ブレグジット期限延長で合意。「もめたら間を取る」欧州流で着地も、本音は「早く出て行け」?

臨時EU首脳会議。

4月10日、ブリュッセルで開かれた臨時EU首脳会議。8時間に及ぶ議論の末、イギリスのEU離脱(ブレグジット)期限を10月31日まで再延長することで合意したが……。

Kenzo Tribouillard/Pool via REUTERS

4月10日に開催された臨時EU(欧州連合)首脳会議は8時間に及ぶ議論の末、イギリスのEU離脱(ブレグジット)期限に関し、10月31日まで再延長することで合意した。

事前報道の通り、EUのトゥスク大統領は最大12カ月間、イギリスのメイ首相は3カ月間(6月末まで)を主張していたが、結果は足もとから約6カ月間の延長に落ち着いた。揉め事のたびに「間を取る」ことで局面を打開してきた欧州らしい結末である。

最大公約数だった「10月31日」

フランスのマクロン大統領。

臨時EU首脳会議に臨むフランスのマクロン大統領。離脱期限の長期延長に反対する姿勢を貫いた。

REUTERS/Yves Herman

「10月31日」は欧州委員会の現執行部が刷新されるタイミングゆえに選ばれたとの解説が多い。もちろん、そうした意図もあろう。

しかし、会議における利害調整を図る中で、「間を取るならこのタイミングが良さそう」という発想から恣意的に10月31日が選ばれた面もないとは言えまい。

同じ理屈で、欧州議会が刷新されるタイミングが7月2日なのだから、「7月1日」でも良かったはずである。それでは合意を得られなかったということだろう。

短期延期を主張するイギリスや一部のEU加盟国(フランス)と、長期延期を主張する大多数のEU加盟国にとっての最大公約数が6カ月だったということであり、そのタイミングの着地点(10月31日)にたまたま「欧州委員会の刷新」という大義があったのではないかと推測する。

マクロン仏大統領は「EU首脳の過半数が非常に長期の離脱延期を支持していたことは事実だ。しかし、私から見ればそれは論理的ではなく、何よりわれわれにとってもイギリスにとっても良いことではなかった」と述べている。

恐らくフランスの反対がなければ、延長期限はより長期に及んでいたと思われる。マクロン大統領は、期限を延ばすほどユーロ圏共通予算の設立といったEU改革の進展に支障をきたすと主張していたが、それ自体は正論だろう。

なお、多くのEU加盟国が長期延期を主張した背景には、「長期延期するほど有権者が残留へ期待を持つようになり、強硬離脱派が離脱協定案を支持せざるを得なくなる」という打算があったと言われている。

そうした打算にも一理あるが、実際は長期延期を「EU残留」とみなし、感情的になる強硬離脱派の方が多いのではないか。そもそも有権者の意見に耳を傾けていたら英議会は現状のようになってはいまい。

メイ首相が目指す「6月末までの離脱」は望み薄か

イギリスのメイ首相。

臨時EU首脳会議の後、記者会見するイギリスのメイ首相。「できるだけ早く離脱せねばならない」と語ったが……。

REUTERS/Yves Herman

今回の延長期間は「離脱協定案が英議会に承認された時点で離脱を前倒しできる」というオプション付きなので、「10月31日までのいずれかの時期に離脱」が正確な解釈となる。

メイ首相も同様の発言(後述)をしていたが、5月の早い段階で離脱協定案を承認できれば、元々希望していた「6月末までに離脱」も可能である。

だが、現実問題として想定すべきは、「早く決着すること」ではなく「また延長されること」であろう。あと1カ月足らずで離脱協定案が議会承認に至るとは思えず、イギリスは与えられた時間を限界まで使うようにしか思えない。

問題は、その上で「何が決まるか」である。会議後、オランダのルッテ首相は10月31日を超える再延期の可能性に関し「極めて低い」と述べているが、従来の離脱期限だった「3月29日」についても似たような言説が飛び交っていた。市場参加者としてはもう安易に信じるわけにはいくまい。

