楽天グループ「金融再編」の圧倒的破壊力。証券トップが語ったポイント投資、ペイ乱立、フィンテックの本質

楽天 バルセロナ

楽天とグローバルパートナー契約を結んだスペインの名門サッカーチーム、FCバルセロナの本拠地「カンプ・ノウ」。楽天グループの経済圏は世界に広がりつつある(写真は2017年8月撮影)。

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世界の三大金融ディスラプター(破壊者)をアマゾン、アリババ、テンセントとするなら、日本の四大金融ディスラプターとして挙げるべきは、楽天、LINE、ヤフー・ソフトバンク連合、そしてSBIだろう。そのビジネスモデルは、いずれもメガテック企業を踏襲するものと言える。

すなわち、スマホ対応のプラットフォームを構築し、決済機能をリリース。送金、融資、保険、投資、預金といった各種金融サービスの充実を図りながら、魅力的なユーザーインターフェイス(UI)・ユーザーエクスペリエンス(UX)を提供する。さらにはその他の生活系サービスへと誘導していく。このような好循環を回すことで「○○経済圏」を拡大させるのである。

そのうち最も多くの金融サービスを提供しているのが楽天だ。

世間ではECサイト運営のイメージが強いが、楽天銀行、楽天証券、楽天生命、楽天損保と、フルラインナップの金融サービスを提供。クレジットカードの楽天カード、電子マネーの楽天Edy(エディ)、共通ポイント事業の楽天ポイントカード、QRコードなどによるスマホ決済の楽天ペイなど、オンラインとオフラインが融合した利便性の高い決済手段も網羅している。

売り上げを見ても金融事業のウェイトは高く、2018年度決算で、売上全体の34.2%をフィンテック部門が占める現状を見ると、楽天はすでに金融会社であると言っていいだろう。

楽天会員がポイント優遇や還元をエンジンとして、グループ内のサービスを横断的に利用する「クロスユース」が進み、そのシナジーによって会員のメンバーシップ・バリューが増大していけば、楽天の経済圏はさらに拡大していくと筆者は見ている。

4月1日、次なる発展段階へと向かって、グループ間シナジーを最大化するための大きな組織改編を行った楽天グループで、金融事業の拡大を支えてきた楽天証券の楠雄治社長に、金融組織改編の舞台裏と未来戦略について聞いた。

金融部門の大規模再編が意味すること

楽天 三木谷

2019年2月、構築中のモバイルネットワーク設備の前で。楽天の三木谷浩史会長兼社長。

REUTERS/Kim Kyung-hoon

田中:楽天証券のビジネスについてお聞きする前に、楽天グループとその金融部門のあり方についてお聞きします。楽天はいま、モバイルを主体としたグループネットワークの構築を進めていますよね。

楠:そうですね。このあたり(東京・二子玉川の楽天本社周辺)ではすでに実証実験が始まっていますが、2019年10月には携帯電話事業者(キャリア)としてのサービスが始まります。これが楽天グループ全体の基盤になることは間違いありません。

田中:そうしたインフラ整備に合わせて、大きなグループ再編をされました。とくに、政府のキャッシュレス化推進構想を背景に大きなうねりの起きている決済関連事業を楽天ペイメント株式会社の傘下に置き、楽天銀行、楽天証券、保険事業の楽天インシュアランスホールディングスなどを楽天カード株式会社の傘下に編入。こうした金融部門の動きにはどんな意味があるのですか。

楠:プリペイド電子マネーの楽天Edy、スマホ決済の楽天ペイ、さらに共通ポイントカードの楽天ポイントカードといった決済関連事業を1社にまとめたのは、ユーザーが自由に選べるようにすることで利便性を提供しようという発想にもとづくものです。

楽天カード傘下に銀行、証券事業を置いた理由

川平慈英さん出演のテレビCMでおなじみの楽天カード。同CMは2013年に始まってイメージ定着に貢献。2017年に楽天カードは取扱高で銀行系を抜いて首位に。

出典:楽天グループ公式TouTubeチャンネル

田中:楽天カードの下に楽天銀行がぶら下がる組織図も面白い。これまでの常識から考えれば、銀行の下にクレジットカードというのが普通ですよね。

楠:その点には、事業の成り立ちが大きく影響しているんです。楽天グループはいまも昔もeコマース「楽天市場」におけるモノやサービスの販売が中心にあり、金融はそれを支えるインフラ機能として存在しています。その柱は決済部分を担う楽天カードで、その先に銀行や証券がある。これは楽天グループとしてはきわめて自然な発想なんですね。

