職場の「言いにくいこと」を伝える極意。プレゼン名手、澤円さん語る

ビジネスの世界では、ときとして「言いにくいこと」を伝えなければならないシーンが存在します。それが自分やチームのために必要なことだと頭では分かっていても、伝えるときの精神的負担は計り知れません。伝えなければならない、だけど言いにくいものは言いにくい……。

相手が部下であれ、上司であれ、顧客であれ、互いにしこりを残すことなく、言いにくいことを適切に伝えるためにはどうしたらいいのでしょうか?

この悩みをぶつけるなら、絶対にこの人がいい——と頭の中に浮かんできたのが、プレゼンの名手として知られる澤円さんでした。外資系大手IT企業に業務執行役員として勤務しながら、数多のスタートアップ企業の顧問や大学の客員教授なども務め、伝え方のプロとして多くの研修、講演の実績を持つ澤さん。

なぜ「言いにくい」と感じてしまうのか。それをどう乗り越えて伝えればいいのか。そして言っても伝わらないときにはどうすればいいのか——たくさんの企業や組織に関わってきた経験から、私たちが持つべきマインドセットを教えていただきました。

澤さん


PROFILE
澤円:圓窓代表
1997年、外資系大手IT企業に転職。ITコンサルタントを経てプリセールスSEへ。2006年よりマネジメントに職掌を転換し、ピープルマネジメントを行うようになる。2011年より同社テクノロジーセンター センター長。2014年よりサイバークライムセンター 日本サテライト責任者も兼任。2018年より業務執行役員。ビズリーチ、FiNC、カウンティアなど多くのスタートアップ企業の顧問も務める。NewsPicksプロピッカー。琉球大学客員教授。

聞き手には、上場企業であるガイアックス社の最年少事業部長として、ほとんどのメンバーが年上という状況で組織づくりに挑戦し、現在は役職のないフラットな組織マネジメントを実践している管大輔さんをお迎えしました。

日本企業はムラ社会。同質性の押し付けが「言いづらい」を生む

——多くのチームや組織に関わっている澤さんですが、コミュニケーションがスムーズな組織とそうではない組織、どちらもご経験があるかと思います。言うべきことを言いづらい組織になってしまうのはなぜでしょうか?

僕が国内外のさまざまな企業と関わってきた中で感じたのは、日本の企業はお互いに同質性を押し付け合う関係になりやすいということ。特に大企業ほど、社員が「会社ではこれが普通」「こうするのが当たり前」みたいな “見えないルール” を勝手に作るのがすごく得意で、しかもその見えないルールを押し付け合う。結果として、「言わなくても分かるよね?」といった空気感が生まれたり、言いたいことを言えない雰囲気になったりするのかもしれません。

——なぜ見えないルールや空気に支配されてしまうのでしょうか?

日本人は潜在的に、一度所属した組織に対して「一生付き合う仲間だ」とか「裏切ってはいけない」みたいな意識を持っていますよね。終身雇用の前提が未だにあって、ムラ社会的な概念で「ここでこんなことを言ったら村八分にされるんじゃないか」みたいな、すさまじく大きな恐怖を感じてしまうんだと思います。

アメリカやヨーロッパでは同じ会社に居続けることは当たり前ではないし、もっと言えば、ずっと同じところにいるのは能力がないバロメーターという考えの人もいるほど。でも日本では、同じ会社で出世する人が能力が高いと言われますからね。学生の部活動ですら、辞めると裏切り者扱いをされる。一度属したところから抜けられないというのは、日本の特徴的なところだなあと思います。外の物差しを持つと、日本でいう “当たり前” が本当にバカらしく感じますよ。

澤さん1

今の日本企業と社員の関係性って「親子」なんです。すごく頑張って大学に入っても、4年間で坂道を転げ落ちるようにアホになって(笑)、就活時期になるとみんながおそろいのスーツを着て、入社したら新人研修を受けて、40年かけて大人になる。それっていわば、企業による子育てですよね。

親である会社は子どもを思い通りにしようとして同調圧力が強くなり、子どもである社員は親に「怒られない」ことを第一優先するようになる。親に受け入れてもらうために、言いたいことを我慢する。実際に、日本企業の若手や40代の中堅社員などから相談を受けると、「怒られたくないから言えない」とよく口にします。

——そのような環境を改善するにはどうしたらいいでしょうか?

