「コンテンツ東京2019」に出展されたアトラクション型VRゲーム。
「VR元年」と呼ばれた2016年から3年。Oculus Rift、HTC VIVE、プレイステーションVRなどのデバイスが登場し、次々とVR用ゲームが発売されて話題になった。そのまま大きな流行になるかと思いきや、3年経った今もすっかり浸透したとは言いがたい状況だ。
そんななか、数多くのVR関連企業が出展する「コンテンツ東京2019」(4月3〜5日、東京ビッグサイト)を見て回ったところ、足元ではB2B向けに広がっていることがわかった。
企業担当者も「日本のVR市場は停滞気味」
クロスデバイス社が展示していたサイクリング形式のVR。
VR関連企業のブースが集まるエリアを訪ねると、数年前と同様、ヘッドマウントディスプレーをつけて楽しめるレーシングゲーム、ガンアクションゲームなど、アトラクション施設で楽しめる体感型ゲームの展示が目立った。また、実写映像をVRで体感させるブースも多かった。
コンテンツの配信システムや制作などを行うクロスデバイス社は、サイクリング形式で世界中の絶景を楽しめるサービスを展示していた。自転車に似せた機器に乗ってペダルを漕いで、ヘッドマウントディスプレーに映し出された実写の景色を移動して楽しめる。360度どの向きでも楽しめる仕組みだ。同社の担当者は「映像を見るだけではなく、インタラクティブ性のある実写VRをしたかった」と説明した。
VRの現状については、やはり停滞気味と感じているようで、「2016年は賑やかしのプロモーションが多かったが、2017年と2018年は企業の研修映像や不動産の内見など、B2B向けにシフトしている印象。エンタメ系はまだまだ先になるのでは。そもそも一般向けのVR機器がまだ普及していない。アメリカや中国と比べて日本は遅れている」と話した。
着実に増えているB2B向け
マイクロソフトのホロレンズを活用した、工事現場サポートサービスを展示したネクストスケープ社。
クロスデバイス社の担当者が話してくれたように、B2B向けの展示は確実に増えていた。2、3年前のB2B向けVRといえば、家屋内部を内覧できる3DCG映像や、歴史的建造物などが使われていた当時の姿を復元した映像を、ヘッドマウントディスプレーで楽しむといったものが多かった。
それが研修や教育の用途に使えると注目されたことで、B2B向けVRサービスの出展が目立つようになっていったようだ。
VR関連のシステム企画・開発・運用サポートを提供するコミュニケーション・プランニング社は、航空機の牽引訓練のためのVRシュミレーターを展示。実機を使ってのトレーニングが難しいため、シュミレーターを開発することになったという。4月8日にはJALグランドサービスが導入することを発表している。
同社の担当者は、企業の教育用途でのVR利用が増えていると教えてくれた。
「ここ3年でトレーニング用途が増えました。変わったところで言うと、大手飲食店からアルバイト研修を全部VRでやりたいと相談されました。教える人によって差が生じるなどの教育偏差がなくなるし、効率が良いということだそうです」
CADネットワークサービス社は危険学習VRを展示。
建築図面や産業用の2D・3Dコンテンツなどを制作するCADネットワークサービス社は、「危険学習」のためのゲーム感覚のVRを展示していた。工場内で問題が発生しているのを解決するゲームでは、ヘッドマウントディスプレーの目の前に広がる工場の機器を選別しながら、コントローラのボタンを押していく。記者も体験してみたが、途中で間違ったボタンを押して、工場は爆発してしまった。こうやって、社員に現場教育を施していく。
同社の担当者もやはりトレーニング向けのVRが広がっていると実感する。
「1年ほど前から案件が増えてきたので、今年、来年くらいには何とか採算が合うようになっていく感じがします。これまでのVRコンテンツは体験して終わりのものが中心でしたが、そこからさらに改善までつなげられないかと開発を進めています。例えば、工場の熟練工の方をモーションキャプチャーして、若手社員にVR上でその動きを見て学んでもらうといったものです」
また、今後の発展にはさらなる技術革新が必要だとも指摘する。
「デバイスと通信環境が進化すれば、VRもさらに進化して、みんなが同じ空間で作業を学んだりすることもできるようになるはず」
B2B向けの教育・訓練VRは、今後も着実に広がっていきそうだ。
グラビア女優と楽しめるVRが人気
グラビア女優のVR映像が楽しめるフューチャーリープのブースは人気だった
一方、エンタメ向けVRもまったく盛り上がってないわけではない。
ブース面積こそ小さいが、ひそかに来場客から注目されていたのが、グラビア女優と間近で触れ合えるVR。2018年のコンテンツ東京にも出展していたフューチャーリープ社が展開しているVRコンテンツ制作サービスだ。
ヘッドマウントディスプレーとヘッドホンを着けると、目の前にグラビア女優が現れ、彼女が戯れる姿を楽しめる。展示会の都合上、ブースでは女優と同じ空間にいてVRを体験する形だったが、女優が別室や遠隔地でカメラの前にいる場合でも、リアルタイムの動きをVRを通じて見ることができる。
VR映像の中で、女優がお菓子を持って筆者に食べさせようと近寄ってくると(実際にはカメラに近づいているだけなのだが)、思わずこっちも照れながら口を開けかけてしまった。視聴感覚では距離感ゼロ。少しでもリアルな映像をつくり上げるために、高性能なカメラを組み合わせて撮影している。
このコンテンツを体験した男性ビジネスマンは「すごく生々しくて、面白い。視覚だけじゃなくて、ヘッドホンから聞こえる声で肌の感覚まで刺激されている感じになった」と驚いていた。
同社の担当者は「グラビア女優のリアルタイムVRイベントを以前実施したときは、1回5000円の有料にしたのにかなり好評でした。今後はこの機材で結婚式、お子さんの成長や卒業式などのVR映像を制作するサービスにも取り組みたい」と話してくれた。
VR普及の鍵は「女子高生」?
ここ数年は伸び悩んでいたVRだが、企業向けの教育用途では着実に広がりつつあるようだ。
では、これから一般のユーザーに幅広く浸透するのだろうか。ある出展社の男性は、VR普及の鍵は「女子高生」だと言い切った。
「日常生活においてニーズがあるかどうかがまず大事。こういったVR機器が爆発的に広がるには、大前提として女子高生に流行らないといけないというのが持論です。携帯電話、スマートフォンもそうでした。今のヘッドマウントディスプレーは“ごつい”。女性にとっては、化粧も取れるし、髪も乱れるし、遠い存在だと思いませんか?」
そもそも現状の機器のあり方がハードル、ということか。普及はなかなか簡単ではないかもしれない。
(文・写真、大塚淳史)