好調ユニクロ牽引する中国事業。ブランド化成功させた立役者のキャリア

ファーストリテイリングが手がける「ユニクロ」の中国事業が今期(2019年8月期)、売上収益5000億円、営業利益850億円に達する見通しだ。

ユニクロ上海旗艦店

グローバル旗艦店「ユニクロ上海南京西路店」を2010年5月15日に開業。開店前には約1200人が行列し、終日入場規制を行うほどの盛況ぶりを見せた。

撮影:松下久美

2002年に上海に中国1号店を出店してから17年間で、ユニクロの中国事業だけで「無印良品」を展開する良品計画の売り上げ(4096億円、2019年2月期実績)を超え、2018年東証1部に再上場を果たしたワールド(2490億円、2019年3月期見込み)とオンワードホールディングス(2407億円、2019年2月期実績)の2大アパレルを足しても届かないところまで拡大している。

中国進出当時3441億円だったファーストリテイリングの売り上げは今期、2兆3000億円に達する見込みで、中国事業が成長ドライバーになっていることは間違いない。

2021年度には1000店舗突破

ユニクロの中国事業は、香港、台湾を含めたグレーターチャイナ地域をカバーする。

4月11日に発表された2019年8月期上期決算では、景気のスローダウンと暖冬の影響を受けて、経済規模が小さい香港、台湾では減収減益となったが、中国大陸は力強く成長し、売上収益、営業利益がともに2割伸びている。

店舗数は2月末現在、中国大陸で673店舗、香港で28店舗、台湾で67店舗の計768店舗。

「購買力、発信力の強い1級都市(北京、上海、広州、深セン)を中心に出店し、1級都市での店舗数は200店舗と中国大陸の店舗数の約3割だが、2級都市、3級都市も成長ポテンシャルが高いので、攻めていきたい。今後も年間100店舗前後の出店を継続し、2021年度には1000店舗体制を突破する予定だ」

と潘寧ファーストリテイリング上席執行役員・グレーターチャイナCEO。

ECが台頭し、ZARAを要するインディテックスやH&M、ギャップなど多くのアパレル小売り企業が欧米で店舗網を再編して店舗数を減らしたり、トップショップやニュールックが中国から撤退する中で、ユニクロの中国事業の出店パワーは他を圧倒している。

店舗とECで早く届けられる体制

ユニクロ中国

ユニクロの中国の店舗でも大量の色柄を整然と並べて、選ぶ楽しさと同時に、品質、デザイン、サービスの良さをアピールしている。

提供:ユニクロ

好調な要因は4つある。

1つはブランディングだ。「2018中国著名ブランド・デジタルマーケティング・バリューランキング」で4年連続1位を獲得したり、「キャンペーンマガジン」の「2018年 グレーターチャイナ・ブランド・オブ・ザ・イヤー」や、現地ビジネス誌「第一財経週刊」による「ゴールデンブランド」に7年連続選出されたり。

「ショッピングセンターが選ぶ人気服飾ブランド」でも2018年度1位など高評価を受け、各地の商業施設から好立地・大規模の出店依頼が相次ぐ。結果、好条件でスピード出店できているのも高成長・高収益の理由だ。

2つ目は、日本以上にEC事業が発達している中国で、オムニチャネル化をいち早く整備したことだ。結果、EC売上高が順調に伸びている(オムニチャネルとは、あらゆるメディアで顧客との接点を作り、購入の経路を意識させない販売戦略)。

ECの市場規模は中国がダントツで世界トップだ。ユニクロ中国のEC売上高は前年同期比3割増収を達成し、EC化率は約20%に向上。今期末には単純計算でEC売上高が1000億円に達することになる。

ユニクロでは、店舗とオンラインが融合した新しい小売りのスタイルを確立。特に国土が広い中国大陸では、店舗がECの倉庫の役割を担い、注文が入ると店舗在庫から発送し、購入された商品をいち早く届けられる体制も徐々に整備している。

2021年8月期には中国でのEC化率を3割超にしたいと計画中だ。

安い中国仕様商品で失敗

ユニクロ中国

北京にあるユニクの三里屯店。ナイキ、アディダス、ザ・ノース・フェイス、アップルストア、ジバンシィなどグローバルブランドが軒を連ねる好立地に出店。

提供:ユニクロ

3つ目は、SNSによるマーケティング効果だ。新商品や新しいイベントをSNS上で積極的に配信して集客している。中国大陸ではWeChat(ウィーチャット)やWeibo(ウェイボー)などのSNSプラットフォーム上のマーケティングによって、若年層の新規顧客が大幅に増加している。

ファッション業界で消費者に対しても大きな影響力を持つKOL(キー・オピニオン・リーダー=日本でいうところのインフルエンサー)の獲得にも成功。KOLが発信した情報を見て商品を購入した客がさらに自身のSNSで新商品のニュースや着こなしなどについて発信している。