マネジメント能力がない人をマネジャーにするのをやめることでしょうね。日本の企業には「本物のマネジャーが育ちにくい」というのが、僕の持論です。なぜなら、日本では給料の増減が役職と一致していて、管理職が名誉職になっているから。「営業成績がいいからマネジャーにしてやる」みたいなことで昇進させた結果、マネジメント能力のない人が上司になって、部下に「なんでお前できないの?」「俺はできたよ?」みたいなことを言ってしまう。これでは部下が言いにくくなる一方です。

——「本物のマネジャー」はどうあるべきなのでしょう?

まず、「マネジャーは平社員より上」という意識を捨てて、ひとつの役割だと捉えることです。僕のチームにも元本部長だった人がメンバーとして入っていますが、僕は上司ではなく、班長とか学級委員長くらいのスタンスでいます。クラスの係としてホームルームの司会はするけど、上下関係ではないよ、というマインドセットです。

そのうえで、しっかりとマネジャーとしての職責を果たすこと。マネジメントには、大局的な視野を持って、常にベストなやり方を判断し、人の適正配分も考えて……というように、組織のパフォーマンスを最大化するためにいろんな能力が必要です。プレーヤーとしての能力の高さを拠りどころにするのではなく、マネジャーに必要な能力をつけて、発揮していかなければいけません。

「言いにくい」のは人格攻撃になっているから? 必要なのはゴールという共通認識

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——では、マネジャーとしてメンバーに「言いにくいこと」を伝えるときに、気をつけるべきことは何でしょうか?

最初の主語を「あなた」にしないことです。ビジネスの関係であれば、まずゴールがあるべき。そしてそれを成し遂げるために、「われわれは」何をしなければならないかを話し合うのが最初のプロセスです。そのうえで、「あなたはその能力がありますか?」と話すのはいいと思います。「私からあなたへ」の個人的な話になってしまったら、それは人格攻撃で、伝える側のエゴでしかありません。

——ゴールから逆算した上での対話であるべきなんですね。

会社というのは、ゴールやビジョンが常に共有され続け、みんなが同じ方向を向いて進んでいくもの。であれば、対話というものは、その中で、スピードがおかしいとか、違う方向を向いているときに、はじめて生まれるべきです。

そういう前提もなく、「なんで、できてないの?」「おまえ、それはないだろう」とか言われたら、「やかましいわ」って反応したくもなりますよね(笑)。きちんと伝えるためには、成果が出ていないのはなぜか、チームとして責任を果たすためにどうすればいいか、といったことを言語化していく必要があります。

——内容に納得できても、「言い方に傷ついた」と言われてしまうこともあります。

相手が傷ついたということは、伝える内容が「サプライズ」になっちゃっているということです。「言い方がキツい」なら優しく言えばいいのかというとそうでもなくて、本当の原因は「まったく予想していないことを言われた」ことにあります

それまでの言語化が不十分で、前提知識の共有ができていなかったということ。そうならないためには、段階を追って話し、その都度、相手の理解度をチェックしていかなければなりません

例えば、事業の方向性が少しずつ変わっていくのに伴って、必要な能力も変わっていくときってありますよね? そういうときは「今は事業がこんな状況だからこういうスキルが必要なんだけど、習得してみたいと思う? もしそうなら、最初の目標数値は○○にして、1カ月後にレビューしよう」と話して、実際に1カ月後に進捗を確認して……と順を追って話せば、相手が傷つくことにはなりません。

それを急に「おまえ何でこれできないの? 必要だって分かるよね?」と言われたら、明らかに悪い意味のサプライズになってしまいます。

——表現の仕方もポイントになりますね。

そうそう。例えば、「ちょっと」「なる早で」とよく言われますけど、そういう感覚的な表現って、人によって概念が違いますからね。もし上司から言われても、部下は「その “ちょっと” ってどのくらいですか?」とは聞きづらくて我慢してしまうでしょう。そうやってどんどん乖離が広がっていくとトラブルにつながる。数値やスケジュールなど、誰でも同じように認識できる数字で共有することが大切です。

そういうことを要所要所できちんと共有できていれば、言われる側も自覚が持てるので、言いにくいと悩むことも、伝え方によって傷けることもなくなるでしょう。

逆に、「実は半年前に評価基準が変わっていて……」みたいな後出しジャンケンがあったり、過去の事実が判明したりすると、ほとんどの場合、事故につながります。そういうサプライズは絶対にあってはダメ。サプライズというのは、ミクロであれば人を潰すし、マクロであれば会社を潰します。

会話にならない上司からは迷わず逃げろ!持つべきは「我慢しない」マインドセット

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——では、部下から上司に言いにくいことを伝える場合はいかがですか?

