「家事育児分担で妻がブチギレ」サイクルに、ほとほと疲れた夫婦がやるべきこととは?

食器洗い

なぜ夫は、帰宅後に使ったお皿を片付けないのか。

Wojtek Skora/GettyImages

朝起きてキッチンに立つと、ミカさん(39、仮名)はため息が出る。シンクには、深夜に帰った夫が使った食器がそのまま積み上げてあり、その時間には洗い上がっていたはずの食洗機の中身は手もつけていない。

食洗機の中の食器を食器棚にしまい、シンクに積み上がっていた食器を手早く洗い、シンク内の汚れ取りや水拭きをして、キッチンのタオルを取り替えて……と「昨日の後始末」で10分は経つ。たかが10分とはいえ、共働きで保育園児の子育て中の朝にはあまりにも惜しい。

「どうして食洗機の中身を片付けて、自分の使った食器を新たに入れるくらいできないんだろう」

ミカさんは夫への怒りが、ふつふつと胸にこみ上げる。仕事で遅くなったとはいえ、家のことは指一本動かさないつもりなのか。夫は当然、まだ寝ている。

「朝から怒りたくないのでぐっとガマンすると、こういうガマンがたまりにたまって、ある日夫に怒りが爆発してしまうんです」

お互い忙しく一生懸命やっているからこそ、揉めがちな共働きの家事や育児分担。しかし男性に「もっと家事をやって」と怒るより、効果的な巻き込み方があるかもしれない。

“ある日妻が爆発”パターンを回避している夫婦はどうしているのか。

ヘトヘトになって帰ってきた夫にこれ以上頼めない

通勤

共働き子育てで疲れているのは、もちろん妻だけではない。

撮影:今村拓馬

ウィークデイの午後9時過ぎ、システムエンジニアの長崎二郎さん(38)は、都内の勤務先から千葉県内の自宅へ帰ってくる。

「家に帰ってきた夫は、ヘトヘトになって一日やりきった顔をしている。そんな人にこれ以上頼めない」

妻の理恵さん(34)は、玄関で夫を迎えるが、その表情を見ると「もっと家事をやって、育児もして」とは言えないなと実感する。

長崎さん夫婦は1年間の同棲期間を経て2018年1月に婚姻届を出した。7カ月の長女を育てながら、二郎さんは会社員として働き、理恵さんは主に在宅でフリーランスで広報の仕事をしている。

長女はまだ保育園に預けていないが、フリーランスの理恵さんは法定育児休業がとれるわけではない。近くに住む理恵さんの母親の手を借りながら、昼間と子どもを寝かしつけた後の数時間を仕事に充てて、何とかこなしている状態だ。

7カ月の娘はどんどん目が離せなくなる。理恵さんも大変だが、二郎さんだって仕事で疲れ切っていて精一杯だ。

ではどうするか。

「夫にもっと手伝ってと言うより、いかに家事時間を減らせるか、効率化できるかを夫婦で考えました」

どちらが多く負担しているかの比べ合いをするのではなく、そもそもの負荷を下げるやり方を追求したという。具体的にみてみよう。

週末育児責任者制でストレスフリー

料理

家事の効率化を追求するのに、夫のスキルは実は役立つかもしれない。

west /GettyImages

・タスク管理アプリ

まず、家事も育児もタスク管理アプリで可視化して分担。夫婦共通のメールアドレスを作り、家族に関する連絡はこのアドレスで受ける。「母親のやっていることがブラックボックス化しないようにしました」(理恵さん)。便利なアプリを見つけてくるのは二郎さんの得意分野だ。

・放ったらかし調理

効率化を勧める料理本を参考に、炊飯器や魚焼きグリルをできるだけ使って、放っておいてもできあがる調理にした。カボチャの煮物もシチューも炊飯器なら、ガスコンロと違って放置可能。その間に子どもを見たり、別の用事を済ませたりできる。

・調味料を駆使する

高級焼肉店「叙々苑」の市販のタレを肉にもみこんだり、人気店のキャベツのタレを野菜に使ったり「おいしい調味料と新鮮な食材があれば、料理にこらなくても十分おいしいと割り切りました」(理恵さん)

・ 外干しやめる

「洗濯物は外に干したい」という理恵さんに対し「その必要本当にあるの?」(二郎さん)。調べた結果「外に干すメリットはとくにない」とわかり、やめた。洗濯機で乾燥までやれば「干す」「取り込む」作業はなくなった。

・洗濯動線の見直し

洗い終わった洗濯物を分別するのに時間がかかっていると判断。「洋服を脱ぐ段階で仕分けして夫、自分、子どもの洗濯物を別々の洗濯ネットに入れて洗います」(理恵さん)。そうすれば乾いた後に取り出してたたむだけ。

ロボット掃除機にお任せ

「ルンバ」と「ブラーバ」(水拭き)を活用。スマホにアプリを入れ、留守中に遠隔操作で稼働させる。

・週末育児は責任者制度

土日はそれぞれ、育児責任者を決める。「責任者でない日は、相手に子どもを基本的にはまかせる。一緒にいてもいいし、勉強したりインプットの時間に充ててもいい。選べる仕組みです」(理恵さん)。

