週3回たった1時間の「時短部活」の僕らはなぜ、ラグビー全国大会に行けたのか?

2018年12月末、東大阪市花園ラグビー場で開催された全国高校ラグビー大会。そこに3年ぶり5回目の出場を果たした強豪校が、静岡聖光学院高等学校ラグビー部です。

しかし、その練習風景はいわゆる “強豪校” のイメージとは180度異なります。通常練習は週3回の60〜90分のみ。週4回は休養日と、驚くべき「時短部活」なのです。

さらに、2018年9月には部員主導で、自分たちと同様に限られた時間のなかで成果を出している学校を集め、そのノウハウを共有する「効率性・主体性部活動サミット」を企画。クラウドファンディングで開催に漕ぎ着けました。

果たして、短時間の部活動でいかに効率的に練習を行い、大きな成果を挙げているのか。そしてなぜ、生徒のみの主体的な取り組みが実現できたのか——

その中心人物である静岡聖光学院高等学校3年生でラグビー部員の風間悠平さんのお話には、ビジネスの組織づくりに活かせるヒントが詰まっていました。

ラグビー部の部員の皆さんと風間さん

PROFILE

風間悠平:静岡聖光学院高等学校 3年生 ラグビー部 オフ・ザ・グラウンド・リーダー

写真中央。制服姿が風間さん、その他高校3年生の部員のみなさんとご一緒に撮影。「オフ・ザ・グラウンド・リーダー」として部員たちの部活時間外における生活態度の改善に努めることで、練習の質向上に貢献。風間さんと同様、他の部員のみなさんにも各々の役割があり、その責任者として活動している。

監督は部員たちにすべてまかせてくれる

——普通、こういった取材には監督が同席されたりするものですが、風間さんお一人なんですね。

風間悠平さん

そうですね。佐々木(陽平)監督は、基本的に僕たちにまかせてくださっていて、練習と試合のとき以外はほとんど来られません。練習内容も、僕らから「こういう練習をさせてください」という意見に対して、反対されることも特にありませんし。監督と僕たちのやりたいことが一致していて、特に意見が食い違うこともないんです。

——体育系の部活だと、放課後暗くなるまでみっちり練習、土日も練習や遠征で、まとまった休みはほとんどない。大会前は始業前に早朝から集まって重点的に練習……といったイメージがあるのですが、静岡聖光学院のラグビー部では、かなり時短で活動されているんですね。

部活動の時間は火曜・木曜・土曜日の週3回で、各60分、最大でも90分です。時間が限られているぶん、どれだけ効率的に練習できるかどうかを考えて、そのために何ができるかをいろいろと試していった結果、今のような体制になっています。

でも、これは僕らだけでなく他の部活も同じで、学校ができてからずっとそうなんです。聖光学院は文武両道。部活のせいで勉強に身が入らなくなったり、勉強のせいでが部活に身が入らなくなったり、どちらかがどちらかの言い訳になってはいけないだから、効率化しているんです

——ラグビー部の部員構成は?

静岡聖光学院高等学校3年生の皆さん

1年から3年生まで60名弱いて、監督やトレーナーなどコーチ陣が10名くらいいます。僕は「オフ・ザ・グラウンド・リーダー」を務めていて、そのほか、キャプテン1名、バイス・キャプテン2名、主体性リーダーとクラブリーダー(海外チームとの渉外担当)が1名ずつの計6名がリーダー陣として担当しています。また、ほかにもスクラムリーダーやラインリーダーなど、試合中のプレイごとにリーダーがいて、アナリストとしてデータ分析する人もいます。

——「オフ・ザ・グラウンド・リーダー」とは、どういった役割なのですか。

オフ・ザ・グラウンド・リーダーは名前通り「グラウンド以外のすべてを担当するリーダー」のことで、勉強や環境整備、整理整頓、挨拶など、グラウンド以外のことを大切にしていこうという意識のもとにやっています。通常練習が60分しかないぶん、それ以外でできることをできる限りやることで、練習のはじめから集中できるような体制を取ろうとしています。

——それぞれの役割分担もとても特徴的ですね。どのように選ばれたのですか。

2017年の11月に新チーム体制を作るということで、それぞれ推薦されて、投票で選ばれました。役職自体も「こういう役職があったほうがいいんじゃないか」とか、みんなで話し合って決めています。今は花園に向けて練習に取り組んでいて、その後はまた新チームに引き継ぐことになると思います。

——校舎にも垂れ幕がかかっていましたが、全国高校ラグビー大会の静岡県代表として勝ち上がったんですよね。おめでとうございます。

校舎にかけられた全国高校ラグビー大会出場を示す垂れ幕

ありがとうございます。静岡県にはさまざまなタイプのチームがあって、戦術に対応するのが難しいんです。チームに合わせてタックルをどう仕掛けるか、タッチポイント(接点)をどうするか自分たちで話し合って、考えながらやってきました。