田中:楠さん率いる楽天証券も楽天カードの傘下に入りましたが、正直言って、クレジットカードと証券はストレートに結びつかない気もします。

楠:多くの方がそう感じていると思います。しかし、実際には新たな結びつきが生まれていて、具体的な例で言うと、2018年10月から楽天カードのクレジット払いで投資信託の積み立てができるサービス(月5万円の上限あり)を始めました。

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楽天証券の楠雄治社長。楽天証券の前身、DLJディレクトSFG証券時代からの社員だ。

楽天証券はグループのなかでも特殊な機能を担っているので、クレジットカードに限らず、もともと他の事業とのつながりを理解しにくいところがあります。つまり、楽天の他のサービスは基本的にお金を使うものですが、証券投資事業はお金を貯めたり増やしたりするサービスで、お金の動く向きが逆なんですね。

でも、楽天グループとしてそこに矛盾はありません。

ライフサイクル全体を考えれば、お金を使うだけで生きていくのはなかなか難しい。銀行に預けておくだけでお金が増える時代はとっくの昔に終わっているので、貯める増やすサービス、言い換えれば資産形成を長期的に支えていくサービスはますます重要になっていきます。

他のサービスで使うお金やポイントの一部を資産形成に振り向けてもらうことで、ユーザーにより大きな満足をもたらすことができるし、ビジネスとしてもより長く深い関係を築ける。その意味では、「ライフタイムバリューの最大化」というグループの目指すところに最大限貢献できるのが、証券投資事業だと考えています。

「スーパーポイント」が楽天経済圏の拡大に寄与

楽天証券 ポイント投資

楽天証券では、2017年8月から、楽天スーパーポイントで投資信託を購入できるようになった。

提供:楽天証券

田中:「使うお金やポイントの一部」を投資にと話されましたが、還元されるポイントなどいわば余剰分を投資に振り向けるサービスが最近少しずつ出てきていますよね。楠さんはどうご覧になっていますか。

楠:楽天証券でも2017年8月から、楽天スーパーポイントで投資信託を購入できるようにしました(投信積立は2018年9月から)。また、すでにご紹介したように、楽天カードのクレジット払いで投資信託の積み立てが可能になり、その際にもポイントが付与され、それをさらに投資に回すこともできるようにもなりました。

楽天グループのポイント経済圏を最大限活用でき、なおかつ経済圏内の循環を促すことのできる良い仕組みだと思っています。

田中:ユーザーの反応はいかがですか。

楠:どちらのサービスも利用者がどんどん増えている印象です。とくに楽天カードの投信積立は、現時点(2019年3月末)で20万件、20億円ほどの規模に達しており、大きな伸びを見せています。

田中:従来の投資信託とユーザーは変わりましたか。

楠:ポイント投資は若い世代のユーザーが多いですね。

「資産形成」と「資産運用」はまったく異なる概念。前者は給与所得のコアな部分を充てて、長期的な視点から老後などに必要なお金をつくり出していくもの。一方後者は、余裕のある方々が(生活費などから切り分けられた)サテライトなお金を使って、追加的な収入を得ようというもの。カード払いを使ってポイントも投資に、というユーザーは前者ですから、自ずと若い世代になります。

ただし、実は富裕層には意外に倹約家が多くて、積立額最大5万円という上限があっても、ポイントが付与されると知って利用される方もけっこういるんですよね(笑)。楽天証券は基本的にネット証券ではあるのですが、収益の1割程度は富裕層への対面アドバイザーサービス(IFA)からあがっていて、そこでも楽天カードでの投資信託は人気があります。

「○○ペイ」ブームで見落とされがちなこと

田中道昭 立教大学

立教大学ビジネススクールの田中道昭教授。

田中:楽天株式会社が決済関連事業を中心とする楽天ペイメントを設立したのも、時流をとらえた動きと思います。昨今の「○○ペイ」騒ぎをどうご覧になっていますか。

楠:よく考えてみれば、決済はプラットフォームビジネスの一手段。プラットフォームにどれだけ(決済を使う)商材があるのか、プラットフォームが消費者にどれだけ受け入れられているか、結局はそこが勝負になるんだと思います。言ってみれば、最後は利便性、そして消費者の選択です。

