ボーイング737MAX事故でも米追従で日本は“思考停止”。航空機の安全覇権握った中国

「いま乗りたくない飛行機は」と聞かれれば、迷わずボーイング737MAX8を挙げる人は多いだろう。

エチオピアで3月10日に起きた墜落事故(157人死亡)は、世界の航空機秩序をリードしてきた米連邦航空局(FAA)の権威失墜という思わぬ波及効果をもたらした。同時に安倍政権は、FAAの権威にすがり最後の最後まで運航停止措置をとらず対応が遅れた。「思考停止」のまま、日米同盟を最優先する悪い癖がここでも出てしまった。

3日間も運航継続

エチオピア航空

エチオピア航空のET302便は3月10日に墜落し、157人が死亡した。

REUTERS/Tiksa Negeri

ボーイング社は事故原因について「制御システムの誤作動だった」と認める声明を出したが、まずFAAの権威失墜と米中関係など国際政治への波及を振り返ろう。

事故が起きると、中国民用航空局が翌11日、国内航空各社に対し同型機の運航の一時停止を求める通知を発表。墜落機に乗った中国人8人が犠牲になったこと、中国航空各社が計96機(共同通信)の同型機を保有していることを考えれば、当然の措置だろう。

当事者のエチオピア航空当局も11日、同型4機の運航停止を発表した。

問題はFAAの対応だ。FAAは11日の段階では、同型機のシステムの改良を4月までに義務付けるとしただけで、「機体自体は安全に飛行できる」として、運航停止措置をとらなかったのである。

アメリカでは、サウスウエスト航空など3社が計72機の737MAX8と737MAX9を保有・運航している。FAAが運航停止措置を出さなかったため、3社は運航を続けた。しかし不安視した乗客が予約をキャンセルするなどの事態が起きていた。運航を継続した3日間に事故が起きなかったのは幸いだった。

トランプ命令を受けての決定

米連邦航空局

3月27日、米上院委員会の公聴会に出席したFAAの幹部は、機体の安全性認証審査をすべて内部で行った場合、新たに18億ドルと1万人の職員が必要になるという見方を示した。

REUTERS/Joshua Roberts

中国とエチオピアの運航停止措置を受け、12日にはシンガポール、マレーシアをはじめイギリス、フランス、オーストラリア、ブラジル、アルゼンチン、メキシコ、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)、インドなど世界約50カ国が次々に運航停止措置に踏み切った。

さらに欧州32カ国が加盟する欧州航空安全庁(EASA)も12日から全便の運航と欧州上空停止措置を決めたのである。

FAAが世界で370機余りの同型機の運航停止に踏み切ったのはエチオピア航空の墜落事故から3日後の13日だった。しかもトランプ大統領の運航停止命令を受けての決定だった。

アメリカでの航空機の開発、製造、修理、運航のすべてはFAAの承認なしには行えない。今回の対応遅れは、「航空機の安全秩序の最大の管理者」とみられてきたFAAの権威を一気に失墜させた。

事故機のフライトレコーダー(飛行記録装置)などの解析をめぐり、エチオピアがアメリカへの引き渡しを拒否、フランスがブラックボックスを解析することになったのも、権威失墜を裏付ける。

中国が安全の秩序の担い手に

ボーイング社

中国は事故から2週間後、737MAXの競合機を350億ドルで購入する契約を交わした。ボーイング社への逆風を中国がうまく利用した形だ。

REUTERS/Lindsey Wasson

権威失墜の代償はそれだけではない。

飛行再開にはFAAのほか、運航停止を命じた各国の航空当局の同意が必要。中国やヨーロッパ諸国は再開に当たってFAAの判断をそのまま受け入れず、独自の検証を行う方針。空の安全におけるFAAのリーダーシップに各国が従わなくなったのだ。

意味深長なニュースも飛び込んできた。

中国民用航空局が4月9日、737MAX8の安全性評価に関するFAA審査委員会の要請を受け、専門家派遣を決定したのである。FAAの権威失墜に代わり、世界の航空安全・規制秩序で中国の発言力が強まっている兆候だ。

中国の航空機需要は今後20年で、世界の約2割に当たる7700機(約130兆円相当)にのぼり、10年後にはアメリカを抜いて世界最大の航空機市場になるといわれる。米中貿易戦がし烈さを加えるなか、20世紀後半の自動車産業衰退に続いて、アメリカ航空機産業の衰退をみる思いがする。

中国は事故から2週間後の3月25日。習近平国家主席のフランス公式訪問に合わせ、エアバスA320、A350計300機を350億ドル(約3兆8400億円)で購入する契約を交わした。いずれも737MAXの競合機で、ボーイング社への逆風を中国がうまく利用した形だ。

米追従認めた国交相

石井国交相

日本が運航停止措置を決定したのは、主要国で最後の最後だった。写真は石井国交相。

REUTERS/Issei Kato

最悪だったのは安倍政権の対応だ。事故2日後の12日に対応策を質問された石井啓一国土交通相は記者会見で、「中国の運航停止を承知している」としながらも、「今後の動向を注視し、適切な措置を講じる」と、「模様眺め」を決め込んだ。

理由は明示しなかったが「国内航空会社で同型機は運航していない」と、運航する国内航空社がないことをほのめかした。

しかし日本上空では、中国の航空2社をはじめシンガポールと韓国など海外5社が同型機を保有し、成田空港など日本7空港に定期便で運航している。事故直後に運航停止措置を出して当然ではなかったか。この5社は「事故後は別の機種に変更する対応をとっていた」(石井国交相)という。

「模様眺め」だった国交省が、日本の空港への発着と上空飛行停止を決めたのは3月14日。FAAの運航停止措置の直後だった。石井国交相は15日の記者会見で、「アメリカの対応を踏まえ~中略~乗入れを停止する旨通知を発出しました」と説明した。

何という率直さ。FAA決定に追従したしたことを率直に認めたのである。日本の決定はもちろん主要国で最後の最後だった。

日米同盟が絡むと「思考停止」

ボーイング737MAX

安倍政権の対応遅れは、アメリカを常に追従する「思考停止」がもたらした結果だといえる。

REUTERS/Willy Kurniawan

同盟国といっても対応は同じではない。

カナダ政府はFAAより先に運航停止を決めた。同国当局者は「いつも(アメリカと)同じように行動するわけではない。一定の安全の基準を超える必要がある」と、ロイター通信に語っている。

イギリスなどヨーロッパの同盟国も独自の判断で停止を決めた。乗客の生命にかかわる問題では「同盟優先」は通用しない。

安倍政権の対応遅れは、石井国交相が認めるように「FAA信仰」に基づくアメリカ追従姿勢にあり、いつもの「思考停止」がもたらした結果であろう。

安倍政権は、普天間基地移設問題では県民投票に表れた住民の意思より日米同盟を優先する。

通信大手、華為技術(ファーウェイ)の排除問題でもアメリカの意向をすんなり受け入れた。独自調査に基づき「不排除」を決めたドイツやEUとの対応の違いが際立つ。

日米同盟が絡むと必ず「思考停止」に陥る安倍政権だが、航空機の安全では必ず「自分の頭」で判断しなければならない。

岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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