オフィス監禁、内定サイン攻め…企業の就活オワハラが恐怖で内定断れない

就活生

就活終われハラスメント「オワハラ 」は、採用難の時代に根強く残る。

最近、キャリアコンサルタントとして就職相談を受ける中で、「どうやって内定を辞退すればいいのか」という相談を学生からされることが多くなってきた。

内定の伝達方法は大きく2つあり、最終面接後に電話で伝えられるパターンと、最終面接で直接伝えられるパターンだ。内定を告げられた学生は、受諾するかどうかを決めなくてはならない。当然、そこが第一志望の企業であれば迷うことなく受諾するだろう。しかし、そうでない学生、つまり、他に行きたい企業の選考を残している人は、その企業に落ちた場合に備え、“保険として”内定を受諾することになる。

私のところに徐々に増えて来た相談は、後に受けた企業に受かってしまい、先に内定を受諾した企業をどう断ればいいのか分からないという内容だ。シンプルに、「他社に行くことにしました。申し訳ございません」と言えれば問題はないのだが、その際に説得をされ、強引に引き止められることを学生は恐れている。

実際、私が関わった学生で、内定辞退の連絡を電話で入れた際に、「本社まで来い」としつこく言われ、一度断ってもまた電話が来る、という人がいた。

「御社が“第1志望群”です」

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内定を断られることを恐れるあまり、過剰な囲い込みに走る企業も……。

4年前、私が就活生の時も、早めに内定をもらった企業を断ることは容易ではなかった。そもそも断る以前に、その会社には内定後も不必要に面談が組まれ、「その日はちょっと……」と言うと、「他社の選考を受けているのではないだろうね?」と疑われた。極め付けは、経団連の定める面接解禁日に、大阪にあるオフィスに終日“監禁”されたことだった。他社の選考を受けられないようにしようと必死なのが伝わってくる。

私はその後、より志望度が高かった他社から内定をもらったため、先の企業は辞退することになった。電話でその旨を伝えると、「うちを第一志望にしていると言ったではないか」という反論がきた。その後も何度か電話が来て説得をされ、なんとかお断りすることができたが、内定を受諾したのは自分だったので、立場的に辛かった。

現状、学生が本音では“保険”として受ける会社も、「弊社は第何希望ですか?」と問われれば、あたかも志望度が高いかのように答え、いざ内定を出された時に、止むを得ず受諾してしまっている。

しかし、そもそも、志望度を正直に伝えたところで、選考が通るのか、という話である。抜け道として、「第一志望“群”です」という言い方をどこかのキャリアイベントで教わり、私はこの言い方で統一していたが、この「弊社は第何希望ですか?」という質問は、ただただ愚問だと感じる。

そして、回答して言質を取られると、辞退する際に「言っていたことと違うではないか」と責められる。中には、すぐに内定承諾書という書類にサインするよう迫り、記録として残すことで、より辞退しづらいようにする企業もある。私も、この書類を突き付けられたことがあった。まだ他社の合否が分からない状態で、本当は待ってほしいところだったが、「サインをしないと内定を取り消す」と言われたため、仕方なくサインをしたことを覚えている。

なぜオワハラが終わらない?

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「うちの会社は第何希望ですか?」という質問は、果たして必要だろうか。

一般的に、企業が内定者に対し、「他社は受けるな」と様々な形で圧力をかける、または「就活終われ」と迫る行為は、「オワハラ」と呼ばれている。私が就活で経験したオワハラが、今の就活生からも聞かれることから、ここ何年も変わっていないのだと実感する。

しかし、なぜオワハラが終わらないのか。それは、売り手市場と言われる昨今、多くの企業では深刻な人手不足に悩み、減少する若手人材の取り合いとなり、採用目標が達成しづらくなっているという厳しい現実があるからだ。私も採用担当を経験した身として、内定を伝えた学生から来た電話は受け取るのにひるんだし、辞退される辛さもよく分かる。

しかし、だからと言って、無理に引き止めることが正解なのだろうか。本当に双方が納得できる形として、オワハラは正しいやり方なのだろうか。オワハラをすることによって企業と学生の間で関係が悪化することは、返って逆効果と感じる。

やるべきことは、内定者にオワハラをすることではなく、複数から内定をとった学生に、それでも最終的に「ここにしよう」と、思ってもらえる会社を目指すことではないだろうか。

時代と共に変わるキャリア観と企業はどう向き合うか?

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学生に選ばれる企業になった時に、オワハラは不要ではないか。

相談を受けていて感じることは、1社で勤め上げることが正しいとされる価値観が崩れてきている現在、特に若者が、自分のキャリアについてより考えるようになったということだ。

フリーランスや起業することを見据えた上で、1社目はどこの会社に入るのがベストなのか、という相談は、決して珍しい話ではない。大学で、彼らの親の世代にはなかった「キャリア教育」が充実し、より自分の生き方・働き方を考える機会が増えたことも一因として考えられる。

そういった背景を踏まえた上で、是非、採用担当者には、「どうすれば内定を辞退されずに済むか」を考えるのではなく、「どうすれば数ある内定先からうちを選んでもらえるか」を考えてほしい。それが、このギスギスした駆け引きから脱却できる、第一歩になるのではないだろうか。

(文・境野今日子、写真・今村拓馬)

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