そういう意味で、国内流通総額トップの楽天市場(楽天トラベル等を含む国内EC流通総額は2018年度決算で3.4兆円)、クレジット取扱高(同7.5兆円)で国内首位の楽天カードが背後にある楽天ペイは圧倒的優位に立っていると言っていいと思います。

田中:楠さんの見方を補足するなら、コード決済も金融取引の一種なので、最後には信用・信頼が大事になりますよね。ポイント活用などの付加価値はユーザー拡大の有効な手段ではありますが、やはり安心して使えるクレジットカード、銀行の預金口座に紐づけないと経常的には使われないと思います。

信用・信頼の視点から、ユーザーが自分のカードとどの「○○ペイ」を紐づけるべきかと考えたとき、選択肢として残るのは限られてくるのでは。例えばLINE Payは、メッセージングアプリであるLINEへの絶大なる支持と顧客接点とは裏腹に、決済事業ではこの信用・信頼こそが最大のポイントになると思います。

LINE Pay

2019年4月17日、「平成最後の超Payトク祭」還元キャンペーンを発表したLINE Pay取締役COOの長福久弘氏。1000万人のユーザー獲得を狙う。

撮影:小林優多郎

LINEは2018年、テーマ型投資のネット証券FOLIO(フォリオ)と提携して「LINEスマート投資」を始め、みずほ銀行と組んで銀行業に進出する計画も打ち出していますが、金融分野における信用・信頼の面ではまだまだこれから。とはいえ、LINE Payは決済手数料を2021年7月までの3年間無料にするキャンペーンを打ち出しているので、ここ数年が勝負だと考えているのでしょう。

スマホアプリとしての顧客接点、金融としての信用・信頼、そして、EC・小売り、金融サービス、エンタメなど、決済が使われる経済圏をどれだけ広げられるか、「○○ペイ」を使って何を買うのか、どのようなサービスを受けられるのかが最後に重要であって、そこが勝負の分かれ目にもなるのだと思います。

アマゾンの存在をどう見るか

アマゾン

爆発的な成長を遂げるアマゾン。日本でアマゾンペイは加盟店を開拓できるか。

REUTERS/Carlos Jasso

編集部:アマゾンやアリババといった世界のメガ決済プレーヤーとの勝負、という視点ではどうなっていくでしょうか。

楠:国別に最適なサービスが選択されるのでは。海外で使う決済手段としては今後もクレジットカードが主体でしょう。ただしインフラとして、海外のコード決済サービスとの乗り入れは各社で進んでいくと思います。

田中:EC決済におけるアマゾンペイは強力ですが、アマゾンのコード決済が日本のリアル店舗に浸透するのは難しいでしょうね、ECに売り上げを奪われるなか、アマゾンへの抵抗感は根強いですから、加盟店は簡単には広がらないでしょう。アリババのアリペイも、米中新冷戦などリスクが顕在化する可能性がある現状では、日本人向けサービスとしては足もとでは難しいでしょうね。もちろん、中国人観光客向けに導入する店舗は増えていくとは思いますが。

楠:データ保護の問題も大きくなってきていて、どこの国であっても、国民が安心できる(ナショナル)ブランドでないと、決済事業で勝ち残っていくのは難しいでしょう。田中さんご指摘のように、信用と信頼が第一の金融取引なので。

金融のデジタル化は未来をどう変えるか

楽天モバイル

2019年10月に始まる携帯電話事業者(キャリア)としてのサービスは、グループの基盤となる。さらなる経済圏拡大のステージに進むか。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

田中:フィンテック、あるいは金融のデジタル化はこの先どんな方向に向かっていくでしょう。

楠:ネット証券は「元祖デジタル金融」だと思っています。1990年代後半の金融ビッグバン(規制緩和)後にネット証券が登場して実際にそうなったように、デジタル化によって金融にかかるコストは間違いなく下がっていくだろうし、金融はこれからますますインビジブル(不可視)になっていくでしょう。

