就活セクハラ被害にあったらどうする? 学生のギモンと不安に弁護士のアドバイスは

就活中にセクハラ被害にあった場合はどうしたらいいのか。啓発のためのパンフレットを作成し、相談窓口を設けている日本労働弁護団の谷村明子弁護士に聞いた。

これも就活セクハラです

就活

撮影:今村拓馬

日本労働弁護団は2018年10月に「セクハラを受けたらどうすればいいの?」と題したリーフレットを作成し、大学の就職課・キャリアセンターに配布して啓発に努めてきた。 リーフレットでは以下のような言動、行為が就活セクハラの例として紹介されている。

・「結婚や出産の予定は?」「彼氏はいるの?」「女性はすぐやめる」「君には男(女)らしさが足りないね」など仕事の話ではなく個人的なことを聞かれる

・不必要に夜遅い時間に二人きりで呼び出される

・「僕の誘いを断ると、採用試験に通らないよ」などと示唆される

・お酒を飲まされ、ホテルなどに連れ込まれそうになる

就活セクハラ

日本労働弁護団が作成した「セクハラ対策相談リーフレット」の一部。HPからダウンロードできる。

出典:日本労働弁護団ホームページ

谷村弁護士は言う。

「どういった言動や行為がセクハラに該当するのか。まずはその基準を示すことで、被害にあった人が声を上げやすい環境をつくることが大事だと思っています」(谷村さん)

労働弁護団のリーフレット配布は現在、都内の大学を中心に行っているそうだが、ホームページから無料でダウンロードできるので、各大学の担当者などはぜひ活用して、学生への周知をしてほしい。

Business Insider Japanでは2月から就活セクハラについての報道を続けてきた。被害にあった学生たちから出た疑問について谷村弁護士に聞いた。

Qどこに・誰に話したらいいのか分からない。

就活セクハラ

谷村明子弁護士

撮影:竹下郁子

「労働弁護団では無料かつ匿名で利用できる電話相談窓口を設けていて、女性の弁護士が対応する専用窓口もあります。 また各都道府県の労働局でも相談を受け付けていますし、大学の学生課・就職課に相談するのもいいでしょう」(谷村さん)

弁護士としては、民事で損害賠償請求の裁判を起こすなどの法的措置はもちろん、「謝罪が欲しい」「もう連絡を取りたくない」など本人の希望に合わせて、企業と交渉することができるという。

「強制わいせつ、強制性交の疑いがあるような、刑事事件に該当する可能性のあるケースは警察に。1人で行くのが不安な場合は弁護士が同行することもできます」 (谷村さん)

Q弁護士に相談したいが、費用が高そうで心配

弁護士

shutterstock/takasu

他にも、性暴力・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターが全国にあり、医師による治療から捜査関連の支援、法的支援などが受けられる。

弁護士に相談する場合の費用を心配する人も多かったが、

「法務省所管の公的な法人である『法テラス』を利用したり、弁護士によっては『就職してから分割払い』など柔軟に対応する人もいると思います。まずは弁護士にご相談いただければと思います」(谷村さん)

Q企業に報告したいが、どうしたらいい?

交差点

撮影:今村拓馬

就活セクハラ被害にあった人が希望することとして多かったのが、「当該企業にアラートを鳴らしたい」ということだ。やり取りが手慣れている、また本人の発言や自身の友人も同じような被害にあっているなど、同一人物が何度も同じことを繰り返していると考えられるケースは多い。

被害にあった人のほとんどが当該企業の内定や選考を辞退しているが、「他の人や後輩たちに同じような被害にあって欲しくない」という思いだ。

「社員間のセクハラやパワハラの相談の場合は、弁護士が出ていくとかえって被害者が職場にいづらくなってしまう可能性があるので、労組や職場で頼れる人がいないかなどを聞いて慎重に対応しますが、すでに選考を辞退しているのであれば逆に、私たちのような専門家は動きやすい。 弁護士が代理人になって企業と交渉するのもいいですし、企業の多くはコンプライアンス相談室などハラスメントに対応する部署を設けているので、そういった窓口に自身で相談してみるのもいいと思います」(谷村さん)

Q匿名でも被害を相談できる?

財務省

撮影:今村拓馬

就活セクハラの加害者は大企業の社員に多いというのは、取材を続ける中で見えてきた傾向だ。相談したいが「相手が大企業でこわい」「匿名ではできないのか」という声も多い。

谷村さんによると「大企業だからこわい」ではなくむしろ、「 大企業の方がコンプライアンスや社会的信用を重視するので、学生からの訴えを無視することにはなりにくいはず」(谷村さん)と言う。

また匿名性に関しては、

「前財務事務次官のセクハラ問題では、財務省が被害女性に名乗り出るように要請したことに対して弁護士たちが抗議したことがありました。セクハラがあったという根拠があれば、匿名でも会話の録音やメールのやり取りを示すなどして、代理人(弁護士)を通して会社に対応を求めることはできます」(谷村さん)

