誰かがやらなかった家事を尻拭いする、ということをまずやめてみては?
shutterstock / kazoka
例えば、家族に夕飯のためにご飯を炊いておいて、と頼んで出かけたとしよう。おかずの買いものを抱えて帰宅してみると、ご飯が炊けていない。肉を焼いて、サラダでも作って、30分もすれば夕飯だと思って帰宅したのに、ここから炊飯だと思うと予定が大きく狂う。そんなとき、一体どうするか?
炊いてくれるって言ったじゃないの!? 怒りながら、急いでご飯を炊くだろうか? お腹すいたという他の家族を、「ごめんね、ちょっと待ってね」となだめながら、怒りを抱えたまま、とりあえず夕飯の食卓を整える人は多いのではなかろうか。
あるいは、今からご飯を炊く時間を考えると、当初のメニューを全面変更して、短時間で作れるスパゲッティに方向転換し、サラダとあり合わせの材料のスパゲッティにして、事なきを得るだろうか。
それとも、え〜、炊けていないの、じゃぁ、ファミレスに行こうか、という方法もあるかもしれない。
しなかった家事を責めることもしないが尻拭いもしない
いずれのケースも、非常事態に対応できる臨機応変な能力をフル活動させて急場をしのぐわけだが、家族は一体それをどの程度評価してくれているだろうか。
ご飯を炊かなかった、あるいは炊き忘れた人は、その人並みはずれた対応能力に平身低頭でお礼を言ってくれるだろうか? 助かりました、大変申し訳なかった、今後気をつけると約束でもしてくれるだろうか?
いっそ、ご飯なしの夕飯を用意するのはどうだろう?
当初の予定通り食事とサラダを用意する。味噌汁もある。でも、誰かが炊き忘れたご飯はない。誰かが「ご飯は?」と言ったら、「今日はご飯ないの」と答えればいい。誰を責めることもなく、淡々と事実を伝える。
「炊き忘れたの?」「ママじゃないけどね。まぁ、そんな日もあるよ」
そんなやりとりをしながら、誰かが約束を果たさなかった時に起こる事態を家族で共有するのだ。
実際、我が家ではこうしたことが過去に何度かあった。口約束に終わってしまった家族を責めることは、しない。怒りもしない。
でも、その家事の尻拭いもしない。私が炊飯器のスイッチを入れ忘れて朝ご飯が炊けていなくて、誰かが代わりに文句をいいながらでも炊いてくれることはないのだから、私も家族の尻拭いをする必要はない。そして困ったことは、私がきりきり舞いをしてなんとか繕うのではなく、家族みんなでいっしょに困ろうとしてきた。
夫が引き受けた仕事は最後まで全うしてもらう
境界線を引き、夫が引き受けたことは全うしてもらう。
shutterstock / Treetree2016
保育園のお迎えもしかり。自分がお迎えに行くことになっている日に、「熱を出しました」と保育園から連絡が来たら、多くの母親は仕方がないと腹をくくって、仕事を早退して保育園に向かうのではなかろうか。
その日が仮に夫のお迎えの日だったらどうだろう。6時なら夫が行ってくれることになっている。でもそれより2時間早く、「お迎えをお願いします」と保育園から電話が来た時、「今日は夫がお迎えなので、夫に連絡してください」と切り返す妻はどれ位いるだろう。
それどころか夫の迎えの日に、「悪い、残業が入った」という夫からの連絡に、妻が怒りながら仕事を切り上げて迎えに行くことがある、という話は、イクメンの登場から久しい今でも度々耳にする。
そこで、「じゃぁ、保育園に電話してみて。私はもう、仕事が入っているから対応できないよ」と、例えポーズでも一線引いてみるのはどうだろう。私も親だけど、あなたも親だよね。引き受けた仕事は、投げ出さずに、なんとかしてね、というメッセージを出さなければ、相手はいつでも、「最終的には妻が尻拭いをしてくれる」というお気楽なポジションから脱しない。
仕事であれば、こうした土壇場での予定変更はNGだ。引き継ぎや相談なく、同僚に丸投げなどありえない。外の社会では、夫も当然そんなことは認識もしていれば、実践もしているだろう。
なぜ、それが、家事育児ではできないのか。答えはある意味簡単で、妻が引き受けてくれると思っているから、だ。そして妻も、基本的には家事・育児は自分に責任があると思い込んでいるから、夫に「無理だ」と言われれば、こちらが出て行かざるを得ないと考えている。
けれども、ここでやんわりとでも境界線を引かなければ、尻拭い地獄から脱出することは、この先かなり難しい。
「名もなき家事」の多くは尻拭い
出してしまう手をこらえて、徐々に最後までやってもらうようにする。
shutterstock / RosaLin Zhen Zhen
よく話題にのぼる「名もなき家事」は、後始末、尻拭いが多い。例えば牛乳を飲み終わった夫が、牛乳パックを洗うのが面倒だと空のパックを冷蔵庫に戻す。空だと気づいた妻は、片付けろよと内心怒りながらパックを洗い、捨てる。
僕はゴミ捨て担当だという夫は、ゴミ袋をゴミ捨て場に持っていくことはしても、空になったゴミ箱にゴミ袋をセットすることはしない。ましてや、ゴミ袋がなくなりそうだと気がついて買ってくることもない。
天気予報を確認せずに、夫が干していった洗濯物が雨でぐしょぐしょになってしまったら、それを取り込んで再度洗濯機に入れるのは誰だろう? 一言、雨が降りそうだよと言わなかった私のせいだと悔やみながら、夕飯の準備の前に取り込むのは妻の仕事だろうか。
空の牛乳パックに気づいたら、「これ、誰が飲んだの?」と声をかけてみよう。「空だから洗っておいてね」。ゴミ袋も「セットしてね」と声をかけて、知らん顔なら、空のゴミ箱にゴミを捨てて見るのも一案かもしれない。
あなたの仕事はあなたがやって。やらないと、こういう困ったことになるのよ、と理解してもらうのだ。
手を出さなければ1年後の家事は減る
これは夫に限った話ではない。子どもにしても同じこと。一緒に生活を回していく上で、引き受けたことは最後まで責任を持たせる。最初のうちちょっと手がかかるようでも、社会人の夫は1〜2度困る経験をすれば、その後は必要に応じて対策を講じてくるだろう。
子どもは、ゴミを捨てた後はゴミ袋をセットするのがヨの常識だよ、と刷り込み、習慣化することでパワフルな味方になってくれる。
こう考えていくと、家事を減らす上で一番の障害は、ついつい手を出してしまう自分、知らぬ間に家族の尻拭いを引き受けてしまう自分の立ち位置にあることも少なくない。相手に不満を抱えながら、なんとかすることが常に正解だとも限らない。多少相手が不機嫌になることを恐れず、徐々に最後までやってもらう方向に持っていくことが、半年先、1年先の家事をずいぶん減らしてくれるはずだ。
注:この記事の書題と書影のリンクを経由してアマゾンで本を購入すると、編集部とアマゾンとのアフィリエイト契約により、編集部が一定割合の利益を得ます。
佐光紀子:1961年生まれ。繊維メーカー勤務などを経てフリーの翻訳者に。ある本の翻訳を機に、重曹や酢などの自然素材を使った家事に目覚め、研究を始める。主な著書に『キッチンの材料でおそうじする ナチュラルクリーニング』『やめたら、お家スッキリ! モノと手間がグンと減る「楽チン生活」70のヒント』『「家事のしすぎ」が日本を滅ぼす』など多数。