400年という日本最古の歴史をもつ劇場、京都の「南座」がDJブースとダンスフロアに変わる。 その名も「京都ミライマツリ2019」。イベント期間中はきゃりーぱみゅぱみゅによるライブのほか、プロジェクションマッピングやARなど、最新のテクノロジーを駆使した体験型コンテンツが楽しめるという。
仕掛け人である、松竹の迫本淳一社長に話を聞いた。
最古の劇場で最先端のエンタメを
記者会見に登壇したきゃりーぱみゅぱみゅさん(左)と、片岡愛之助さん(右)。
撮影:今村拓馬
「京都ミライマツリ2019」は、アーティストがライブを行う「音マツリ」、プロジェクションマッピングの納涼滝などが楽しめる「昼マツリ」、そして南座初となるナイトエコノミーに注目したDJイベントの「夜マツリ」の3部構成だ。
南座は国の登録有形文化財に指定されている。 3月26日に東京・歌舞伎座タワーで行われた記者会見で、迫本社長は「最古の劇場で最先端のエンタメをやる」と、その意気込みを語った。
「敷居を低くしますので、気軽に来ていただきたいです。(歌舞伎の)『顔見世』興行に次ぐ、風物詩にしたいと思っています」(迫本社長)
昼マツリのイメージ。
提供:「京都ミライマツリ2019」PR事務局
床が舞台と同じ高さになる「客席フルフラット化」をいかして、京都の夏の名物「納涼床」をプロジェクションマッピングで再現するほか、片岡愛之助さん扮する石川五右衛門がARで浮かび上がったり、テクノロジーを使って射的遊びができる「デジタル屋台」など、「インスタ映え」(迫本社長)はもちろん、子どもから大人まで楽しめる仕掛けが数多く設けられている。
「おじいちゃんおばあちゃんがいつも行っている歌舞伎座に、お孫さんがいくような」イメージだという。
ターゲットは子どもと海外
松竹の迫本淳一社長。
撮影:今村拓馬
松竹の基幹産業は歌舞伎・演劇、そして映画などの映像事業だ。迫本社長はBusiness Insider Japanの取材にこう断言した。
「歌舞伎や演劇は客席数に限りがあり収益の上限がある一方で、下限はないためリスクが高い。常にマーケットを広げる努力が必要」
今のコアな歌舞伎ファンは、幼少期に何らかの方法で歌舞伎に触れていることがデータでわかっているという。 人気漫画「ワンピース」を題材にした歌舞伎や、歌舞伎座の再開発の際、ギャラリーの観覧窓から公演の様子を見られるようにしたのもそのため。
今回の「京都ミライマツリ2019」も、若年層へのアプローチを目指したものだ。
アメリカ・ラスベガスにあるMGMリゾーツ「ベラージオの噴水」。
GettyImages/Gabe Ginsberg
そしてもう1つ、これから注力する事業として迫本社長は「海外」を挙げた。鍵となるのは「ローカライズ」。
ラスベガスでの公演では、演目の「鯉つかみ」とラスベガスのシンボルの1つ「ベラージオの噴水」を融合させ、当初は「3〜4万人集まれば成功」と言われたところを約10万人の観客を集めたという。
松竹は、国内での興行では国からの寄付や助成金など一切の支援をもらっていないそうだが、海外では人や物の移動費などがかかるため、「日本文化の発信」という大義で国から助成を受けている。
「将来はベラージオの噴水のように徹底したローカライズをして、興行収入だけで儲けるようにしたい。それで初めてマーケットを拡大した、と言えると思います」(迫本社長)
社員からの批判にどう応えるか
東京・銀座の歌舞伎座。
撮影:今村拓馬
元弁護士という異色の経歴を持つ迫本さんが松竹の社長に就任したのは2004年。1990年代後半に多額の負債に苦しみ、巨額の赤字に転落した同社を建て直したのが迫本さんだ。
以来、経営面だけでなく、マーケットを広げるためのさまざまな改革を行ってきた。安定収益を得るために歌舞伎座にオフィスビルを建てたときも、今回のテクノロジーを駆使した「京都ミライマツリ2019」も、伝統を担ってきた企業だけあって、新しいことを始めるときは常に批判の声があったという。
「『そんなことまでする必要があるのか?』という批判的な声は、役員レベルからヒラ社員まで、社内のどの層でもあります。説明するときにいつも言うのは『古典のエキスを薄めずに、拡散させていく』んだということです」(迫本社長)
改革を進めるためには、反対する人も含めてみんなの利益になるんだと繰り返し説明し、実際に結果を出すしかなかったという。改革に批判的だった社員たちが変わったターニングポイントは、歌舞伎座の再開発の成功だった。
挑戦する人材を育成する場に
撮影:今村拓馬
迫本社長はこれからの松竹に必要なものとして「コンテンツ力の強化」を上げた。
「ネットが発達して作り手と受け手が直接つながるようになった今だからこそ、作り手である私たちにはさらに強いコンテンツ力が必要です。そのためには新しいことに挑戦する人材をどれだけ育てられるかが鍵だと思っています。 人材教育の場としても、今回の南座のような試みは最適です」(迫本さん)
「京都ミライマツリ2019」に関して、迫本社長自身は細かい指示を出していない。社員たちが「このテクノロジーを使いたい」「このベンチャー企業と組みたい」と、1つ1つアイデアを形にしていったのだという。
松竹は経営不振から、しばらく新卒の採用を止めていた時期がある。再開したのは2001年。Business Insider Japanで報じた銀座での「インバウンドツアー」の発案は、再開以降に入社した若手社員の発想によるものだ。
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「演劇が好きな人だけではなく、体育会系や一山当てて儲けてやるという“胡散臭い”ヤツもいる方が多様性があって面白いと思います。1度失敗しても、何度か挑戦の機会を用意してあげたい」(迫本社長)
伝統芸能とテクノロジーを融合させた「京都ミライマツリ2019」は4月30日〜5月25日まで。
(文・浜田敬子、竹下郁子)