GPSが不正確に ── 地球の磁極はますます速く移動している

地球の磁場は、南北の磁極を結ぶ形になっている。

地球の磁場は、南北の磁極を結ぶ形になっている。

Shutterstock

  • 地球の北磁極は常に移動している。
  • 近年、北磁極の移動スピードが速くなっていることを受けて、アメリカ海洋大気局(NOAA)らは、予定を前倒しして世界地磁気モデル(WMM)を更新した。WMMは、GPSアプリからアメリカ国防省のナビゲーションシステムまで、あらゆる位置情報システムのベースとなっている。
  • 地球の磁場が変動し続ける理由は解明されていない。地球の磁場は、恐ろしい太陽風から我々を守っている。だが、ある理論によると、地球の核(コア)の内部の地磁気の動きが、磁場を大きく変動させている。
  • 新たな研究では、研究者たちは急激な地磁気の変動の発生源と時期をモデル化した。

2003年に公開されたハリウッドのSF大作『ザ・コア』は、地球の中心部にある核(コア)の回転が突然止まり、地球の磁場が崩壊するというストーリーだった。地場の崩壊で発生した強力なマイクロ波がローマのコロッセオを破壊し、サンフランシスコのゴールデンゲートブリッジを溶かした。

ミネソタ大学の地震学者、ジャスティン・リヴィノー(Justin Revenaugh)氏によると、「映画の描写はほぼすべてが間違っている」。だが、地球の磁場が地球上の生物を死滅させる破壊力を持つ太陽放射から、地球を守っていることは事実。磁場がなければ、太陽風は地球の海と大気を吹き飛ばしてしまう。

しかし、地球の磁場は安定していない。

過去1世紀にわたって、科学者たちは地球の北磁極(地理上の北極とは一致しない)との追いかけっこを繰り広げてきた。毎年、北磁極は平均で50キロほど、北に移動している。

北磁極は、1990年代から北に移動している。

北磁極は、1990年代から北に移動している。

Wikimedia Commons

この移動により、世界地磁気モデル(World Magnetic Model :WMM) ── 地磁気を追跡し、コンパス、スマートフォンのGPS、飛行機や船のナビゲーションシステムに情報を提供する ── は不正確になっている。WMMの次の定期更新は2020年まで行われない予定だったが、北磁極の加速する移動に対応するため、米軍が前例のない繰り上げ更新を要請する事態となった。

このほど、北磁極が移動する理由を解き明かす、新たな研究が発表された。今後は移動の予測が可能になるかもしれない。

地球のコアの動きを追跡

地球の磁場は、地下約2900キロメートルにある外核を構成する、液体のニッケルと鉄の対流によって発生すると考えられている(地球の核は液体の外核と固体の内核に分かれている)。磁場は、南北の磁極を結ぶような形をしており、その強さは常に増減し、外核の状態によって変動する。

ちなみに、磁極は常に移動する性質を持ち、100万年おきに反転さえする

外核を構成する液体の金属の対流は、周期的に、ときには突然、変化することがあり、磁場の異変を引き起こす。磁場はいわば、南北の磁極と地球の核を貫く輪ゴムの束のようなもの。核の変化は必然的に、さまざまな輪ゴムの、さまざまな場所を引っ張ることになる。

こうした地磁気の及ぼす力が、北磁極の移動に影響を与え、従来の位置から大きく移動する要因になっている。

コンピューターシミュレーションによる地球の核の内部。

コンピューターシミュレーションによる地球の核の内部。

Aubert et al./IPGP/CNRS Photo library

今のところ、こうした磁場の変化を予測することは難しい。しかし今回の研究では、地球物理学者のジュリアン・オベール(Julien Aubert)とクリストファー・フィンレー(Christopher Finlay)の両氏が、複数のスーパーコンピューターを使い、400万時間相当の演算を行って、地球の核の物理的な状況をシミュレーションした。

研究者らは、地球の内部から外側へと伝わる熱が、磁場に影響を与えることは理解していた。この熱は、平均すると、年に10キロ弱の速度で伝わっている。しかし今回、外核内に、周囲の液体よりも高温で比重が軽い、液体の鉄のポケットのような部分が時々発生することが判明した。さらに、この高温で軽いポケットと、より低温で重い周囲の温度と密度の差がある程度以上になると、高温の液体の鉄は急激に上昇することがあることも分かった。

この急激な動きが、磁気の波を引き起こす。そして波が、猛スピードで外核の表面(マントルとの境界面)に到達し、地磁気の大きな変動を引き起こす。

「磁気の波は、楽器の弦の振動のようなもの」とオベール氏はBusiness Insiderに語った。

ナビゲーションにとって極めて重要な北磁極

ヨーロッパやアメリカの軍隊にとって、北磁極の動きを把握することは重要。なぜなら、軍が使用するナビゲーションシステムはWMMに依存している。また、民間航空会社やスマートフォンのGPSアプリにとっても同様、パイロットやユーザーが自分の現在位置を特定し、ナビゲーションを行う際にもWMMの情報が使われている。

そのため、英国地質調査所(British Geological Survey)とアメリカ海洋大気局(NOAA)は、5年ごとにWMMを更新している。米軍が要請した繰り上げ更新は、2019年2月4日に完了した。

しかし、このような定期的な更新を行っても、地磁気の急激な変動により、WMMを正確に保つことは難しくなっているとオベール氏は語った。

北磁極はスマートフォンのGPSアプリにとっても重要。

北磁極はスマートフォンのGPSアプリにとっても重要。

Justin Sullivan/Getty Images

オベール氏の研究グループが考案した新しいモデルは、地球磁場の変動を予測することで、WMMの問題を解決できる可能性がある。

「今後数年で、我々のグループは過去の変動を把握し、より正確に今後の変動を予測することが可能になると期待している」

地磁気の崩壊は起こり得るか?

地球の磁場は大気を守るシールド。リヴィノー氏によると、太陽放射を遮る「役割の大部分」を担っている。もし磁場がなくなれば、最終的には大気もなくなってしまう。

しかし、それはまず起こり得ない。地球の核の回転が止まることはないからとリヴィノー氏。

仮に地磁気が崩壊したとしても、『ザ・コア』で描かれたような壊滅的な影響 ── 心臓ペースメーカーをつけている人が次々と倒れたり、途方もない規模の雷雨が起きたり、世界中のランドマークが倒壊する ── は起きないだろう。

大気と磁気がなければ、地球には絶えず宇宙線が降り注ぐ。

大気と磁気がなければ、地球には絶えず宇宙線が降り注ぐ。

NASA

より可能性が高いシナリオとしてリヴィノー氏が指摘したのは、78万年前に起こった地磁気の逆転。こうした逆転現象が起きた時(逆転現象は地球の歴史の中で数回発生している)、地球の磁場の強さは通常の30%程度まで低下すると同氏は述べた。

だがこれも、遠い将来に起こる可能性があるという程度のシナリオ。だが、それでも、現在の磁場の仕組みについて理解を深めることは重要とリヴィノー氏は付け加えた。

「より優れたモデル化ができれば、どんな動きをするのか把握しやすくなる」

[原文:Earth's magnetic north pole is moving too fast for experts to keep up. Now scientists might know why.

(翻訳:長谷 睦/ガリレオ、編集:増田隆幸)

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