本社オフィス廃止、社員全員フルリモートの会社。孤独を感じない秘訣とは

リモート飲み会。

ソニックガーデンの「リモート飲み会」。思い思いの飲み物やつまみを用意した各地の参加者をテレビ会議でつなぐ。

同社提供

どこでも仕事ができるリモートワーク。子育てや介護といった事情を抱える働き手も増えるなか、「柔軟な働き方」を実現する手段の一つとして政府も普及を後押しする。しかし、現場では「対面コミュニケーションが足りなくなって仕事がうまく回らない」といった問題も生じており、導入企業は伸び悩む。

そんななか、紆余曲折の末に本社オフィスを廃止し、「全員フルリモート」のワークスタイルを確立したITベンチャーがある。なぜ、うまくいっているのだろうか?

決まりは「バーチャルオフィス出勤」

Remmotyの説明資料から。

ソニックガーデンが自社開発したバーチャルオフィス「Remotty」(リモティ)。働いている同僚の顔が見え、周りで交わされるチャットによる会話はすべて見ることができる。

同社の資料から

クラウドで動くウェブアプリケーションの受託開発を手がけるソニックガーデン。経理業務などは外注し、全国の約20都道府県に散らばる40人ほどの常勤者は経営陣を除き、全員が数人ずつのチーム単位でプログラマーの仕事をこなしている。仕事場は主に各自の自宅で、顧客とのやりとりもテレビ会議が基本だ。

正社員や業務委託など契約はさまざまだが、勤務時間や勤務日、働く場所は各自で調整できる。ただ、一つだけルールがある。仕事中は原則として「バーチャルオフィスに出勤している」ことだ。

具体的には、自社開発したRemotty(リモティ)というツールにパソコンなどでログインしている状態を指す。

画面には、仕事中の全員の顔が常に映し出されている。「おはよう」「あれ、髪切った?」といったあいさつや雑談がチャットで自然に交わされる。リモート特有の「孤独感」は感じない。

誰かと話したければ、バーチャルオフィスで相手の「席」に移動し、チャットで「ちょっといい?」と声をかければいい。難しい顔で悩んでいる人がいたら「どうしたの?」とフォローすることもできる。

テキストのやりとりでは間に合わない、突っ込んだ打ち合わせが必要なら、そのままテレビ会議に移ることもできる。

雑談も含めて社内で交わされるチャットはすべて画面上に流れ、誰でも見ることができるが、すべてに目を通すことが前提ではない。リアルなオフィスで周りの会話が自然に聞こえてくるのと同じような感覚だ。

リモートワークについては、独りで仕事に集中しやすいため「働きすぎ」に陥る危険性も指摘される。Remottyでは同僚が次々に退勤していく様子が分かるため、「そろそろ自分も引き上げようかな」という気分になるのは、リアルなオフィスにいる時と変わらないという。

ソニックガーデンの創業者で社長の倉貫義人さんは言う。

「本社オフィスをなくしても、そこにあった機能をなくしたわけではありません。むしろ、チームで仕事をするうえでオフィスは必須だと考えています。ただし物理的に存在する必要はなく、その機能を備えたバーチャルオフィスがあればいい、ということです」

ちょっとした相談や雑談がしづらい

東京都世田谷区にあるサテライトオフィス。

東京都世田谷区にあるサテライトオフィスで同僚と談笑する、ソニックガーデンの創業者で社長の倉貫義人さん(左)。「あれ、髪切った?」といった雑談はリアルなオフィスだけでなく、リモートでも自然に交わされている。

撮影:庄司将晃

今のワークスタイルにたどりつくまでには、さまざまな試行錯誤があった。

システム開発大手の社内ベンチャーが独立して、今の会社ができたのが2011年。東京都心に本社オフィスを構えたが、当時からIT業界では優秀な人材の獲得競争は激しかった。東京以外の人材にも門戸を広げようと、リモートも念頭に「勤務地不問」でメンバーを募った。

2012年、独立後の採用第1号は兵庫県在住。スカイプをつなぎっぱなしにして、東京都心のオフィスに通うほかのメンバーといつでも会話できるようにした。同じオフィスで働いているような感覚で仕事ができた。

