米軍、強襲揚陸艦をF-35Bを搭載した「ライトニング空母」に転用、護衛艦「いずも」の先例か

強襲揚陸艦USSワスプ。

強襲揚陸艦USSワスプ。

U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 1st Class Daniel Barker

  • アメリカ海軍と海兵隊は強襲揚陸艦に通常より多くのF-35Bを搭載、これは「ライトニング空母」と呼ばれる新しいタイプの空母の実験と専門家は見ている。
  • F-35Bを搭載したライトニング空母は、理論的にローエンドな脅威に対応できる。それにより、「大型空母」をロシアや中国のようなハイエンドな脅威に注力させることが可能になる。
  • ライトニング空母はまた、アメリカの空母戦力全体を増強し得る。
  • 「海兵隊はこれが大型強襲揚陸艦のベストな使い方と認識しつつあるだろう」と専門家は語った。

アメリカ海軍はワスプ級強襲揚陸艦USSワスプ(Wasp)を2019年4月はじめ、南シナ海に派遣。異例とも言える数の海兵隊のF-35Bを搭載していた。

「今まさに実験が行われている」と元アメリカ海軍大尉で海事問題の専門家ジェリー・ヘンドリックス(Jerry Hendrix)氏はBusiness Insiderに語った。同氏によると、海軍と海兵隊は「ライトニング空母(Lightning Carrier)」の実験を行っている。

短距離離着陸が可能なF-35Bを搭載したライトニング空母は、理論的にローエンドな脅威に対応できる。それにより、「大型空母」をロシアや中国のようなハイエンドな脅威に注力させることが可能になる。つまり、アメリカ海軍の空母戦力を大きく向上させることができると同氏は語った。

強襲揚陸艦ワスプは少なくとも10機のF-35Bを搭載し、南シナ海で訓練を行った。

USSワスプ

10機のF-35Bを搭載したUSSワスプ。

US Navy/USS Wasp/Facebook

強襲揚陸艦ワスプ(Wasp)はフィリピンで行われたバリカタン(Balikatan)演習に参加した。ワスプは少なくとも10機以上のF-35Bを搭載、通常ワスプが搭載する機数よりも多い数だ。

「演習を行うごとに、我々は最新鋭機としてのF-35Bの能力、F-35Bの最大の活用方法、他のプラットフォームと統合する方法について、より多くのことを学んでいる」とアメリカ海兵隊の広報担当官はBusiness Insiderに語った。

ワスプは領有権が争われている南シナ海のスカボロー礁近くで訓練を実施した。

アメリカ海軍とアメリカ海兵隊は数年前から「ライトニング空母」の実験を進めている。

USSアメリカ

強襲揚陸艦USSアメリカ。

U.S. Marine Corps Photo by Cpl. Thor Larson

アメリカ海兵隊は2016年11月、「ライトニング空母」のコンセプトを実証するデモンストレーションを実施。最新鋭のアメリカ級強襲揚陸艦USSアメリカ(America)に12機のF-35Bを搭載した。

「実験はこれが現実の選択肢となることを示した」と海事問題の専門家で、アメリカ海軍作戦本部長の元特別補佐官を務めたブライアン・クラーク(Bryan Clark)氏はBusiness Insiderに語った。

「海兵隊はこれが大型強襲揚陸艦のベストな使い方と認識しつつあるだろう。こうした展開はますます多くなると思う」と同氏は付け加えた。

ライトニング空母は約20機のF-35Bを搭載可能。

F-35Bの搭載例。

F-35Bの搭載例。

US Marine Corps

アメリカ海兵隊は、2017年の海兵隊航空計画(2017 Marine Aviation Plan)でライトニング空母の詳細計画を発表。2025年までに185機のF-35Bを運用するとした。「7隻すべて」の最新鋭強襲揚陸艦に十分配備可能な数だ。

