グーグルが目指す世界観をピチャイCEOと社員研修から考える

Google

グーグルという企業の本質とは何か。

Justin Sullivan / GettyImages

GAFAと呼ばれる巨大プラットフォーマーの出現は企業としての“稼ぎ方”を大転換したと言われる。

中でもグーグル(Google)は検索サービスから始まり、今ではYouTubeやスマートフォン向けのOS(アンドロイド)、自動運転車開発向けのプラットフォームなどさまざまな分野に事業を拡大している。

グーグルという企業の本質とは何か。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』の著者で、立教大学ビジネススクール教授の田中道昭さんに、寄稿してもらった。

情報の整理と表裏一体の広告ビジネス

グーグル

アンドロイドOSによって、よりグーグルのサービスへのアクセスは容易になった。

Gettyimages/Eplisterra

グーグルは、自社の使命(ミッション)を「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること」だとしています。そしてグーグルの持株会社であるアルファベットは、「あなたの周りの世界を利用しやすく便利にすること」を使命として掲げています。

検索サービスで創業したグーグルにとって、先のミッションは不変の使命と位置づけられているのでしょう。もちろんグーグルが「整理している」のは、ウェブサイトの情報だけではありません。

グーグルマップやストリートビューは世界中の都市の地図や風景を整理し、Gメールは電子メールデータを整理し、グーグルブックスというサービスでは書籍の中身を整理しようとしています。

結果、これらの情報に誰もが簡単にアクセスし、便利に利用できるようにすることを目指しているわけです。

このように多様な情報を整理しアクセス可能にすることは、ユーザーに対して広告を表示できる場面を増やすことになります。グーグルにとって、「情報の整理」と広告ビジネスは表裏一体の関係にあるといえるでしょう。

ミッションの進化の先にある新ビジネス

グーグル

出典:『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』

しかし、グーグルのミッションは情報の整理と広告ビジネスという切り口だけでは完全には理解できません。私は、グーグルがミッションの真に意味するところを実現するため、言葉が示す範囲を超えてミッションを進化させていると考えています。

例えば「モバイルファースト」でアンドロイドを提供してきたことも、「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること」というミッションの進化と見ることができます。アンドロイドが実現したのは、モバイルによりいつでもグーグルが整理した情報にアクセスできるというカスタマーエクスペリエンスの向上でもあるのです。

さらに、グーグルが「AIファースト」で自動運転やスマートシティの実現を目指しているのは、「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」が、より自然かつ快適に行える世界をつくり出そうとしているのではないかと思うのです。

自動運転が実現すれば、人は運転を自動車に任せることができるようになり、クルマの中での時間の過ごし方も変化します。AIで制御され運転する必要がない自動車の中は、自由に自分の時間を過ごすことができる空間です。

ここでいう「自由に過ごす」というのは、知りたいことがあればAIアシスタントに質問したり、聴きたい音楽があればAIアシスタントに再生してもらったりして、情報を自在に活用できるということも含みます。

自動運転車やスマートシティが目指す世界観は、グーグルのミッションの進化の先にあり、アルファベットの「あなたの周りの世界を利用しやすく便利にすること」へとつながっていくのでしょう(図4―3)。

グーグルの社風を体現するピチャイCEO

スンダー・ピチャイ

現在、グーグルの舵取りをするCEOのスンダー・ピチャイ。

Reuters/Hannibal Hanschke

グーグルの共同創業者の1人であり前CEOのラリー・ペイジは、現グーグルCEOのスンダー・ピチャイに全幅の信頼を寄せているといいます。ピチャイについて知ることが、今のグーグルの「将」を読み解くことにつながります。

まず、ピチャイの経歴を見てみましょう。

彼は1972年にインドで生まれています。父は部品の組み立て工場を経営していましたが、12歳になるまでは家に電話もなかったという貧しい家庭でした。ピチャイは非常に優秀で、インド工科大学でエンジニアリングを学んだあと、奨学金を得てスタンフォード大学に進学。しかし半導体メーカーに職を得たことでスタンフォードをドロップアウトします。その後、MBAを取得してコンサルティング会社のマッキンゼーで経験を積みました。

ピチャイはグーグルに2004年に入社しています。その活躍は目覚ましく、若くしてグーグル・クロームやアンドロイド、クロームOSといった主要事業を統括。グーグルが自社製ブラウザを開発するというアイデア自体、彼のものだといいます。