——限られた時間の中で大会を勝ち進むだけの実力をつけるには、かなり工夫が必要ですよね。

練習では、とにかく効率的にやるのを徹底しています。60分ってあっという間ですけど、それこそ61分やったら倒れるくらいの密度で練習するんです。

ホームルームが終わったら、ダッシュで着替えてダッシュでグラウンドに行って、10分でも15分でも長く自主練習して。それで、全体練習の冒頭5分で映像を観て、その日にどんな練習を行うのか、どう対策を取るか、短時間で把握できるようにしています。映像の内容は、自分たちの課題や練習、次に対戦する相手の分析など、どんな映像を観るかはアナリスト担当が監督やコーチと話し合って決めています。

また、練習の合間にも、給水のところまでダッシュで行き、そこでもミーティングをするようにしていて、水を飲みながら、直前にやった練習の反省点や振り返り、次にやる練習のポイントなどを話し合います。

——進行役はどなたが務めるのですか。

決まっていません。誰が進行してもできるようにしています。「フィックス」というやり方で、各練習のあと、「レディ、セット」とみんなで声をかけて、1分くらいで話して終わります。

部員が円になって話している様子

——練習時間は、それだけですか?

あとは、昼休みに基本的に毎日選手だけで集まって、昼食を取りながらミーティングを行っています。通常練習のときに観られないような長い映像を観ながら、相手の分析をしたり、僕たちの戦略を立てたりします。

ただ、試合がないときは勉強優先する人もいるので、そこは話し合って調整しています。あとは、練習日以外に自主練をするかどうかですが、そこもみんなそれぞれです。部室にジムみたいな設備があるので、ウェイトトレーニングする人もいれば、週4日全部勉強にあてる人もいます。

——休日を全部勉強にあてて、まったく練習しない人に対して、「もうちょっと頑張れよ」とはならないんですか?

ならないですね。それで怠けているとは、思われないです。あくまで一番は勉強で、部活は二の次くらいなので。逆に、自主練ばっかりしてる人は「大丈夫?」ってなります。

一人ひとりが必ず何かの「リーダー」

——一人ひとりが主体的に、そして効率的に取り組んでいることが伺えます。しかも、時短部活で成果を挙げている他の学校も招いて、「効率性・主体性部活動サミット」を主催されたんですよね。これは、どういった経緯で始めたのですか?

やっぱり、僕たちは部活の時間が限られているので、グラウンド外でも学んでいかなくてはならないな、と考えていたんです。そんなとき、監督が広島県立安芸南高校のサッカー部のことを教えてくださって。安芸南高校では、選手たちが主体的な取り組みをすることで、成果を挙げていると知ったんです。

広島県立安芸南高校のサッカー部の方々との写真

生徒だけで行った視察の様子

それで、リーダーの6人だけで視察に行きました。事前にアポを取って、安芸南高校の監督や選手たちに話を聞いて。自費でしたし、僕たちバイトもしていないので、貯金をはたいて結構痛かったんですけど(苦笑)。だけど彼らが主体的にやっている姿を見て、僕たちの練習ももっと効率が良くなるはずだって確信したんです。

もっと他の学校の事例も共有できれば、お互いのためにもいいんじゃないか、と。それで、サミットを開催することにしました。

——サミットを開催するために、クラウドファンディングを始めたんですよね。

とにかく資金を集めないとどうにもならないので、それしか手段がなかった、というか。2月にサミットをしようと決めて、5月からクラウドファンディングを始めて、100万円という目標を設定したものの、正直ちょっと難しいかな、と思っていました。でも、地元の新聞社が取り上げてくれたり、安芸南高校の監督がSNSで紹介してくださったりして、120万円集まったんです

——大幅達成ですね。

クラウドファンディングの達成画面

それだけ必要とされてるんだ、と実感しました。基本的に動いているのは僕がメインだったので、それからの準備も大変だったんですけど、サミットに賛同してくれたサッカー部とか、2年生の後輩とか、有志が20名くらい集まってくれて、みんなで協力して運営することができました。参加校もネットで調べて、直接アポ取って……7月開催の予定が、急遽9月に延期せざるを得なくなって、それでまた一から参加校を洗い出して。結果的に5名の登壇者と僕ら含めて6校が参加することになりました。

——サミットの成果は?