とはいえ、中国事業は初めから順風満帆だったわけではない。

2002年の中国進出時に指揮を執った中国人責任者は、日本のユニクロの、「老若男女、誰もが着られるカジュアルウエア」のコンセプトをそのまま中国に持ち込もうとして失敗した。

増値税(いわゆる関税)が17%と高く、同じ商品でも日本よりも価格が高くなるため、当時の中国の所得水準などを勘案して、日本に比べて原価が安くて買いやすい中国向け専用商品を生産・販売した。現地向けに商品を“ダウングレード”したわけだ。ところが、ローカルブランドから露天で売られる服まで、ユニクロよりも低価格の商品であふれる中国では、価格は競争優位性にならなかった。

ベーシック・高品質・低価格で知られる「日本のユニクロ」の買い物経験がある中国人にとって、「中国のユニクロ」は別物だと評価され、そっぽを向かれてしまった。

日本流サービスと高価格で人気

ユニクロ上海旗艦店

中国初のグローバル旗艦店(当時)の開店に際して、縁起の良い数字「8」にちなんだ88色のポロシャツや、中国を代表するアーティストも企画に参加したTシャツブランド「UT」、ジーンズなどでアピール。2010年5月。

撮影:松下久美

転機は、現在、グレーターチャイナCEOを務める潘氏が手がけた香港進出だった。

潘氏は1968年、中国・南京生まれ、北京育ち。1987年に来日して日本語学校で学んだ後、1989年に日本大学商学部に入学。大学院の修士課程を修了後、1995年、当時売上高333億円、従業員数397人というファーストリテイリングに入社。

ユニクロの原宿出店(1998年)や、急成長を遂げたフリースブーム(1999~2001年)よりも前の、山口に本社を置くいわゆる地方のカジュアル専門店だった時代を知る貴重な人材だ。店員からスタートし、店長、店舗運営部、中国での生産担当、M&A担当など、たたき上げで幅広いキャリアを積んでいる。

2005年に香港の総経理に就任。最初の大きな仕事として、香港の繁華街の一つ、尖沙咀(チムサアチュイ)にあるミラマーショッピングセンターにワンフロアで350坪という大型店を9月にオープンさせた。

ローカルブランドと差別化するため、日本と同じイメージの内装とし、価格は日本よりも高く設定するなど、「ブランド化」を徹底。日本流のサービス提供にも力を入れた。これが大人気となり、当時、日本以上の高い経常利益を生み出すことになった。

その手腕を買われた潘氏は、中国の経営にも参画。2005年末に中国大陸の責任者にも着任。中国事業の見直しに際して、顧客ターゲットを「中産階級以上」に上方修正。商品や店舗は日本と同じクオリティに引き上げ、価格は香港と同様、日本よりも10~15%高く設定。

「ユニクロはサービスである」をスローガンに、日本の代名詞ともいえるサービスを付加価値として提供。この刷新が、一気にブランドとしての地位を確立し、現在では、「性价比」(日本語で「質と価格のバランス」という意味)がとても高いブランドだと広く認知されるきっかけになった。

2006年7月の上海・港汇(ガンフィ)店、12月の上海・正大広場店、一度は撤退した北京に2008年3月にに北京に再出店した西単・大悦城(ジョイシティ)店、そして2010年の中国初のグローバル旗艦店「上海・南京西路店」、2013年に准海中路にオープンした世界最大規模のグローバル旗艦店「ユニクロ上海」が「高付加価値」を決定付けた。

柳井氏の意思を継ぐ全員経営

ユニクロ上海旗艦店

グローバル旗艦店「ユニクロ上海南京西路店」のオープン内覧会で意気込みを語った潘寧グレーターチャイナCEO(右)と柳井正会長兼社長(左)。2010年5月

撮影:松下久美

成功の4つ目の要因は、経営者である柳井正会長兼社長の意思を継ぎ、潘氏自ら陣頭指揮を執っている「強いチームワーク経営・全員経営」の徹底だ。

「競争が厳しい中国市場で生き残るためには、常に緊張感を持つ強いチームワークの経営体制を確立してきた。経営陣が日常のコミュニケーションを通じて社員一人一人に明確に経営方針を伝え、徹底した従業員教育を実施している。(本社の)グローバル本部と強い協働体制を組み、成功事例を学び合うこと、チームワークでの経営を実践することによって、グレーターチャイナの商売を成功に導いていく」と潘CEO。

「1店舗1店舗、丁寧に『個店経営』をし、収益を高めていく」という通り、「ローコスト経営」も徹底。「赤字店舗ゼロ」を目指し、直近でも投資額が高かったグローバル旗艦店1店舗以外は、すべての旗艦店で黒字を達成。

定員500人の採用に対して、10万人が応募するほどの人気企業になった中国のユニクロ。今後もさらにグローバルでの成長を加速させる。

松下久美:ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表。「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。2017年に独立。著書に『ユニクロ進化論』。

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