電動キックボードのシェアリングサービスを展開するベンチャー・Luupは、5つの地方自治体との連携を発表した。写真は左から多摩副市長の浦野卓男氏、横瀬町長の富田能成氏、浜松市長の鈴木康友氏、Luup社長の岡井大輝氏、四日市市長の森智広氏、奈良市観光経済部長の梅森義弘氏。
シェアリング事業ベンチャーのLuup(ループ)は4月18日、電動キックボードの実証実験に向け、5つの自治体と連携協定を締結したと発表した。
連携協定の内容は、電動キックボードを用いた実証実験、各市町内における公共交通の在り方に関する協議検討、交通政策への相互協力という3つの柱で構成されている。
記者発表には、浜松市、奈良市、四日市市、東京都多摩市、埼玉県横瀬町の首長や幹部が登壇。いずれの自治体も、手軽な電動モビリティーインフラの整備による都市部の回遊性向上、それに伴う地域活性化や交通難民対策、インバウンド向けのモビリティーの確保などの課題解決に期待を寄せていると話す。
テクノロジーを使った手軽さと安全性が特徴
Luupが現時点で想定しているサービス概要。
電動キックボードを使ったシェア型のパーソナルモビリティはライドシェア大手のUber(サービス名「JUMP」)やLyft、LimeやBirdなどの独立系含め、アメリカやフランスなどで先行し注目を集めている。
Luupが構想するサービスは、これら先行事例と基本的には似ているが、キックボードの検索、ロック解除、支払い機能がすべてスマートフォンアプリで完結する点と、独自の安全制御システムを特徴としている。
Luupは電動キックボードの安全面についても取り組む。
同社が提案する「独自の安全制御システム」でコアとなる機能は2つ。1つはスマートフォンおよびキックボード側にあるGPSの走行位置情報を基にした危険地域での速度制限機能だ。
例えば、交差点のような人の密集するようなエリアに電動のキックボードが入り込んでいくというシチュエーションはとても危険だ。
Luupは仕様上、時速19.5kmまでのスピードが出るが、そのような危険な地域にユーザーが近づいた際は、スマートフォンのアラートで知らせたり、徐々に速度を落としていくような制御ができるという。
もう1つは、走行ログをもとにしたユーザーの管理機能。急発進・急停止や過度な蛇行といった「危険運転」を検知した際は、当該ユーザーに対し、その後の貸し出しを制限するような「運転スコアリング」のようなペナルティを付与するという。
電動キックボードは“日本の公道を走れない”問題
Luupが実証実験で使おうとしている電動キックボード。
前述のように、電動キックボードのシェアリング自体は、主要国ではアメリカやフランス、ドイツなどですでに実用化が進んでいる。
ただし日本においては、車両に関する法規制を背景とする参入障壁の高さは独特の難しさがある。ライドシェアを実現する以前に、「電動キックボードを合法的に公道で走らせる」ことそのものが、日本国内では簡単ではないのだ。
Luup側もその点は認識しており、これまで内閣府、国土交通省、警察庁など関係省庁とも法律の専門家とともに相談を進めながら、今回の発表に至ったと説明する。
フランスでは街中でもよく見かける電動キックボード(写真は2019年3月にエッフェル塔の前で撮影した「Lime-S」)。
Luupによると、現状同社が想定している電動キックボードは道路交通法で定められている車両における「原動機付自転車」(いわゆる原付)に該当するという。しかし、同社は「原動機付自転車の場合、前照灯や方向指示器などといった構造や装備があり、かつ道路運送車両の保安基準の適合を受けない限り公道を走ることはできない」と話す。
もちろん、電動キックボードを私道や、建物内など「公道以外」の仕切られた特定の場所で走らせることは問題ない。しかし、実証に向けて公道走行ができる目処や突破口がなければ、本来目指すはずの「地域活性化」「交通難民対策」は実現できない。
公道の電動キックボード走行にまつわる関連法規制の問題をどうクリアするのか? これについてLuupは「現時点では、具体的な内容について回答できない」としており、記者発表では詳細まではわからなかった。
Luupの電動キックボードのハンドル部には、ブレーキ、ベル、バッテリー残量を示すLED、アクセル用のノブがある。
実際にLuupの電動キックボードに乗ってみたところ。筆者は自転車は乗れるがキックボードに乗ったことはない。だが、操作などはすぐに慣れる。意外にスピードが出る印象だった。
一方で、政府や自治体はどのように「実証」を認めていくのか。
Luupと実証実験についての調整を進めている国土交通省の自動車局技術政策課の担当者は取材に対し、「Luupから話をうかがっているのは事実です。現在は原動機付自転車として適合しているかの確認をしている段階で、具体的な実証実験の話はこれからという認識です」と説明する。
また、今回の実証実験への協力を表明した自治体の1つ、浜松市の担当者は、Luupとの取り組みについて「(公道での実証実験が)すぐにできるとは考えていない。まずは、公共施設などの閉鎖空間で行っていくのではないか」と、まずは現実的なところから実世界との親和性を探っていく考えを示した。
Luupでは関係省庁と今後も密にコミュニケーションをとりながら、まずは実証実験の実現に向けた活動を進めていく考えだ。
日本にも小型モビリティ市場をつくれるか?
Luup社長の岡井大輝氏。
Luupが乗り越えようとしている規制の壁は相当に高いものだ。その一方で、諸外国で進む「ラストワンマイル」の交通環境を変える小型パーソナルモビリティのイノベーションに、日本が乗り遅れる状況になっていることも、紛れもない事実だ。
今回のLuupの取り組みが、そうした状況の突破口になるのかどうか。どんな形で実証実験が実現するのかをまず見守りたい。
(文、撮影・小林優多郎)