フェアで自然なかたちでそうなるなら、消費者にとっては決して悪いことではありません。金融サービスの運営側にとっても、デジタル化によって人件費を抑えコストダウンを図ることができるので素晴らしい話です。

金融事業のビジネスモデルはこれまで、消費者との情報の非対称性のなかで利ざやを稼ぐものでしたが、それもデジタル化(による情報の見える化)によって終わろうとしています。

従来は証券会社や銀行の営業マンが「お客さん、この商品いいですよ、値上がりしますよ」という商売をやっていたわけですが、インターネットを通じて情報がオープンになり、いまや消費者は自分でいくらでも情報を取得できる。金融機関がもっていた情報格差による優位性はなくなり、意思決定の主導権は供給側から需要側にシフトし、ますます消費者オリエンテッドな世界に向かうのです。

日本の金融イノベーションは核心に至っていない

楽天証券

楽天証券の楠雄治社長(右)と立教大学ビジネススクールの田中道昭教授。

田中:金融のデジタル化、フィンテックによるイノベーションの現実として、預金・貸し出し・決済という三大業務にかかわる大きな変化は、日本ではまだ起きていないですよね。中国では、アリババやテンセント、バイドゥといった新興企業がレガシー金融機関を凌駕していますが、それ以外の国では付随業務の効率化などにとどまっている気がします。

金融機関の付随業務や周辺業務でフィンテックやデジタル化が進捗している欧米や日本に対して、より固有業務的部分でそれが進捗している中国という図式だと捉えています。

楠:中国の新興企業がうまくいったのは、もともと規制が厳格でなくて、デジタル化が金融の本業部分にまで一気にたどり着いたことが大きい。日本やアメリカのように規制がしっかりした国でベンチャーが核心まで突っ込むには、労力もコストもかかりすぎるんですよね。日本ではフィンテック専業の上場プレーヤーはまだ出てきていません。

フィンテックベンチャーの多くは、(付随・周辺業務に関する)新しいアイデアとユーザーインターフェース/エクスペリエンス(UI/UX)の向上で勝負していて、イノベーションではなくベターサービスになっています。金融ビジネスはコンプライアンス(法令遵守)のハードルも高く、オペレーションコストも重いので、マネタイズ部分を徹底して考え抜かない限り、今後も成功は難しいでしょうね。

そもそも日本の金融はアメリカに30年は遅れていると思っています。証券投資を通じて資産形成をしていこうと意識がまだ日本には根づいていません。公的年金の破たんが目に見えているにもかかわらず、です。アメリカでは1980年代に国の年金では将来面倒を見きれないと判断して、確定拠出年金(401k)に舵を切りましたが、日本ではそれすらまだできていない。

楽天グループの経済圏には幸いにして数多くの一般のユーザーがいらっしゃるので、その資産形成に関する意識の変革に楽天証券が貢献できることはいくらでもあると思っています。良いお手本になると考えているのは、米大手証券チャールズ・シュワブ(※)の手法。

※チャールズ・シュワブとは……アメリカの大手証券会社。1990年代後半にネット証券で全米トップに。2000年前後のITバブル崩壊による経営危機を機に戦略を修正し、大企業や富裕層向けビジネスから撤退。マス・アフルエント(大衆富裕)層へのラップ口座(投資一任契約)の提供や、独立系金融アドバイザーに顧客資産管理プラットフォームを提供するビジネスモデルに転換。大復活を遂げている。

デジタル技術を駆使して、個人の資産運用と資産形成をホリスティック(包括的)にサポートする金融機関を目指したいですね。

(構成:川村力、撮影:今村拓馬)


楠雄治(くすのき・ゆうじ):楽天証券代表取締役社長。1986年、日本デジタルイクイップメント(現日本ヒューレット・パッカード)入社。96年、シカゴ大学ビジネススクールMBA取得。同年、A.T.カーニー入社。99年、DLJディレクトSFG証券(現楽天証券)入社。2006年10月、代表取締役社長に就任。2014年1月、楽天株式会社常務執行役員に就任。

田中道昭(たなか・みちあき):立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)などを歴任し、現職。上場企業取締役や経営コンサルタントも務めている。主な著書に『アマゾンが描く2022 年の世界』『2022年の次世代自動車産業』など。2019年4月、『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』の2冊を刊行。

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