2019年に入って、駅ナカやテイクアウト店にも進出し始めた串カツ田中。
居酒屋チェーン「串カツ田中」が快進撃を続けている。串カツ田中ホールディングスの2018年11月期の連結決算は、単独決算だった前期までと単純比較はできないが、東証マザーズに上場した2016年11月期から、実質的に3期連続で売上高と経常利益が前期より増えている。
多くの居酒屋の常識を覆してきた串カツ田中の「逆転の戦略」とは?取締役経営戦略部長の坂本壽男氏に聞いた。
崖っぷち経営で世田谷に1号店
「場末の居酒屋」感のある店内。
今や全国に231店舗を構える、“大阪伝統の味”串カツ田中。トレードマークは黄色味がかった白のテント看板に、安っぽいとも思えるテーブルと、パイプいす。
メインメニューはもちろん100円から200円の串カツだが、価格帯290円〜590円ほどの一品料理も充実している。
“大阪伝統の味”とうたう串カツ田中の歴史は、創業社長である貫啓二氏の「崖っぷち経営」からはじまった。
「以前からサービス業に携わりたかった」という貫氏は、27歳の時にトヨタ自動車のグループ会社を“脱サラ”して大阪でバーを始めた。デザイナーズレストランなども手がけた後、東京・青山に高級和食料理店をオープンしたが、リーマンショックのあおりを受け、接待需要が激減。
「どうせ潰れるのなら」と、大阪のバーでアルバイトをしていた現在の副社長・田中洋江氏の父親のレシピをもとに、2008年、串カツ店を開いた。一等地に店を出す資金はなかったため、安くて人気の物件を探した末、たどり着いたのが東京・世田谷の住宅街の物件だった。
駅から離れた、落ち着いた住宅街に開いた1号店は、そのチープな外見と周囲とのギャップが目を引くが、それも計算されたものではない。
「社長も副社長も、大阪から出てきたので土地勘があまりなかった。世田谷に住んではいたので、近くで良い物件を探したのでは」と坂本氏は冷静に振り返る。
ファミリー層をターゲットに
子ども向けの食育ビラも店内に置かれている。
串カツ田中の経営戦略でよく指摘されるのが、ファミリー層の取り込みだ。
「居酒屋が短命で終わるのは、親から子へ(客層を)引き継げないから。うちは、親子で来られるし、子どもが成長しても飲みに来られる。分断がないから強い」
坂本氏は、社長の貫氏の言葉を借りてそう語る。
実際に、子ども向けメニューも充実している。小学生以下の子どもはソフトクリームが無料。ひとくちサイズの串カツにライスやサラダが載った「お子さまプレート」などのほか、食育ビラを配置するなど子ども向けコンテンツも展開する。
2018年6月からは、ほぼ全店を全席禁煙化。これにより、2018年は前年と比較して、客数に占めるファミリー層の割合が7.5ポイント上がり、20.8%に達した。
「ファミリー客から『子どもを大事にすると言いながら喫煙というのはどうなのか』と矛盾を感じる声をいただいていて、禁煙にするかどうかは1~2年悩んでいた。いちかばちかで(全店禁煙を)決めた」(串カツ田中の広報担当者)
「短期的には売り上げが減るかもしれない」と覚悟したが、メディアに多く取り上げられたこともあり、売上高は直近の四半期(2018年12月~2019年2月)も、前年同期比で実質的に伸びた。
全席禁煙という「思い切りの良さ」
串カツ田中 取締役経営戦略部長の坂本壽男氏。
従来の居酒屋の常識とはかけ離れた“奇策”を繰り出す一方で「(ある施策を)やるとなったらずっとやる」(広報)という、ねばり強さも持ち合わせる。
居酒屋の禁煙化の流れは他店でも生まれているが、例えばユナイテッド&コレクティブが展開する鶏料理居酒屋「てけてけ」などは客離れが止まらず、その後に禁煙を撤回している。こうした店と串カツ田中の違いとして、坂本氏は「思い切りの良さだ」と言い切る。
「業界で一番にやらないと意味がない。そしてやるならやる、やらないならやらない。禁煙に関しても(他店は)喫煙室を分けたり時間帯で分けたりと中途半端だった」
結果として、全店禁煙の取り組みは「ファミリーで使える居酒屋」という串カツ田中のイメージに大きく貢献することになった。
2カ月に一度は家族で串カツ田中に足を運ぶという40代女性は「子連れで気軽にいけて、親も楽しめるお店を探すのに、今まで苦労してきた」と語る。
「夕方5時くらいから行って、メニューもさっと出てくるので、子どもが飽きません。(家族連れだと)1時間くらいで帰るので、回転率も高いのではないでしょうか」
生産性の向上にフォーカス
串カツには、バナナやクッキー&クリームなど変わりダネも。
現在でも店舗の約7割が住宅地にあり「住宅地に強い」とされてきた串カツ田中。今後は、その強固な地盤をもとに、出店計画を広げていく。
2019年1月には東京ドームにテイクアウト専門店を。2月には大阪・難波の駅ナカに。3月には「ファミリーレストラン型串カツ酒場」と銘打ち、初めてロードサイドにも出店。着実に業態の幅を広げている。
さらに力を入れていくポイントを聞いてみると、労働時間短縮の取り組みが挙がった。
広報担当者によると、ファミリー層が増えるなど禁煙化による客層の変化によって、 早い時間(土日の14時〜15時、平日の17時〜18時など)の売り上げが上がったという。
そこからさらに、昼飲みやランチ需要があると見込み、2018年8月から休日・祝日に平均2時間、開店時間を早めることを決めた。
同じく2018年8月から、逆に深夜帯は営業時間を短縮。ゴールデンウィークも、全体の約4割の店舗で1.5~2時間、深夜帯の営業時間を短くするという 。
串カツ田中が切り開いた「ファミレス酒場」。大阪名物の串カツ居酒屋は、東京で思わぬ形で広がりを見せ、全国1000店をめざす巨大チェーンへと成長を続けている。
(文・写真、西山里緒)