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【東大入学式】上野千鶴子さん祝辞の反応は。東大女子のつらさ思い出し涙したOG

東大

4月12日に行われた東京大学の入学式。

提供:出席者

4月12日に行われた東京大学の入学式での祝辞が大きな反響を呼んでいる。

祝辞を読んだのは、社会学者で認定NPO法人 ウィメンズ アクション ネットワーク理事長の上野千鶴子さん。2011年3月まで東大で教鞭を取っていた。

式終了後、すぐに東大のホームページにアップされた祝辞から特に印象に残ったところを紹介する。

なぜ東大女子が2割を超えないのか

上野さんは冒頭で2018年に起きた東京医科大学の不正入試問題に触れ、文部科学省の担当者のものとして「男子優位の学部、学科は医学部以外に見当たらず、理工系も文系も女子が優位な場合が多い」というコメントを紹介した。

一方で、東大の女子の比率は長期にわたって「2割を超えない」という壁に言及する。それどころか2019年度4月入学に限っては18.1%と前年度を下回ったと述べた。

女性

GettyImages/d3sign

なぜこういう現状になったのか。「『息子は大学まで、娘は短大まで』でよいと考える親の性差別の結果です」と言い切った上で、こう続けた。

そうやって東大に頑張って進学した男女学生を待っているのは、どんな環境でしょうか。他大学との合コン(合同コンパ)で東大の男子学生はもてます。東大の女子学生からはこんな話を聞きました。「キミ、どこの大学?」と訊かれたら、「東京、の、大学…」と答えるのだそうです。なぜかといえば「東大」といえば、退かれるから、だそうです。なぜ男子学生は東大生であることに誇りが持てるのに、女子学生は答えに躊躇するのでしょうか。なぜなら、男性の価値と成績のよさは一致しているのに、女性の価値と成績のよさとのあいだには、ねじれがあるからです。女子は子どものときから「かわいい」ことを期待されます。ところで「かわいい」とはどんな価値でしょうか?愛される、選ばれる、守ってもらえる価値には、相手を絶対におびやかさないという保証が含まれています。だから女子は、自分が成績がいいことや、東大生であることを隠そうとするのです。

さらに、上野さんは2016年に起きた東大生による性暴力事件にも触れた。

東大工学部と大学院の男子学生5人が、私大の女子学生を集団で性的に凌辱した事件がありました。加害者の男子学生は3人が退学、2人が停学処分を受けました。この事件をモデルにして姫野カオルコさんという作家が『彼女は頭が悪いから』という小説を書き、昨年それをテーマに学内でシンポジウムが開かれました。「彼女は頭が悪いから」というのは、取り調べの過程で、実際に加害者の男子学生が口にしたコトバだそうです。この作品を読めば、東大の男子学生が社会からどんな目で見られているかがわかります。

東大には今でも東大女子が実質的に入れず、他大学の女子のみに参加を認める男子サークルがあると聞きました。わたしが学生だった半世紀前にも同じようなサークルがありました。それが半世紀後の今日も続いているとは驚きです。この3月に東京大学男女共同参画担当理事・副学長名で、女子学生排除は「東大憲章」が唱える平等の理念に反すると警告を発しました。

この東大女子が入れないサークル問題は、2018年東大新聞も特集を組んでいる。東大新聞によると、東大には東大女子の参加を認めない男女混成サークルが少なくとも3つ以上あるという。

さらに東大新聞は、東大生のジェンダー意識についてのアンケート調査を実施、「問題が深刻かどうか」尋ねたところ、男女でその意識に大きな差があることも指摘している。

あなたは自覚しているか

東大

撮影:今村拓馬

上野さんは東大生たちの女性をはじめとしたマイノリティーに対する優しさの欠如を、あえて祝辞で指摘した。

東京大学の『学生生活実態調査』という資料に、家庭の家計支持者(多くは父親)の年収分布が出ている。東大生の親の62.7%が年収950万円以上だ。一般群では12.3%しかいないことを考えると、極めて高い比率と言える。職業をみると東大生の父親の43.4%は管理職で、こちらも一般群(3.6%)とは大きな隔たりがある(ニューズウィーク日本版2018年9月5日より)。

上野さんは、東大生たちがいかに“恵まれた”環境で育ってきたのか、そのことに触れ、そのことに自覚的であって欲しいと述べた。

あなたたちはがんばれば報われる、と思ってここまで来たはずです。ですが、冒頭で不正入試に触れたとおり、がんばってもそれが公正に報われない社会があなたたちを待っています。そしてがんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったこと忘れないようにしてください。あなたたちが今日「がんばったら報われる」思えるのは、これまであなたたちの周囲の環境が、あなたたちを励まし、背を押し、手を持ってひきあげ、やりとげたことを評価してほめてくれたからこそです。世の中には、がんばっても報われないひと、がんばろうにもがんばれないひと、がんばりすぎて心と体をこわしたひと...たちがいます。がんばる前から、「しょせんおまえなんか」「どうせわたしなんて」とがんばる意欲をくじかれるひとたちもいます。

あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください。そして強がらず、自分の弱さを認め、支え合って生きてください

入学生、保護者、SNSの反響は

渋谷

GettyImages/Yanis Ourabah

実際、上野さんの祝辞を聞いた人たちはどう感じたのだろうか。娘と一緒に入学式に出席した父親に感想を聞いた。

「祝辞が進むにつれ、会場は静けさを増したように感じました。自分の子どものその晴れ姿を目に収めようとウキウキと参加した私のような親たちの中に、こんな話を聞くことになると予想した人はいなかったと思います。

中高一貫の私立女子校で育った娘に祝辞の感想を聞いたのですが、あまりピンと来ていない様子でした。東大女子が入れないサークルがあることもあまり気にしてない様子でしたが、これからそんな場面に数多く出会うでしょう。その時初めて、今日の上野さんの祝辞を噛みしめることになるのかもしれません。今日、上野さんの言葉を娘に聞かせることができたことは、得難い幸運でした」

上野さんの祝辞の内容が明らかになると、Twitterは賛否が溢れ、一時「#東大入学式2019」がトレンド入りした。

反論したのは男性が目立った。

#東大入学式2019「上野氏の話自体にとやかく言うつもりはないけど祝辞で言う内容なのか?とは思う」

「上野さん、少なくとも入学式で言うこと?そんなに伝えたいなら自分で講演会主催しろよって感じだ」 #東大入学式2019

「なんかこう共感できることはあるんだけど言い方がキツすぎる。少なくとも入学式の祝辞で言うことではなくね..」.#東大入学式2019

「上野さん、典型的なちょっとアレなフェミニストだな。東大に女子がもっと入るべきなのは事実だけど、東大男子をdisるのは御門違いなんじゃねーの。」 #東大入学式2019

東大の危機感の現れ

一方で、上野さんに祝辞を依頼した大学側の意図についてのTwitterも多かった。

#東大入学式2019「まぁ、一応『東京大学の入学式の祝辞』なので、教授自身だけじゃなく色々な人が関わりそれなりに色々練られているとは思われるので、そこに東京大学の問題意識を見出すという聴き方はできる。」

「入学式の来賓祝辞、上野千鶴子だったんだ。この人を呼んで全員に話を聞かせるというのはかなり大きな意味があるんじゃないかな、賛否両論あるだろうけど私たちの時は大隅教授だっけな」

「上野千鶴子の東大入学式の文章、読むとそんなに新鮮じゃなくてむしろよく聞く話だな……と思うけど、これが当たり前だと思えるのは上野千鶴子が女性学を切り開いて私が女子高育ちだからだし、これだけ当たり前なことが何度世間で言われていたとしても改善されない現実がわかって辛い」

このスピーチが聞けてよかった、というTwitterも。

「上野千鶴子が来賓の年でよかったなまじで」

「上野千鶴子祝辞、男子からは不人気だろうが、ワイ的にはめっちゃ羨ましい。これを聞いて入学する女性はすごく勇気付けられると思う。」

そして2018年の入学式で祝辞を述べたロバート・キャンベルさん。

「頑張っても公正に報われない社会が待っている。頑張ったら報われると思えることが、恵まれた環境のおかげだったことを忘れないでほしい」上野千鶴子さん、今朝行われた東大来賓祝辞。素直に耳を傾けたいお話です。全文が、早く読みたい。http://news.livedoor.com/article/detail/16305454/ …

東京大学本部広報課に上野さんに祝辞を依頼した背景を問い合わせたが、「来賓の選定理由その他、お答えできません」との回答だった。

そして2000年に東大を卒業したある女性は、この祝辞を読んで涙が流れたという。

「私が感じたのは、まだこんなことを言わなくてはいけないのか、20年前と同じだという落胆みたいなものと、入学式でこういうメッセージが伝えられる時代が来たんだ、という感動。

そして、これから東大女子がみんな経験していくであろういろいろな苦しいこと、そこに思いを馳せて思わず涙が出ました。大学時代だけでなく、社会に出るともっと厳しくなるからです。

大学時代はそうは言っても守られていたけれど、社会人になると東大で女子というのは叩かれる対象にもなるので、そういう意味での苦しいこと、を思い出しました」

(文・分部麻里、竹下郁子、浜田敬子)

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