サミットの様子

サミットに集った参加者のみなさん

やっぱり、どの部活も練習時間が短いぶん、どうやって技術面を補うのかという課題に取り組んでいて、本当にいろいろと工夫されていました。特に参考になったのは、安芸南高校の「3S活動」で、整理・整頓・清掃を練習前に行うことで、頭がリフレッシュされて、練習の最初から集中力の高い状態で入れるんです。

それと、「一人1リーダー制」もサミット後に始めたのですが、「給水ボトルのリーダー」とか「ボールリーダー」とか、細かいこと一つひとつにリーダー制を置いて、みんな必ず何かのリーダーを務めているんです。そうすると、いろんなことに気づけるようになってきました。ラグビーという競技自体、小さなスペースを見つけて突破していくスポーツなので、いろんなことがプレイにつながっている実感があります。

逆に、僕たちのフィックスを藤枝順心サッカークラブが取り入れてくれたみたいで、「ミーティングがうまくいくようになった」と聞いています。他にも、参加してくれた人がそれぞれの発表を活かしてくれているみたいで、本当にやって良かったです。こうして取材を受けたり、新聞やテレビでも取り上げてもらったりして、僕たちの活動が参加校だけでなくいろんなところに広がっていっている手応えもあります。

「やらされ感」で実行するのは意味がない

——風間さんは、長時間練習することが常態化している部活をどう思いますか。

お話中の風間悠平

長時間練習することは、決して悪いことではないと思うんです。長時間、質の高い練習ができれば、それだけ勝利できる確率も上がります。ただ、長時間やることで何か犠牲になる部分もあることは確かです。

僕自身、小学生のころまではリトルリーグで野球をやっていたんですけど、夜8時9時くらいまで練習するのが当たり前でした。中学校からラグビーを始めて、最初は60分とか90分って物足りないなと感じていたんですけど、長時間やるよりも集中できるし、効率もいい気がします。

——試合や大会などで他のチームと一緒になることもあると思いますが、同世代からの反応は?

「60分でいいとか、ズルいなー」とは、言われますね(苦笑)。県選抜のチームに呼ばれると、他の高校と同じように2時間3時間練習するのが当たり前ですから。

——そこで「うちみたいに短時間で効率的に練習しよう」と呼びかけることはないのですか?

僕たちがそれを言うと、トップダウンになってしまう気がするんです。トップダウンだとどうしても「やらされている」感覚になりますし、逆に僕がそう言われたとしても、やる気が失せる気がします。ただ、自分たちで気づける土台づくりができたらいいなと思っていて、あまり整理整頓ができていなかったので、僕たちで片づけたりしていました。それで、じゃあ他校も真似してみようかな、となるのが理想ですね。自分たちで気づけると、新しい発見がありますし、楽しいじゃないですか。

お話中の風間悠平さん

——「こうしろ」と指示するのではなく、背中で示す、ということですね。

ラグビー部の活動として、普段から教室を整理整頓したり掃除したりしているんですけど、他の部活にも少しずつ広がってきているみたいで、「遠征先をきれいにした」と聞くと、嬉しいですね。

——自分たちのノウハウを独り占めしようとは思わないのですか?

他の学校の練習の質が上がれば、競技自体のレベルも上がるので、プレイしている僕も楽しいですし、そうやって世界で活躍する同世代が増えていって、彼らの姿を見るのは嬉しいし、励みにもなります。

全国の指導者に時短部活の良さを伝えたい

——風間さんはラグビー部での活動を通じて、どんなことを学びましたか。

部員が円になって話している様子

ラグビーは15人でやるスポーツで、みんな個性もバラバラなんです。それぞれの特徴に合わせてポジションが決まって、その中で社会性や人間性、コミュニケーション力も磨かれてきたと思います。本当に、学ぶことはとても多いです。

——さっき、チームメートの皆さんと話している様子を見ていて、本当にいい関係性なんだなと感じました。

縦の関係はいい意味でゆるいというか、グラウンドに入ったら先輩も後輩も関係ないんです。だから、お互いに呼び捨てです。僕も後輩に「風間」って呼ばれますし。だって、ゼロコンマの世界でいちいち「○○先輩」って、めんどくさいじゃないですか。後輩からもどんどん意見をもらいますし、違う立場の視点だからこそ、気づけることもあります。

——風間さんのこれからの夢は?

やっぱり、短時間でも質の高い練習をすれば、高い成果は出せるんだ、ってことを証明したいです。花園で勝てば、それを証明できると思うので、まずはそれを頑張りたい。そして、時短部活の良さを他の学校の指導者の方々にも感じ取ってもらえたらいいな、と。あとは、もう少しで大学受験なので、大学でもスポーツはもちろん、経営視点でマネジメントに必要なことを学んでいけたらいいなと考えています。

風間悠平さん

(取材・文、大矢幸世/岡徳之、撮影・小林淳子)

"未来を変える"プロジェクトから転載(2019年1月23日公開の記事)

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中

あわせて読みたい

Popular

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み