楽天・三木谷氏の野望 携帯新事業は「メンテ人員70分の1」超効率経営

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創業から現在に至る楽天のポートフォリオ。当初2人で始めたベンチャーは、ECを中心としたITサービスのほか、フィンテック事業、投資にも力を入れる。アメリカで上場したばかりのライドシェア大手Lyftは楽天が筆頭株主だ。

4月22日〜24日、東京・丸の内で開催されるAIサミット「AI/SUM」が開幕した。初日の対談セッション「Fireside chat」では、楽天会長兼社長の三木谷浩史氏が登壇。AIに絡めて、楽天モバイルのキャリア参入戦略を熱弁した。

楽天・三木谷氏が熱弁「第4のキャリア」参入の勝機

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楽天 会長兼社長の三木谷浩史氏。左はモデレーターをつとめた日本経済新聞社 編集委員の滝田洋一氏。

10月に控えた楽天のキャリア参入については、Business Insider Japanでもすでにさまざまな記事を出してきた。

注目は、そもそもなぜやるのか? そして世界でも非常にめずらしい「コアネットワークまでフルクラウド」の通信キャリアになぜ挑むのかだ。

三木谷氏は、通信事業に参入する勝機を10年前に始めた楽天カードになぞらえて説明する。

「楽天カードに参入したのがちょうど10年前。最初は1日50人の(ユーザー)獲得だったのが、いまや1700万人を超えて2000万人が見え、業界ナンバー1。引き続き20%成長している“お化けカード会社”になった。基本的に、(キャリア参入の)ビジネスロジックとしては、(楽天カードと)同じことをやろうと」

三木谷氏がとりわけ熱心に語ったのは、「ネット企業が携帯にフル参入するのは世界で初めて」であり、「楽天だけが、世界で唯一、まったく違う発想で始まった携帯会社」だという意気込みだ。

第4のキャリア楽天は、ドコモ、au、ソフトバンクの大手3キャリアとは違い、仮想化技術を全面的に採用したキャリアを目指している。

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一般的に「(携帯ネットワークの構築は)アウトソーシング(外注)でインテグレーション(構築)してもらう。(組み合わせる専用ハードは)およそ600(種類)くらい。これが非常に複雑に結びつき合ってできているのが、現在の携帯事業者」(三木谷氏)、これが世界共通の一般的なキャリア構築の手法だ。

楽天が世界でもめずらしいフルクラウド構築のキャリアに挑戦するのは、門外漢ならではの発想からだったと三木谷氏は言う。

「僕らはそもそも素人だから、“なんでそんなもの(600ものハードと、それに伴う莫大な投資)が必要なの?”と。(それで)アンテナからコアネットワーク(基幹回線網)まで全部クラウドコンピューティングにしてしまった。

(ソフトウェアで仮想化されたシステムだと)当然、新しいAIサービスをつけていくのも、新しいメニュー(料金体系や機能)を付け加えるのもすごく簡単。1つの機能がダウンしたときに別の機能で置き換えていく、というようなこともできる。

我々が20年間(楽天の事業で)培ってきたノウハウを使った、最初のフルクラウドの(携帯)ネットワークが楽天モバイルだ」(三木谷氏)

とはいうものの、仮想化技術自体は、楽天のみが追求しているものではない。

ケータイジャーナリストの石川温氏が、KDDIとソフトバンクに仮想化技術の業界の状況を聞いた記事では、設備の一部に仮想化技術を取り入れることは既定路線として他キャリアも検討を進めている。

仮想化とAIによる効率化でメンテ人員「70分の1」に

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フルクラウドでのキャリア構築は、ほとんど誰も成功させたことがないという意味で、通信業界では挑戦的だととらえられている。

三木谷氏も、「携帯業界では(楽天モバイルのスタートは)世界的に有名なプロジェクトになっている。1日に何千というアプリケーション(ベンダーからの連絡)がこのプロジェクトに参加したいとやってくる。本当にフルクラウドにできるのか?と」と、注目度の高さに胸を張る。