エンジニア夫ならではのIT知識が家庭で生きる

赤やん

子どもと笑顔で接するためには、親にも余裕が必要だ。

kumacore /GettyImages

こうした効率化には、二郎さんの仕事で培ってきたスキルが生きている。

「エンジニアならではのIT知識や論理的な考え方を、家のことに活かしてもらうことにしたら、すごく頼りになったのです」

産後に理恵さんが気分の波が激しく不安定になった時は、「朝起きるとスマホに、産後鬱について書かれた記事が夫から送られてきて。これはホルモンバランスのせいなんだと。すごく救われました」。

節約の話をすれば、PayPayやLINE Payのキャンペーンなど生活に役立つお得情報がさっとスマホに送られてくる。家庭運営に役立つアプリを常にチェックしてくれる。

6歳未満の子どもを持つ夫の家事・育児関連時間(1日当たり/国際比較)

出典:内閣府ホームページ「少子化対策」

総務省の「平成28(2016)年社会生活基本調査」によると、6歳未満の子どもをもつ夫婦の家事・育児関連時間は、女性の週全体の平均は1日あたり約7時間34分。これに対し男性は1時間23分と、圧倒的に短い。

国際比較でみても、6歳未満の子どもをもつ日本男性の家事・育児時間は、図のとおり目立って少ない。うらはらに、日本の女性は突出して多い。

共働き家庭のみならず、これでは女性のストレスはたまる一方だ。

しかしそこで衝突するよりも、視点を変えて理恵さん二郎さん夫婦のように「夫の仕事スキルを最大限に活かす」というのは、一つの手かもしれない。

仕事に置き換えて家事育児をプレゼンしてみた

「意外と男の人は、仕事に置き換えると、家庭運営のイメージや自分のポジションのとり方がわかりやすいのかもしれません」

そう話すのは、東京都在住の看護師、中原知恵さん(36)だ。夫はフリーランスのカメラマンの共働きで、3歳と9カ月の兄弟を育てている。

この4月に育児休業から復職した知恵さんだが、育休期間は夫との家事育児の分担にイライラが募った。フリーランスのカメラマンの夫は自宅で仕事をすることも多い。

「家事も育児もしないわけではないけれど、どうしても夫は指示待ち、手伝いになっている。妻ほど最終責任者の感覚がないのが、私の負担になっていました」

しかし夫には、知恵さんがなぜイライラしているかからして、わからないようだった。家事育児を「手伝う」から、当事者意識をもってもらうにはどうしたらいいのか。

そこで知恵さんが育休からの復職前に実行したのが、共働きの家事育児をチームプロジェクトになぞらえて「なぜあなたの参加が必要か」をプレゼンすることだった。

相手が同僚なら、もっと違うアプローチしているはず

プレゼン

育休中に知恵さんのつくった15枚のプレゼン資料。夫も最初は驚いていたが、乗り気になってくれたという。

提供:中原知恵さん

「TEAM NAKAHARA強化プロジェクトと名付けて、15枚のスライド資料をパワーポイントで作りました。担当責任分野をつくり、日々の家事の棚卸しを行い、優先順位の低いものは割り切って外注にしました」

束の資料を渡されて夫は「最初はドン引きしていました(笑)」(知恵さん)というが、「意外にもその後、乗ってくれて。防災、掃除、お金、レジャーは夫がリーダー。健康・成長発達、洗濯、調理、整理整頓は私がリーダー。というように、責任者を決めて運営するようになりました」。

スケジュール

知恵さんがつくった実際のプレゼン資料。1日のスケジュールを可視化した。

提供:中原知恵さん

家事育児の比重の重い妻の不満が爆発した結果、夫婦の分担を見直すパターンより、楽しそうだ。

ちなみに、中原家では月1回の進捗会議を行い、リーダーから各分野ごとの改善点を提案・検討するPDCAを回しているという。

「家庭が仕事化するなんて……」という声もあるかもしれない。しかし、感情的な口喧嘩を繰り返して、心をすり減らすよりどれだけいいだろう。

知恵さんは「プレゼン」の意図を、こう振り返る。

「私も夫に何か伝えたり頼んだりする時、家族ならではの期待や甘えがやっぱりあって。同僚にならもっと違うアプローチするよな、この言い方では相手のモチベーション下げるよな、と反省する面もあったんです」

「あなたも大変な思いをして」の泥仕合に意味はない

国は男性の1日あたりの家事育児時間を、現状(2016年調べ)の83分から、他の先進国レベルの150分程度に引き上げることを目標に掲げている。男性の家事育児への参加率の低さが、日本の少子化問題に直結しているとのデータもあるからだ。

しかし、お互い忙しい共働き夫婦間で、単純に夫の家事時間を増やすことは果たして得策だろうか。しかもあと1年で。

「私がこんなに大変なのだから、あなたにも大変さを分かち合ってほしい」というアプローチは、時に疲弊し合うことになりかねない。言われた方も、負荷が増えることを前提に、やる気がみなぎるとは言いがたい。

大変さを押し付け合うのではなく、ハードな家事育児の効率化やレベルアップ化に相手を巻き込む。そうやって総家事労働時間を減らして「お互いラクしよう」と言い合う方が、ひょっとしてみんながハッピーではないだろうか。

(文・滝川麻衣子、提供写真以外はすべてイメージです)

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