そして「ビジネスも技術もわかる」人材として、社内外から高く評価されるようになりました。

ピチャイは、そのキャラクターがほかのメガテック企業の経営者とはずいぶん傾向が異なります。非常にフレンドリーな人物として知られ、「人との争いを好まず、協調を旨とする」「チームのメンバーに対しても思いやりのある言葉をかけ、支援する労を惜しまない」と言われます。

ピチャイは非常に有能であるばかりか、人に愛されるキャラクターなのです。 社員が働きたいと思える会社、働きやすい会社を志向しているグーグルがCEOに指名するのも納得の人物だといえます。

グーグルの価値観の象徴「マインドフルネス」

RTS2B85J

メガテック、Google。マインドフルネスを実践する

Reuters/Mike Segar

グーグルの象徴とも言える、ほかのメガテックには見られない要素が「マインドフルネス」です。マインドフルネスと聞くと瞑想をイメージする人が多いかもしれません。

しかし、マインドフルネスは禅の世界で行われる瞑想だけを指すものではなく、近年はストレスによる疾患への対処法として医療現場などにも導入されています。グーグルでは、社員の研修においてEQ(情動的知能)育成プログラムとしてマインドフルネスを取り入れ、そのプログラムは「サーチ・インサイド・ユアセルフ(SIY、己の内を探れ)」と名づけられています。

元グーグルフェローでSIYを開発したチャディー・メン・タンは、著書『サーチ・インサイド・ユアセルフ 仕事と人生を飛躍させるグーグルのマインドフルネス実践法』の中でSIYの3つのステップを以下のように紹介しています。

1.注意力のトレーニング

注意力は高度な認知的能力や情動的能力の基礎だ。したがって、EQを鍛えるためのカリキュラムはどんなものであれ、注意力のトレーニングから始めなければならない。その狙いは、注意力を鍛え、穏やかであると同時に明瞭な心を生み出すことにある。そのような心がEQの土台になる。

2.自己認識と自制

鍛え上げた注意力を使い、自分の認知的プロセスや情動のプロセスを高い解像度で知覚できるようにする。そうすれば、自分の思考の流れや情動のプロセスをとても明瞭に観察できるようになる。それも、第三者の視点から客観的に。それができれば、最終的に自制を可能にする深い種類の自己認識を生み出せる。

3.役に立つ心の習慣の創出

誰であろうと人と会ったらかならず、「この人が幸せになりますように」と、まず反射的に思う習慣が身についているところを想像してほしい。そんな習慣があれば、職場が一変する。このような誠実な善意にほかの人が無意識のうちに気づくし、とても建設的な協力関係につながる種類の信頼をあなたが生み出すからだ。そうした習慣は、自分の意思で身につけられる。

注意力のトレーニングとは、マインドフルネスでいう「いま、ここ」に集中し雑念を手放すことを指すものと考えられます。また自己認識と自制というのは、目の前にあるものをありのままに見つめ、自分を第三者の視点で見ることを求めています。マインドフルネスを実践することは他者への共感や思いやりの気持ちを育むといわれます。それが「役に立つ心の習慣の創出」でしょう。

グーグルのスト

グーグルのセクハラ問題を受け、2018年11月1日に世界中のグーグル従業員が抗議のストライキを実施した。

REUTERS/Jeenah Moon

SIYの概要を見るだけでも、グーグルが企業として重視しているもの、広げようとしている世界観をうかがい知ることができます。グーグルはリーダーに対して「有能であって、しかも人に愛される」リーダーシップを求めているのですが、これもマインドフルネスの考え方からすれば自然なことなのでしょう。

そして現CEOのピチャイがこのようなリーダー像を体現する人物であることは、グーグルにとってマインドフルネスがただのお題目ではないことを証明していると言えます。

(敬称略)

注:この記事の書題と書影のリンクを経由してアマゾンで本を購入すると、編集部とアマゾンとのアフィリエイト契約により、編集部が一定割合の利益を得ます。


田中道昭(たなか・みちあき)立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)などを歴任し、現職。上場企業取締役や経営コンサルタントも務めている。主な著書に『アマゾンが描く2022 年の世界』『2022年の次世代自動車産業』など。2019年4月、『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』の2冊を刊行。

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中

あわせて読みたい

Popular

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み