タイ北東最大の都市、ナコーンラーチャシーマーのセブンイレブン店舗。同社発展のカギを握るのは海外での利益確保戦略だ。
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セブンイレブンなどを運営するセブン&アイ・ホールディングスが4月4日に2019年2月期決算を発表した。ポイントは以下の通り(水準はいずれも2018年通期との比較)。
- 売上高に当たる営業収益 6兆7912億円(第一生命HDと同水準)
- 本業のもうけを示す営業利益 4115億円(デンソーやブリヂストンと同水準)
- 株主に帰属する当期純利益 2030億円(キーエンスや東京エレクトロンと同水準)
セブン&アイ・ホールディングスの2018年度、事業別営業収益・営業利益の増減。
出典:セブン&アイ・ホールディングス 2019年2月期決算説明会資料
大まかに言うと、そごう・西武などの「百貨店事業」は売り上げが落ちたり閉店したりが相次ぎイマイチだった。
しかし、セブンイレブンなど「コンビニ事業」は絶好調で、とくに2017年に買収した米スノコ(コンビニ、ガソリン事業)を含む海外のコンビニが大きく売上を伸ばし、結果として2018年2月期決算を大きく上回る売上と利益を叩き出した。
売上高は圧倒的に海外、利益は国内が叩き出す
セブン&アイ・ホールディングスの2018年度、事業(セグメント)別営業収益。
出典:セブン&アイ・ホールディングス 2019年2月期決算説明会資料
各事業を営業収益(10億円以下四捨五入、以下同)で比べてみると、
- 国内コンビニ 9550億円(日本と中国などのセブンイレブン、)
- 海外コンビニ 2兆8210億円(北米などのセブンイレブン)
- スーパー 1兆9030億円(イトーヨーカ堂やヨークベニマルなど)
- 百貨店 5920億円(そごう・西武)
と、海外コンビニの売上高は、国内のセブンイレブン、イトーヨーカ堂、ヨークベニマルなどを足し合わせたのと同じくらいの規模にまで達する。
セブン&アイ・ホールディングスの2018年度、事業(セグメント)別営業利益。
出典:セブン&アイ・ホールディングス 2019年2月期決算説明会資料
しかし、本業のもうけを示す営業利益で比べると、
- 国内コンビニ 約2470億円
- 海外コンビニ 約920億円
- スーパー 約210億円
- 百貨店 約40億円
圧倒的に国内のセブンがもうけを出しているのがわかる。
ちなみに、セブン銀行の営業利益は約530億円で、すでにスーパーと百貨店、赤ちゃん本舗やロフトなどの専門店を足した以上のもうけを出している。セブン&アイ・ホールディングスの事業の柱は、コンビニと金融であると言って差し支えない。
ただ、この国内コンビニ事業の利益が、「本部だけが馬鹿みたいに利益を出して、加盟店が苦しんでいる。おかしくないですか。公正な所得配分を考えてほしい」(セブンイレブンジャパンのフランチャイズ店オーナー、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」4月8日放送より)といういびつな営業体制のもとで生み出されていることは、リスク要因として特記しておく必要があるだろう。
アメリカのセブン店舗が勢い増す
創業の地、米ダラス近郊にオープンしたセブンイレブンの実験店舗。左手前にテラス席が見える。
Courtesy of 7-Eleven via Business Insider US
セブン&アイ・ホールディングスの躍進を支える海外コンビニ事業について、海外メディアの最近の報道から、その直近の展開を見ておきたい。
流通専門誌チェーンストアエイジは3月27日、米テキサス州ダラスにセブンイレブンの実験店舗がオープンしたことを報じている。日本でもコンビニ各社が実証実験を進めているスマホ決済レジや、テラス席、イートインスペースが導入され、店舗調理のトルティーヤ、クラフトビール、オーガニックティーなどを楽しめる。
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同誌によると、セブンイレブンは2019年中にダラス近郊でもうひとつ実験店舗をオープンさせる予定で、カリフォルニア州サンディエゴとワシントンD.C.でも新たな計画が持ち上がっているという。なお、ダラスはセブン&アイ・ホールディングス傘下に入る前のセブンイレブン(の前身)創業の地。詳細は米Business Insiderが4月2日に報じている。
アメリカで数年前から人気上昇中の「コンブチャ」。茶を発行させた発泡飲料で、写真のRevive KOMBUCHAのラインナップを北米セブンイレブンでも取り扱うことに。
Revive KOMBUCHA ウェブサイトより編集部キャプチャ
また、変わったところでは、セブンイレブンがある飲料の取り扱いを開始したことを、カリフォルニア州のノースベイ・ビジネスジャーナルが報じている。
ある飲料とは「コンブチャ(Kombucha)」。
日本の昆布茶ではなく、茶を発酵させた発泡飲料で、アメリカではここ数年ブームになっている。これまでコンビニ店頭では全販売量の3%ほどしか扱われていなかったが、全米最大8000店舗のセブンイレブンでの取り扱いが始まることで、販売量の大きな伸びが期待されるそうだ。(一度は破たんしたものの)米セブンイレブンの店舗網の影響力が回復あるいは伸長していることが、うかがい知れる。
ついに巨大市場インドに進出
インド・ニューデリー郊外にある巨大病院内のコンビニ。経済成長とともに、富裕層向け店舗など、市場の差別化競争が激しくなっているようだ。世界最大手セブンイレブンはこの市場で戦えるか。
REUTERS/Anindito Mukherjee
北米以外への進出にも注目だ。
インドのビジネススタンダード紙は3月25日、セブンイレブンがインドでコンビニ事業を展開するSHMEフードブランズとフランチャイズ契約を結び、同国最大の都市ムンバイにセブンイレブン店舗をオープンさせると報じている。進出の初期フェーズとして(既存コンビニの看板掛け替え含めて)8店舗を予定しているという。
現地では、コングロマリット最大手のリライアンス・グループが展開する「リライアンス・スマート」や、量販チェーンの「ディー・マート」、コングロマリット大手のモディ・グループが展開する「トゥエンティーフォー・セブン(24 Seven)」などがしのぎを削っている。セブンイレブンはライバルを押しのけてインドの市民生活に浸透できるのか。
いずれにしても、人手不足や過剰出店、それが生んだきしみとしての24時間営業問題で揺れるセブン&アイ・ホールディングスにとって、国内コンビニ事業のリスクヘッジとしても、海外事業拡大の成否は今後ますます大きな意味を持ってくるだろう。
(文・川村力)