基本は同じで、目指すべきゴールを示してから対話することです。ただ、はっきり言ってしまうと、人はそう簡単には変わりません。なので、感覚的な言葉ばかりを投げかけてきたり、せっかく言いにくいことを伝えても聞き入れてくれなかったりする上司なら、辞めちゃっていいと思います。

そういう人とコミュニケーションを取ろうとしたり、相手を変えようと思ったりするだけ時間の無駄。それなら、自分がやりたいことや、こういう風に生きたいという自己実現のゴールを軸にして、邪魔な上司のいないところへ移動したほうがいいですよ。

——それはずいぶん思い切った行動ですね。

だって、多くの会社で今「上司」になっている世代は、感覚的な言葉でやり取りしてきた人が多くて、今さら変えようとしても変わりませんから。でも、若い人が自分の元からどんどん去っていったら、「もしかしたら自分に原因があるんじゃないか」と気づけるかもしれない。

逆に、気づかないような上司に人格攻撃をされても、受け入れる必要はまったくありません。「ゴールはここでしたよね?」と確認して、そこで気づいてくれて建設的な会話ができるならOKだし、できなければ、逃げたらいい。これは、上司だけでなく、顧客に対しても同じことです。

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——会社のゴールやビジョン自体が抽象的で、個人の解釈が異なりやすい場合もありますよね。

例えば、グーグルのビジョン「1クリックで世界の情報へアクセス可能にする」のように明確だとコミットしやすいですよね。もしそのビジョンが腹落ちしないなら、ほかの会社に行けばいいんだし。

でも、多くの日本企業のビジョンは、抽象的だし言葉も長すぎるように感じます。そのうえ、「なんとなく分かるよね」という押し付けに依存しすぎて、言語化を怠ってしまう。「今さらなんか恥ずかしいよね」と、あらためて共有する機会も設けてられていないので、人によって解釈の違いが生まれてしまうのだと思います。

——海外の企業はなぜ、明確なゴールを打ち出して、共有できるのでしょうか?

外資系企業は、宗教などのバックグラウンドやジェンダー観が異なる人がわんさかいる中でビジネスをしているので、言葉が通じないとか、価値観が違うというのが当たり前なんですよ。ですから、全員に通じるように、シンプルに明確に話そうとします。その最たるものが「数字」です。

外資系はよく数字至上主義でドライだと言われますが、実際はみんなに分かる「数字」を使っているというだけのこと。同質性の押し付けの真逆です。昔の上司に、そのときやっていた仕事がいつまでに終わるかと聞かれたとき、「In near future.(近い将来)」と答えたら「いつを指しているのか分からない」と言われたことがあります。僕もそこでハッとしました。

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——具体的なゴールや数字を明確化しないままコミュニケーションを取ろうとするのが、いかに問題なのかが分かりますね。

軍隊で最もつらい訓練は、「ゴールを指定されないまま、上官が『もういいぞ』と言うまで走らされる」ものだそうです。鍛え抜かれた軍人でさえそうなのですから、ビジネスパーソンが「いつまで」「どこまで」といったゴールがないまま走らされると、ペース配分もできずに、疲れだけが溜まっていくのでものすごくつらい。ある日突然心が折れてしまうこともあります。

よく鬱になる人は「心が弱いから」と表現されますが、そうではなく、誰であっても疲れが原因で心が折れることもあるんですよ。だから、マネジャーは「俺がいいと言うまで走れ」ではなく、必ずゴールを言語化して共有しなければなりません。

日本は我慢を美徳とする国ですが、「我慢できない=弱い」ではないんですよ。海外の人は、「家族との時間とか、趣味とか、人生にはいっぱいやることがあるんだから、仕事にそんなに時間を使わなくていいよね」という考えがベースにあるので、仕事のプライオリティーがそれほど高くありません。

だからこそ、言っても伝わらないような非効率的なコミュニケーションを嫌うし、我慢なんてせずにどんどん離れていく。何でもかんでも海外のほうがいいとは思わないけど、言いにくいことに頭を悩ませたり、それで心が折れたりするくらいなら、彼らを真似て、「そんな上司や会社からは逃げてもいい」くらいのマインドセットを持ってくれたらいいなって思いますね。

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(取材・文、管大輔/青木麻里那/岡徳之、撮影・ 伊藤圭)

"未来を変える"プロジェクトから転載(2019年3月20日公開の記事)

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