったら何十万円するの?自分でやればタダなのに、高すぎるよね」と、取り合ってくれなかった。

「自分がやったことがないので、働きながら小さな子を育ててる中での家事労働の負担を、低く見積もっていたようです」(ナルミさん)

10分間のお迎えだけ夫、残りはすべて妻

母子

育休中、母親が家事育児をすべて担うと、復職後も母親が1人で担当することになりかねない。

撮影:今村拓馬

そんな状況なので、子どもが病気になった際の担当は「当然のように私」。発熱や感染症の保育園からの連絡は、真っ先にナルミさんの職場(連絡先に指定)にかかってくる。

娘の通う保育園では「体調不良の呼び出しから1時間以内に迎え」というルールがあるが、ナルミさんの通勤時間は1時間以上。夫が経営するコンビニは保育園から10分。

とりあえず夫が保育園まで迎えに行き、ナルミさんの到着を待って、具合の悪い娘を引き渡す。そこからやっと、ナルミさんが病院に連れていく。「夫は本当に、迎えに行くのみ、でした」

そんな夫は2月に身内の事情でコンビニをたたみ、現在、転職活動中だ。これまでよりは家にいる時間が長くなり、初めて娘の発熱で病院に連れて行ったのが冒頭だ。

理解がないわけではないけれど……

病院

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「エクセルで家事育児の一覧表をつくって、その負担を指数化した上で、夫と分担しています。でも、子どもの病気だけは、なぜか自然と私の担当ですね」

都内のITベンチャー勤務のユリさん(41、仮名)は、システム開発の会社を経営する4歳年上の夫と共働きで、小学5年生の長男、3年生の長女、保育園に通う4歳の次女を育てている。

夫は「無理をしても誰も幸せにならない」と家事の一部を外注するなど、理解がある方だと思う。

だが、子どもたちが熱を出すなど病気になると、そのバランスは崩れていく。

今年の冬も、3人は順番に高熱を出した。必ずしも同時に発症するわけではないので、家で子どもを見なくてはならない日数は、積み重なっていく。

「夫ももちろん、みてくれるのですが、丸1日を休むことはありません。正午までとか。午後の2時間ならいいよ、とかですね」

ユリさんは職場に事情を伝え、子どもを連れて病院へ向かう。寝ている間に在宅でできる仕事はやるが、ミーティングや来客など延期や中止の調整は身がすり減る思いだ。

「子育てが仕事の足かせにならないように」

母子

お互いフルタイムだったとしても、夫婦の分担はさまざまだ。

撮影:今村拓馬

登園・登校停止期間の長いインフルエンザなどにかかった時などは、スケジュール調整は複雑なパズルを解くような困難さを極める。

熱が下がれば、ユリさんは病児シッターを手配。体調の悪い子どものそばにいてやりたい気持ちもあるが、登園・登校停止期間を連続で休む、しかも3人続くとなるとまず難しい。

こうした休む日の調整、職場への負担、シッターの手配、病児を預ける後ろめたさは「主に母親である自分が引き受けていますね」(ユリさん)。

在宅勤務ができる自分の方が休みやすいという事情もあるし、経営者の夫が多忙で仕事熱心なのも知っている。

「夫が仕事に打ち込めるように、子育てが足かせならないようにと。子どもを思うと同様に、夫を応援したいというのも正直な気持ちなので、頼みづらいんです」

フルタイム保育士の妻と完全分担

父子

妻の早番、遅番は、子どもとたった一人で向き合いワンオペ家事育児でもある。

撮影:今村拓馬

一方、「病児も平時も完全に夫婦で半々」という家庭もある。

エン・ジャパン人財戦略室のチームリーダー、森田俊さん(33)は、公立の保育園でフルタイムの保育士として働く妻(32)と、5歳長女、1歳長男を育てている。この4月、妻は長男の育休から復職したてだ。

妻の職場はシフト勤務制で、通常勤務に加えて毎週1〜2回ずつの早番、遅番がある。早番の日、妻は午前5時半には家を出る。遅番なら帰宅は午後10時近く。妻の早番と遅番の日、森田さんはまさに「ワンオペ育児」だ。