しかし、裏を返せば安定・安心が求められる「インフラビジネス」と、業界から注目が集まるほどの「技術的ユニークさ」は相反する要素がある。それでも三木谷氏がフルクラウドにこだわった理由はシンプルだ。通信コストの劇的な圧縮が望めるからだ。

この日、三木谷氏は初期投資だけではなく、「人的資源でも大きく有利」なのだと語った。三木谷氏が語ったメンテ要員の規模は、一般的なキャリアの70分の1という、にわかに信じがたい水準だ。

「初期投資額が低い以上に、圧倒的に機器メンテナンスの人が少なくて済む。AIでシステムを管理するので、人間がいなくてもいい(からだ)。他の会社さんは、(ネットワーク機器の管理業務の人数が)少ない会社で6〜7000人。多いところは1万数千人。楽天モバイルは、全部合わせて100人いない」(三木谷氏)

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2018年11月1日に第二四半期決算会見の中でKDDIが発表した楽天とのローミング提携。第4の通信キャリアの立ち上げ当初、手薄になる「主要都市や混雑エリア以外」の地域をKDDIが通信網を貸し出す提携。期間は2026年3月末までとされる。

当初の楽天モバイルは、主要都市(東京・大阪市・名古屋市など)以外はKDDIのキャリア網にローミングして、サービス構築をする。つまり、そもそも自社展開する地域は限られている。とはいえ、メンテナンス要員がここまで大幅に圧縮できるという宣言は驚きだ。

KDDIがローミング提供期限としている2026年3月末でもこの規模で済んでいたとしたら、まさに革命的なコスト圧縮ということになる。

楽天モバイルは「2年縛りをしない」を強調

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対談は、気になる料金戦略にも及んだ。

三木谷氏は「料金自体のことはあまり言えませんけれども」としながらも、あらためて、2年縛りは基本的に設けないと断言した。

2年縛り排除は従来から口にしているが、AI/SUM参加者にもあらためて強くアピールした形だ。

「最初の2年(を縛るの)は100歩譲ってわかるにしても、その後1〜2カ月(の変更期間が)経ったら、またもう1回2年縛りが始まるのは、これはどう考えてもおかしいと僕は思っている。我々は超シンプルに、基本的には“いつ入っても、いつ止めても自由です”と。何年縛りというのは、基本的にはもうやらない」(三木谷氏)

楽天モバイルのサービスインまで半年を切り、人材も続々と集まっているという。

「モバイル部門のトップはアメリカ人。その下にはインド、東欧、中国の人もいらっしゃる」(三木谷氏)という、多国籍の頭脳を集めたチームで開発が進む。

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楽天は創業22年間でいまや売上高1.1兆円。多忙な三木谷氏は約48分の登壇を終えると足早に会場をあとにした。

こうした海外の優秀な理系人材を集められる理由を、三木谷氏は「AIを本当に進めていくには、お金でAIエンジニアを引っ張るのではなく、彼らに面白いプロジェクトを用意することだ」と説明する。

以前から三木谷氏自身が何度か口にしているように、楽天モバイルのチャレンジは、携帯業界にとっては「アポロ計画」、つまり技術的な飛躍の度合いが大きい。

「もしこれが成功すれば、楽天グループにとっても、彼らにとっても(エポックメイキングな出来事になる)。“昔アポロ計画に参加したんだぞ”という、宇宙工学にあったことが、通信工学の中でも起こる、ということなんだと思う」(三木谷氏)

実際の通信品質がどうなるのかなど、楽天モバイルには、まだ実情が見えない部分も多い。ロケットサイエンスのようなイノベーションの機会なのだとすれば、なおさら数百万単位の加入者に向けて実際に電波を吹いてみるまで、品質はわからない。

楽天モバイルのキャリア参入に向けた残り時間は、関係者にとってもアポロ並みに激動の半年になるのだろう。

(文、写真・伊藤有)

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