総勢10人前後まで会社が大きくなり、地方に住むリモートワーカーも増えて音声通話が交錯するようになると、イヤホンをつけて仕事している全員に「すぐそばでしゃべっているような大きな音量」で聞こえてしまい、うるさくて仕方がなくなった。つなぎっぱなしをやめ、ビジネスチャットアプリのSlackや、テレビ会議でコミュニケーションするようになった。

すると遠く離れた場所にいる同僚は、テレビ会議でリアルに会話できても、終わったとたんに「存在感」が消えてしまう。いまパソコンの前にいるかが分からないので、ちょっと相談したくてもチャットで声をかけづらい。まして雑談なんて……といった現象が起きた。

東京のメンバーとリモートワーカーの間で、コミュニケーションや情報量の密度において大きなギャップが生じてしまったのだ。

アイデアとチームワークを生む「雑談」は不可欠

ビジョン合宿。

数人から10人前後で集まり、個人としてやりたいことや会社の方向性について徹底的に話し合う1泊2日の「ビジョン合宿」。各自が年1、2回参加する。

ソニックガーデン提供

「お互いの顔を見ながら仕事をし、気軽に雑談できることは非常に重要です。時間が限られたフォーマルな会議では出てこないアイデアが生まれたり、同僚の家族の状況や仕事に対する姿勢を理解することでチームワークが醸成されたりするからです」(倉貫さん)

どこにいるかにかかわらず、すべてのメンバーがフラットにコミュニケーションできるようにしたい。既存のツールでは難しいなら、自前で作ってしまえ——。そして、たった5日ほどでできたのがRemottyだった。

東京のオフィスに通うメンバーも、仕事中は常にRemottyを使うことにした。すると「満員電車に揺られてオフィスに行っても、行かなくても同じ」状態になり、東京でもリモート組が多数派に。使う人が減り、賃料や維持費がもったいないため本社オフィスを2016年に廃止。今のワークスタイルが確立した。

「自宅では作業しづらい」という人もいるので、ニーズに応じて東京や神奈川、岡山など5か所に小さなサテライトオフィスも設けた。日常的に利用するのは計10人弱だ。

ただ、同じサテライトにいる複数のメンバーが遠くの同僚を交えてテレビ会議をする時は、あえて別々の部屋に分かれるなどして話をするのがルール。お互いに対する距離感をそろえ、「フラットなコミュニケーション」を徹底するためだ。

雑談の延長線上にある「飲ミュニケーション」もリモートで実現している。思い思いの飲み物やつまみを用意した各地の参加者をテレビ会議でつなぐ「リモート飲み会」を有志で時々開く。

リアル合宿で徹底討論、社員旅行には家族も

家族会。

メンバーの家族も参加する1泊2日の社員旅行「家族会」は毎年の恒例行事だ。

ソニックガーデンのウェブサイトより編集部がキャプチャ

その一方で、リアルに顔を合わせる機会をとても大事にしている。

数人から10人前後で集まり、個人としてやりたいことや会社の方向性について徹底的に話し合う1泊2日の「ビジョン合宿」。各自が年1、2回参加する。

メンバーにとっては娯楽でもあるプログラミングを楽しみながら、いつものチームとは違う面々と交流したり技術を学んだりする2泊3日の「ハッカソン合宿」も恒例行事だ。

メンバーの家族をねぎらう1泊2日の社員旅行「家族会」も毎年実施する。こうした部分だけを見れば、まるで「昭和の会社」だ。

「チームワークで成果を上げるには、メンバー間の信頼関係が欠かせません。物理的に一緒にいても、互いに信頼感がなければチームワークは機能しませんよね。みんなが同じ場所で働きさえすればコミュニケーションがうまくいくわけでもないし、逆にリモートだからうまくいかないということもない。

僕らの会社について言えば、リモートワークのデメリットは一切ありません。

デスクワークが中心ならどんな仕事であっても、きちんとステップを踏んでテクノロジーを活用すれば、生産性の高いフルリモートワークは必ず実現できます」

倉貫さんはそう言い切る。

ソニックガーデンの経験から得られるのは、「中途半端が一番良くない」という教訓だ。リモートワークを本気で成功させたいなら、それなりの手間と工夫が欠かせない。あなたの会社ではうまくいきそうだろうか?

(文・庄司将晃)

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