現行法は就活生をセクハラから守らないのか

国会議事堂

撮影:今村拓馬

一方で現在の法律では、企業が就活生からセクハラの報告や相談を受けても、対応する義務はない。

関連記事:「就活セクハラ」は禁止されていない?セクハラ関連法が改正されても就活生は守れない

職場のセクハラについて定めているのは、男女雇用機会均等法11条だ。現行法では、事業主つまり企業などに対して、社員がセクハラによって不利益を受けたり働きづらくなったりしないように相談に応じ、適切に対応するため必要な体制を整えることなどを求める「措置義務」が課されている。 しかしこれは労働者が対象であり、就活生のように雇用されていない人をセクハラから守る義務は使用者にはない。 現行法はもちろん現在、国会で審議されている政府の改正案でも就活生は保護の対象外だ。

交差点

撮影:今村拓馬

しかし、谷村さんは言う。

「ほとんどの上場企業はセクハラなどハラスメントを禁止する就業規則を設けています。また、グループ企業の社員などを対象に、ハラスメント被害者のための相談窓口を設置している企業もあります。そうすると、企業が自社の社員を加害者とするハラスメント被害者のための通報窓口を設置しているような場合には、被害者が自社の社員ではないからといって対応しない場合、債務不履行になる可能性があります」(谷村さん)

Q逆に名誉毀損で訴えられることはない?

企業への報告をためらう理由として「名誉毀損で訴えられることはないのか」という声もあった。

「相談しただけで名誉毀損になることは考えられません。現行法でも被害を相談したことで不利益になるのは許されないという指針になっていますし、いま国会で審議されている政府の改正案ではこれが法律として明記される予定なので、さらに強い保護が求められるようになるでしょう」(谷村さん)

野党や有識者は就活生も雇均法の措置義務の対象に含めるよう求めているが、たとえそれが叶わなくとも、各社の就業規則や、不利益にならないよう定めた指針を元に企業と交渉する余地はあるという。

Q被害にあったことをどう証明すればいい?

スマホ

撮影:今村拓馬

Business Insider Japanが実施したアンケート調査によると、就活セクハラ被害にあった人の7割以上が誰にも相談できずにいる。

関連記事:就活セクハラ被害者の7割が相談できない理由、大学への不信感と「どうせ変わらない」無力感

理由はさまざまだが、「録音など被害の証拠がないから」LINEなども「見るのもつらくて消してしまった」という声が多かった。

「録音、メール、LINEなどやはり客観的な証拠を残しておくことは大切です。見るのもつらい気持ちはよく分かりますが、自分のためにも消さずに残しておいてください。 警察に被害届を出す場合も、そうしたものがあるかどうかで対応が異なることが多いので」 (谷村さん)

Q被害後に送った「お礼メール」、不利になる?

パソコン

shutterstock/Suradech Prapairat

一方で、権力関係や選考中ということもあり、被害にあった翌日でも「昨日はありがとうございました」などの「お礼のメール」を送ってしまった、こうしたものは不利にならないのか、と心配する声もあった。

「これは労働者のセクハラ相談でも多いです。確かに裁判ではこうしたものを元に『同意があったのでしょう』という方向に使われることもあります。ですが1997年の横浜セクハラ事件高裁判決をきっかけに、被害者が職場の上下関係などを考慮して迎合的な態度を取ることが知られるようになり、司法判断も少しずつですが、変わりつつあります。 たとえ相手にはお礼のメールを送っていても本当は意に反する行為であった場合は、自分でメモや日記に記すだけではなく、できれば家族や友人にもそれをシェアしておいてください。 セクハラ行為が原因で体調がすぐれず病院に行った場合は、そのカルテも警察や裁判に提出できる記録になります」(谷村さん)

横浜セクハラ事件:男性上司が女性社員に無理矢理キスをしたり、身体を密着し指を股間に入れる等をし、被害女性が会社を訴えてからは仕事をさせないなど嫌がらせを行って退職に追い込んだとして、女性が男性と会社に慰謝料500万円と弁護士費用を請求した。 横浜地裁は抵抗して逃げなかったことなどを理由に女性の訴えを棄却したが、東京高裁はアメリカにおける強姦被害者の対処行動についての研究などに基づいて訴えの一部を認め、女性が勝訴した。

Q匿名でのやり取りも証拠になる?

就活

撮影:今村拓馬

匿名で利用できるOB訪問マッチングアプリを通じて知り合い、ニックネームで登録するLINEで連絡を取り合い、名刺ももらえないまま被害にあった学生もいた。

関連記事:OB訪問アプリで広がる就活セクハラ。自宅に連れ込まれレイプされた女子学生も

「LINEなど匿名で利用できるものも証拠になるので、消さないでください。捜査機関を通じて(運営会社に)情報開示を求めることができます」(谷村さん)

就活セクハラの被害にあった学生の保護、そしてどうすれば被害を防げるのか。学生に自衛を求めるのではなく、社会全体で考えていく必要があるだろう。

(文・竹下郁子)

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