「強襲揚陸艦は決して空母を置き換えるものではない。新しい発想で運用できれば、補完的なものとなり得る」と海兵隊は記した。強襲揚陸艦、特にアメリカ級強襲揚陸艦は理論的には16〜20機のF-35Bが搭載可能、併せてV-22 オスプレイをベースにした空中給油機を運用する。

「ライトニング空母は、海上基地としての強襲揚陸艦の利点を最大限に生かし、アクセス、回収、攻撃の大きな能力を海軍と統合部隊に提供する」

ライトニング空母は新しいコンセプトではなく、数十年前から存在する。

AV-8B ハリアー

強襲揚陸艦USSボノム・リシャールに着艦するAV-8B ハリアー。

US Navy

ライトニング空母のコンセプトは、かつて「ハリアー空母」と呼ばれたコンセプトが新たに生まれ変わったもの。ハリアー空母は強襲揚陸艦をAV-8B ハリアーを搭載した軽空母に転用した。

「我々は両用即応グループ(amphibious readiness group)が通常搭載するハリアーの2倍、ときには3倍のハリアーを強襲揚陸艦に搭載して本質的に軽空母として使用し、限定的なエリアでの制海、制空能力の提供を実現した」とヘンドリックス氏は述べた。

「ハリアー空母」コンセプトはこれまで少なくとも5回、採用された。例えば、強襲揚陸艦USSボノム・リシャール(Bonhomme Richard)はイラク戦争に「ハリアー空母」として派遣するために再編成された。

「これは強襲揚陸艦にとって通常の姿ではない」と当時、アメリカ海軍上層部は述べた。

「我々が持つ航空戦力が空母のような運用を可能にした」

ライトニング空母はアメリカの空母戦力全体を増強し得る。

強襲揚陸艦ワスプに並ぶF-35B

強襲揚陸艦ワスプに並ぶF-35B ライトニングII。

U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 1st Class Daniel Barker

ライトニング空母は、スーパーキャリアよりも能力は劣る ── 主に、F-35Bは海軍のF-35Cよりも航続距離が短く、搭載される機数も少ないため ── だが、まさにアメリカの空母戦力を増強し得るものとなる。

「攻撃能力と制海能力が向上する」とヘンドリックス氏はBusiness Insiderに語った。

強襲揚陸艦は航空戦力を強化するために空母部隊に統合される。あるいは、独立した両用即応グループに配備され、部隊のサポートと航空支援を担う。

「強襲揚陸艦は、その能力を活用し、持ち得る攻撃力を発揮し得るコンセプトを実現する有意義な方法によって、制海、さらには攻撃能力に変えることができる」とヘンドリックス氏。そして、これはアメリカ海軍の接近を防ぐために敵対勢力が長距離ミサイルや機雷といった戦術を積極的に採用していることを考えると、「賢明な」動きと付け加えた。

F-35Bを搭載したライトニング空母をローエンドな脅威に対応させることによって、大型空母はより深刻な問題に対応可能となる。

強襲揚陸艦USSワスプ。

強襲揚陸艦USSワスプ。

U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 1st Class Daniel Barker

「我々はこの1年、海軍が中東に空母打撃群の代わりに両用即応グループを派遣する様子を見てきた」とクラーク氏。

その際、海軍は空母を大西洋と太平洋に派遣していた。ロシア、中国といった超大国がアメリカの軍事力に対抗していたエリアだ。

2018年秋、強襲揚陸艦USSエセックス(Essex)はペルシャ湾に向かい、同艦から出撃した海兵隊のF-35Bはアフガニスタンのタリバンを相手に、初めて実戦に参加した。

当初ペルシャ湾への派遣を予定されていた空母USSハリー・S・トルーマン(Harry S. Truman)は、NATOの演習に参加するために北大西洋に向かった。


[原文:US Marines turned a warship into an F-35 'Lightning carrier' in a test to boost US power

(翻訳、編集:増田隆幸)

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