スターバックスとLINEは2018年11月に明らかにしていた提携の詳細を2019年4月8日、発表した。
スターバックス コーヒー ジャパン(以下、スターバックス)とLINEは4月8日、スターバックスがLINE上で行なうバーチャルカードや公式アカウントの取り組みなどを発表した。
スターバックスとLINEの業務提携は2018年11月に明らかになっており、2018年12月からは新宿の店舗を中心にLINE Payの試験導入を行っていた。
4月8日に発表になった内容は以下の3点だ。
- LINEのかんたん登録で“スター”(スターバックスカードで貯まるポイント)を受け取れる「LINEスターバックスカード」が4月8日より発行開始
- LINE上でスターバックスの公式アカウントが4月8日よりスタート
- 2020年夏過ぎを目処に、国内のスターバックスの原則全店舗においてLINE Pay(コード決済)が順次導入
スタバライトユーザーを狙うLINE上の会員カード
今回登場したLINEスターバックスカードのユーザー体験は、従来のスターバックスカード(コード)で提供されていたものとほぼ変わらない。
とくに両社が“世界初の試み”とうたうのが「LINEスターバックスカード」だ。
スターバックスカード自体は、従来までも店頭やモバイルアプリなどで発行でき、スターバックス店頭で使えるプリペイド(前払い)型のキャッシュレス決済手段のこと。LINEスターバックスカードとは、このスターバックスカードをLINEアプリ上で発行できるというものだ。
スターバックスによると、スターバックスカードはキャッシュレス手段としては、アメリカの普及度において「Apple Pay」に匹敵するともいう。中国では微信支付(WeChat Pay)や支付宝(AliPay)でも決済できるが、今回のLINEとの取り組みのように、他社のプラットフォーム上に自社の決済手段を持ち込んだ例はないという。
LINEスターバックスカードの登録時、My Starbucksへの会員登録があるかどうか聞かれる。ある場合は、スターバックスカードの1つとしてLINEスターバックスカードが登録される。
また、LINEスターバックスカードは、通常のスターバックスカードとは異なる点がいくつかある。主な違いは以下の通りだ。
- 新規登録時、IDやパスワードの設定は不要
- 発行後は自動的にスターバックス リワード(会員プログラム)の準会員として、スターを貯められる
- LINE上のチャージではLINE Pay(オンライン決済)のみが利用できる(店頭チャージは対応)
筆者は4月8日以前からのMy Starbucks会員だが、LINEスターバックスカードを登録すると、しっかり自分のカードの1つとして表示された。
注目は、LINEスターバックスカードは最初から会員プログラム「スターバックス リワード」に登録される点だ。ただし、LINEでの発行だけでは“準会員”という扱いになり、決済ごとにインセンティブの単位となる“スター”は貯まるが、そのスターを交換することはできないという。
2杯目のコーヒーを100〜150円(税抜)で買える「One More Coffee」などの特典は準会員でも適用されるが、貯まったスターを飲み物などに引き換えできる「Reward eTicket」に交換するにはスターバックスのホームページで正式登録が必要というわけだ。
スタバは今リーチできていない人をファンにしたい
スターバックス リワードの国内会員登録数は2019年3月末時点で330万人。
今回の発表内容を冷静に見てみると両社それぞれの狙いが浮き彫りになってくる。
スターバックス側の狙いは大きく分けて「会員プログラムの活性化」と「キャッシュレス決済対応拡大によるオペレーションの改善」だ。独自のキャッシュレス決済(スターバックスカード)もあるため、どちらかと言えば、主な目的は前者だ。
スターバックス リワードはスターバックスのヘビーユーザーにとっても既に周知のものだが、ライトユーザーにとってはリアルカードやモバイルアプリを手に入れ、IDやパスワードを取得する必要があるなど導入のハードルが高い。
スターバックス コーヒー ジャパンでデジタル戦略本部長を務める濱野努氏。
しかし、LINEスターバックスカードではただ使う・貯めるだけであれば面倒な手続きがほぼないためライトユーザーでも手軽に利用できる。特典と交換できるほどスターバックスを利用しているのであれば、本会員への登録の手間をかける魅力もでてくるというわけだ。
実際、スターバックスでデジタル戦略本部長を務める濱野努氏は発表会で、「現在リーチしているお客様以外にもリーチができると思っている。ポジティブなインパクトを期待している」と、LINEの持つ月間約7900万人のアクティブユーザーへアプローチできることを狙いの1つに捉えていた。
LINEは複数サービスを活用した成功例を確立したい
デジタルコミュニケーションを得意とするLINEが、スターバックスと組んだ理由は?
では、LINE側の狙いは何か。大きく分けると「キャッシュレス事業の促進」「LINEプラットフォーム活用のモデルケースの確立」にある。
キャッシュレスの促進は、日々日本国内を騒がせているLINE Payの利用シーンの拡大のことだ。スターバックスの2018年12月末時点での国内店舗数は1415カ所、これらすべての店舗で原則的にLINE Payのコード支払いが対応となる。
2018年12月から試験導入時には「LINE Pay据置端末」を利用したユーザースキャン(店舗提示型)が採用されていたが、今後全国展開時にはPOSと連動したストアスキャン(利用者提示型)が採用され、まさに本格導入といった様相となる。
LINEスターバックスカードを登録したと同時に友だち追加された、スターバックスのLINE公式アカウント。
しかし、LINEにとって真に重要なのは後者の「モデルケースの確立」だろう。
今回の取り組みの1つであるスターバックスのヘLINE公式アカウントは、キャンペーンなどの告知以外にも、ユーザーそれぞれや時間帯、場所に応じたオススメの飲み物やカスタマイズをレコメンドするなど、パーソナライズ化したメッセージの送信が予定されている。
情報ソースの1つとなるのが、LINEスターバックスカードでの購買データだ。どのスターバックスで、どの飲み物を、いくらで買ったか? そのような情報がスターバックス内に蓄積され、ユーザーの好みや利用頻度の高い店舗の情報を提供できるというわけだ。
LINEスターバックスカードで得られた購買データは、スターバックスのLINE公式アカウントに活かされる。
メッセージサービスを中心に決済サービス・LINE Pay、自社独自の広告システム、「Clova」などに代表されるAI・音声分析の研究事業を持つLINEにとって、このような複合的な施策は得意分野だ。しかし、発表会でLINE社長の出澤剛氏は「(スターバックスの例のように複数のLINEサービスを)統合して利用できる例は少ない」と現状について語っている。
スターバックスのような知名度、規模ともに巨大な企業が、LINEの一気通貫のサービスを利用して効果が出れば、今後他社へ営業を進める上で大きなアドバンテージになるだろう。
写真左からLINE社長の出澤剛氏、スターバックス コーヒー ジャパンCEOの水口貴文氏。
また、今回の発表には含まれなかったが、スターバックス コーヒー ジャパンのCEOである水口貴文氏はスマホで注文し店頭で受け取れる「モバイルオーダー」の機能については、「まずは、独自のプラットフォームで2019年上期にローンチする」と口にしていた。今回の決済およびマーケティングの取り組みのように、モバイルオーダー機能も独自開発の後にLINE上に乗ることがあるのだろうか。
(文、撮影・小林優多郎)