妻が早番の朝は森田さんが子どもを起こし、朝ごはんを食べさせ、着替え歯磨きを済ませて、2人の子どもを園まで連れて行く。お迎えから寝かしつけは妻。

妻の遅番の日はお迎えから夜が森田さんの担当だ。この日は残業しないと決め、午後6時には会社を出る。晩ごはんも用意して、寝かしつけまで一人でやる。

泣きわめく長女に自分も泣きたい

なく子ども

送迎で子どもが泣きわめくのにも理由があるというが、それと1人で向き合うのはなかなか大変だ。

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しかし、この一連の流れがほとんど毎回、スムーズに行かないのが子育てだ。

「ご飯を食べない、自転車に乗らない、お風呂がイヤなど、虐待されているのかというようなギャーッという泣き声でわめいて一歩も動かなくなる。一刻も早く出たい朝など、僕も泣きたくなります」

慣れないうちはしばしば、泣きわめく娘の写真を妻にLINEで送り、「なんで泣いているのかわからない」と相談した。

「娘には本人なりのルールやルーティーンがあって、石を拾う道を通りたかったり、お風呂では全部洗ってからでなければ流したくなかったり。それができないと、怒って泣くのだと、妻からは教えてもらいました」

妻の最初の育休明けは特に、2人きりという状況に父娘共に慣れていなかった。前の晩から「明日、お母さんいないよ」と娘に言って聞かせるが、朝になると娘はやっぱり「ママがいい!」と泣き出す。

「慣れるまで、ひとりで娘をみるのは本当に孤独でした。育児ノイローゼになる女性の気持ちがわかります」

子どもの結婚式で涙を流せる父親でいたい

森田さん

森田俊さん(33)は、フルタイムの妻と家事育児はほぼ半々だ。ワンオペの大変さも、骨身に染みている。

撮影:滝川麻衣子

そんな森田さんの家では、子どもが病気の時も当然、完全に分担している。保育園からの呼び出しには、森田さんが仕事を抜けて病院に連れて行くことも当然ある。

そのあと、例えばインフルエンザなど5日間の登園停止の時の分担はこうだ。

  • 初日→夫婦で半休(交替で出勤)
  • 2日目→どちらかが休む
  • 3日目→夫婦で半休(交替で出勤)
  • 4日目→関東地方在住のいずれかの親に頼む
  • 5日目→同じく

職場は理解があるとはいえ、日によって残業も生じる。完全な家事育児分業はたしかに大変だ。

けれども森田さんは言う。

「産後の復職が時短だと職場(保育園)が大変になるからフルタイムで戻りたい、という妻を応援したい気持ちがありました。子どもをもつタイミングまで、妻は『行事が終わってから産休に入りたい』と、考えて産んでいた」

妻が仕事に誇りをもって働いていることは、一番理解しているつもりだ。お互いがフルタイムである以上、平時も病児も完全分担は、夫婦にとって「自然」なことと言う。そして、自分のためでもある。

「子育ては子どもとどれだけ接点が持てるかだと思うんです。子どもの結婚式で、涙を流せる父親でいたい」

病児呼び出しの第一連絡先はだれ?

スマホ

仕事をどう調整するか。誰が病院につれて行けるのか。どのくらい体調が悪いのか。保育園や学校からの呼び出しを最初に受けた人が、判断しなくてはならないことは多い。

撮影:今村拓馬

「子どもの病気は妻にまかせているから、そういう気持ちを聞くと申し訳なく思う」

前出のユリさんが会社のビジネスチャットに「熱のある子どもを預けて働く罪悪感」について書き込んだ時、そんなコメントが社内の男性からついた。社内では妻が専業主婦でも「子どもを病院につれていくので遅れます」という30代男性も出てきている。

「変化は少しずつ、でも確実に起きていると思います」と、ユリさんは言う。

前出のナルミさん夫婦にも変化が訪れている。5月の大型連休明けに、ナルミさんは現在10カ月の長男の育休を終え、復職を控えている。

保育園に入りたての子どもは、体調を崩しやすく呼び出しも多い。

「その時は転職活動中の夫を、一番目の(保育園からの)連絡先に指定しようと思うんです」

コンビニをたたんでから、家事育児に初めて本格的に関わるようになった夫は、こう言った。

「こんなに毎日が大変なら、ドラム式洗濯機は高くないね」

(文・滝川麻衣子、写真はイメージです)

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