「新たな期限」はもう信用できない

ロンドンのトレーダー。

新たな離脱期限は、また反故にされるのか?ブレグジットの行方に市場関係者が振り回される日々は続きそうだ。

REUTERS/Peter Nicholls

確かに、「後付けっぽさ」が否めないとはいえ、10月31日が「重要な日付」であることに疑いはない。これまで3年弱、交渉を行ってきた現EU執行部相手の方が事態の収拾が円滑になるのは当然だろう。

しかし、これまでの経緯を踏まえれば、「重要な日付」だからと言ってイギリスがこれを遵守するとは限らない。

そもそもブレグジット交渉の最初の期限は、離脱関連法案の審議や可決、施行のタイミングに鑑み「2018年秋」と言われていた。それまでにあらゆる合意を済ませておかなければ、2019年3月29日の離脱には間に合わないという話だった。しかし結局、交渉は3月29日の1週間前まで続いた。

あの時、直前のEU首脳会議(3月21日)で合意した場合、3月29日に離脱できていたのだろうか。イギリスとEUが合意に至っても、「実際に離脱するための準備期間として最低半年は必要」と言われていたことを考慮すれば、3月に離脱協定案を英議会が可決しても9月までは加盟国であり続けたという可能性もあったのではないのか。

だとしたら、5月23~26日に予定される欧州議会選挙には、元々参加しなければならない話だったということになる。

また、今回の臨時EU首脳会議以前に設定されていた期限「4月12日」にも重要な意味はあった。イギリスが欧州議会選挙に参加するならば、その6週間前であるこの日までに方針をはっきりさせる必要があると言われていた。

しかし、今回の合意を見る限り、4月12日が重視された跡は見出せない。合意文には「もしも英国が5月23~26日においても加盟国であり、5月22日までに離脱合意案を批准できていない場合、EUの法規にしたがって欧州議会選挙に参加する義務がある。仮に参加しない場合、延長期間は5月31日に終了する」と記されている。

4月12日までに通知する必要はないのだろうか。今回の臨時EU首脳会議後の会見でもメイ首相は「できるだけ早く離脱せねばならない。5月の前半に離脱案を承認できれば、欧州議会選に参加する必要はない」などと述べているから、5月22日までに参加の有無を決すれば良いということになったのだろう。「4月12日」と欧州議会選挙の関係は結局うやむやである。

「5月31日以前に出て行ってほしい」がEUの本心か

反ブレグジット派

4月11日、ブレグジットに反対し、ロンドンの国会議事堂の前でEU旗を掲げる人たち。EUの本音は「イギリスには早く出ていってほしい」にも思えるが……。

REUTERS/Gonzalo Fuentes

これまでの経緯を踏まえれば、今後想定される「重要な日付」をどこまで真に受けるかは悩ましいものがあるが、あえて列挙すると「5月22日」、「5月31日」、「10月31日」ということになりそうだ。また何事もなかったかのように反故にされる可能性もあるが、市場参加者としては注目せざるを得ない。

また、6月20~21日のEU首脳会議では、英議会の離脱案の承認状況やEU加盟国としての行動を検証するとの報道がある。何をどう検証するのか見当もつかないが、これらの日付も念頭には置くことになるだろう。

真っ当に考えれば、3度否決された案が早晩承認に至るとは思えないので、イギリスは欧州議会選挙に参加することで「5月22日」や「5月31日」といった日付を突破するだろう。

ただその際、すでに2018年2月に改定を決定してしまった欧州議会の議席問題にも対処する必要が出てくる。

すでに欧州議会はイギリスの73議席が抜けることを想定し、総議席数を705議席に削減した上で27議席を人口比補正のために再配分し、46議席を将来の拡大のために残すことを決定している。今回、やはりイギリスは参加で……となると、そうした決定を遡及改訂し、以前の姿に戻すということになるのか。それとも新しい案を検討するのか。

いずれにせよ、最終的にいなくなる議員を選ぶ選挙は無駄の極みであろう。それはEU自身が一番感じていると思われる。

そう考えると、EUが今回の合意で提示したかった本音は「10月31日まで延期」ではなく、「欧州議会選挙に参加せず、5月31日以前に出て行ってほしい」というようにも読める。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。


唐鎌大輔:慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)国際為替部でチーフマーケット・エコノミストを務める。

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