ライブイベント「TUBEOUT!(チューバウト!)」で歌って踊るVTuberたち
バーチャルキャラクターによるYouTuber「VTuber」のアイドルたちによる音楽イベント「TUBEOUT!(チューバウト!)」が4月6日夜、東京の映画館「池袋HUMAXシネマズ」で開催された。詰め掛けたファンは約250人。スクリーンに映るアニメやゲームキャラクター風のVTuberアイドルたちが歌い、そして生身の人間であるファンと言葉を交わして盛り上がる。
VTuberにまだ親しんでなかった記者にとって、このライブイベントは異次元に飛びこんだ感覚だった。いま、VTuberとスマホ画面上だけでなく、リアルに交流するイベントや場面が増えている。
駆け出しでもイベント集客力が高い
今回のイベントを主催し、VTuber向けのライブシステムなどを提供するBalus(バルス)は、VTuberのリアルイベントを積極的に開催しているベンチャーだ。
池袋HUMAXシネマズを運営するヒューマックスシネマと業務提携し、2019年3月以降ですでに3度目の開催。過去2回は350人、380人の盛況ぶりだった。映画館側も集客力のあるイベントが開かれるのは、ありがたいだろう。
バルスの林範和CEOは「今後も月2回以上のペースで開催し、夏以降はさらに開催数を増やす予定です。東京以外のヒューマックスの映画館でも開催を計画しています」とリアルイベント運営に積極的な姿勢を見せる。
今回のチューバウト!に参加したVTuberは、歌などでアイドル活動を行っているバーチャルタレントたち3組。3人グループの「Alt!!(アルト)」、「銀河アリス」、4人グループの「まりなす(仮)」。
4月6日のイベントでのコラボ告知を行うAlt!!のYouTube動画(3月25日放送)。
銀河アリスのYouTube生放送。4月12日公開。
まりなす(仮)の初のYouTube生放送の模様(2月23日放送)。
興味深いのはYouTubeの登録者数だ。Alt!!が約1万3000人、銀河アリスが約3万5000人、まりなす(仮)が約6300人(4月16日時点)。銀河アリスはまだ多いといえるかもしれないが、圧倒的な登録者数があるわけではない。それでも、イベントを開けば熱心なファンたちを呼べる魅力がある。ちなみに、国内トップクラスの人気とされるキズナアイのYouTubeチャンネル登録者数は、2つのチャンネルで計400万人とダントツだ。
会場では販促グッズも売られていたが、この日は種類が少なかった
バルスは都内にVTuber向けのスタジオを持っている。今回のイベントではスタジオから、リアルタイムにモーションキャプチャーでVTuberの3DCGを動かしながら、一方で映画館スクリーンの各所に設置してあるカメラとマイクを通して、ファンの反応を確かめていた。
「今の映画館は高速回線を持っているので、(VTuberのデータ量が)大きくなっても、うちのスタジオと映画館を繋いでライブができる。映画館側の配信網もしっかりしているので、メインの1カ所にさえ接続できれば、同時に5カ所でVTuberライブイベントを開催することだって可能」と、林CEOは言う。
バーチャルなキャラから感じる「本気で激しいダンス」
VTuberはバーチャルな存在と思われがちだが、モーションキャプチャーを使って、スタジオで“中の人”が実際に歌に合わせて本気で踊っている。複数のVTuberが同時に踊る姿をよく見ると、微妙に振り付けがズレていたり、異なっていることも。
踊り終わった後には、本当にはぁはぁと息を切らしながらファンに呼びかける。彼女たちは、まさに生身のように生きている。
ただ、リアルタイム配信ならではの問題として、処理速度上の制限も、いまはあるという。
「システムにかかる負荷の点から、同時に動かすことができるのは7人くらいが現時点では限界」(林CEO)
実際この日、夜7時半開演のはずだったが、システム上のトラブルで約20分ほど遅れてスタートした。
しかし、驚いたのはファンの反応だ。遅れていることをMC役のVTuberが何度も謝罪し、さすがにここまで遅れたら怒るファンがいるのでは、と見守っていたが、常に「大丈夫だよ!」「待ってるよ!」と温かい声援が飛ぶ。
視察しにきていた業界関係者は「VTuberのリアルライブイベントでは、こういったシステム障害などの遅延トラブルは起こる。だから、ファンも慣れているのでは」と話していた。
夜10時前に終演したが、ファンたちは一様に満足そうだった。まだまだ新興の市場だからこそ、ファンの目も温かいのかもしれない。今後もしばらくは、VTuberのイベントが広がっていくのは間違いなさそうだ。
ライブイベント「TUBEOUT!(チューバウト!)」で歌って踊るVTuberたちにファンも盛り上がる
音楽イベント以外にも広がるリアルでの活躍の場
VTuberがリアルの場に登場するのは、決して音楽イベントという形だけではない。
今年2月にキズナアイが米映画「アリータ:バトル・エンジェル」の公開記念イベントに登場し、持ち込まれたデジタルサイネージを通して、来日したロバート・ロドリゲス監督たちと交流した。
「VTuberというか、バーチャルキャラクターを使って、色んなことをやっていきましょうという動きが広がっていくと思います。特にビジネスユースが増えてくると思います。例えば、企業の商品宣伝もあれば、短期的な宣伝でなくその企業の広報としてキャラクターを作っていくことになるでしょう。また、海外向けのビジネスに活用する際に、VTuberが英語で話してもいい。バイリンガルで対応することは難しくない」(林CEO)
有名VTuberだけでなく、無名の新参VTuberもリアルな場で活躍を広げていくと見る関係者もいる。これまで生身の人間が担っていた部分をVTuberがカバーしていく形や、人の注目を集めるためにVTuberを介してイベントを仕掛けていくといった形など、すでに具体化している事例がある。
例えば、VTuberの制作受託や制作・運用および支援を行っているコロプラの子会社・360Channel(サンロクマルチャンネル)は、「VTuberインターン派遣サービス」を3月末に開始。同社所属の女子大生VTuber「桜美ゆな」をPR会社「共同PR」にインターンとして派遣し、ニュース番組キャスターとしてリリースなどを読み上げている。
共同PRとのコラボで「PR TODAY」のニュース番組キャスター就任をしらせる放送。
イベントの司会であったり、企業の研修の講師、説明会の講師なども生身の人間からVTuberに変わる可能性は大いにありうる。
YouTubeという枠を飛び出して、現実世界に干渉し始めたVTuberたち。日常生活でバーチャルキャラクターたちを目にするのが当たり前になる時代が遠くはないのかもしれない。
(文、写真・大塚淳史)