EXILE抱えるLDHグループの城下町・中目黒を歩く。芸能事務所を超えるグローバル「LDH経済圏」の野望

EXILE、三代目J SOUL BROTHERS、E-girlsなどが所属するLDH。

人気アーティストを多数抱える「芸能事務所」の顔の一方で、アパレル、キッチン、格闘技ジム、ダンススクールまで多角的な事業を経営する「LDHグループ」としてのもう一つの顔も持つ。

東京都内の中目黒・恵比寿エリアを歩くと、LDHが手がける多くの店が点在することに気づく。そこには“LDH経済圏”ともいえる独特の空間が築かれている。ビジネスの観点から見たLDHを解剖してみた。

中目黒・恵比寿に18の拠点

LDHが中目黒・恵比寿エリアにいま、18の店や施設を構えているのを知っているだろうか?

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LDH関連企業が手がけるショップやレストランなどの一覧(クリックすると拡大します)。

制作:さかいあい

2003年から開講しているダンススクール「EXPG」はすでに有名だが、アパレルショップ、コーヒー店、カレー屋、さらにはトレーニングジムまで、ジャンルも実にさまざまだ。

上記の地図を見てほしい。中目黒駅の改札を出て山手通りを左折して進むと、まずあるのはLDH所属アーティストの公式グッズを販売する「EXILE TRIBE STATION TOKYO」。

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対面するように並ぶ、アパレル「PKCZ® GALLERY STORE」(手前)とコーヒーショップ「 AMAZING COFFEE」。

撮影:西山里緒

そこからわずか2分ほどのところに、アパレルショップ「J.S.B.」「24karats」「STUDIO SEVEN」が点在。さらに目黒川沿いを進むと、コーヒーショップ「AMAZING COFFEE」と アパレル「PKCZ® GALLERY STORE」が対面するように並ぶ。目黒川を挟んで少し歩けば「錦織」「鮨つぼみ」といった高級飲食店もある。

実際、目黒川沿いエリアを散策してみると、EXILEや三代目J SOUL BROTHERSのファンと思われる高校生くらいの女子グループのほか、ビビッドな色のスカジャンに大きめのデニムといった、LDHが手がけるストリートファッションに身をつつんだ10〜20代の姿を見かける。休日になれば、LDH関連の店には行列ができている。

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中目黒駅高架下にあるカレーショップ「井上チンパンジー」。

撮影:的野弘路

一方で、 南改札口を出て高架下にあるカレーショップ「井上チンパンジー」に行ってみると、LDHとはまったく関係のないサラリーマン風の人々がもくもくとカレーをかきこんでいる。

LDHが中目黒に溶け込み、そのカルチャーの一部になっていることが、よくわかる。


裏原宿の“シーン”に原点

なぜエンターテイメント企業であったLDHはファッションや飲食などのビジネスに進出したのか。

音楽×ファッションという、他カルチャーとの融合について、LDH apparel社長の小川晢史は、その原点に1990年代の裏原宿があると明かす。

「僕らはその影響をものすごく受けて育った世代なんです」

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LDH apparel 社長の小川晢史。EXILE、三代目 J SOUL BROTHERSなどの衣装デザインも手がける。

撮影:今村拓馬

当時の裏原宿には、音楽プロデューサーでもあるNIGO®が立ち上げたブランド「A BATHING APE®(ア・ベイシング・エイプ)」をはじめとして、ストリートファッションの文化が花開いた。

「あの(裏原宿という)村の中に、ファッションブランドも音楽クリエイターもアートクリエイターもいた。NIGO®さんが作る服を、アーティストもみんな着ていて。メジャーからそうでない人たちまで、いろいろな人がシーンを盛り上げているような感じだった」

グループカンパニー体制で360度ビジネスを

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LDHが手がけるビジネスの一覧。

画像:LDH JAPAN

言うまでもなく、LDHのビジネスの中核を占めるのは音楽とライブでの収益だ。所属アーティストはEXILE、三代目J SOUL BROTHERS、E-girlsほか、GENERATIONS、THE RAMPAGE、FANTASTICSなど、若手アーティストも次々と生まれている。

公開されているデータから、2018年を例にとって見てみよう。オリコンのデータによると、2018年の三代目J SOUL BROTHERSの総売上金額は、シングル・アルバム・ライブDVD・ブルーレイを合わせて約58億円だった。

2018年はEXILEが3年ぶりにドームツアーを開催した年でもあった。このツアーでEXILEは合計88万人を動員した。チケット代が1万1000円であるため、単純計算すると、93億円の規模だ。

これに加えて、ライブのグッズ売り上げ、ファンクラブ収益、アーティストのCMや番組出演料などもある。

もちろんレコード会社やライブ運営企業の取り分もあるため単純な足し算はできないものの、このうちの一部が「LDH JAPAN」事業の収益となっている。

こうした収益の「軸」を押さえた上で、LDHはアーティストマネジメントにとどまらない、さまざまな事業へと手を広げている。

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LDH kitchen社長の鈴木裕之。ウェディング業界を経てLDHに参画。

撮影:的野弘路

LDHの多角経営の強みがあるとすれば「アーティストの力を使ったビジネスと、使わないでやろうとしているものを区分けして、同時並行で走らせている点」ではないか、とLDH kitchen社長の鈴木裕之は分析する。

LDH kitchenでいえば、毎年お台場で開催する夏イベント「居酒屋えぐざいる」は、EXILEメンバーらがプロデュースするフードやドリンクを数百円〜2000円程度で提供する。

その一方で、LDH kitchenにはLDH所属アーティストとの関連を全く感じさせない店もある。

例えば、ミシュランの三ツ星を獲得した「鮨さいとう」がプロデュースする鮨店「鮨つぼみ」は、カウンターの客席のみ・おまかせコースが2万円と、価格帯も内容も従来のファン向けとは明らかに異なる。

芸能人が展開する多くの飲食店が「その芸能人プロデュース」を大々的に打ち出すのとは対照的だ。

リハーサルウェアからブランドを

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中目黒にある「24karats」の店内。

撮影:今村拓馬

LDHビジネスの歴史は意外と長い。

LDH apparelは2005年、リハーサルウェアを統一したいというEXILEメンバーの呼びかけをきっかけとして、EXILEのブランド「24karats」を立ち上げたのがはじまりだ。

その後もJ.S.B、PKCZ®、Enasolunaなど、ブランドを拡大してきた。

「当初は『芸能事務所のブランド』とコラボも門前払いになったりも。MAKIDAIさんがアルマーニ、AKIRAさんがラルフ・ローレンのイメージモデルをされたり、三代目のNAOTO、登坂(広臣)、岩ちゃん(岩田剛典)など、ファッション誌の表紙を飾れるようなアーティストが増えてきて、風向きが変わってきたように感じます」(小川)

LDH kitchenも最初の店「中目黒 KIJIMA」をオープンさせたのは2006年。きっかけは「アーティストが気軽にいける店をつくりたい」というメンバーからの要望だったという。少しずつ店を増やし、現在では全国に15店を展開している。

「LDHブランド」を確立させる

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中目黒にある「居酒屋 三盃」の店内の様子。

撮影:的野弘路

2017年、LDHは会社の体制を一新した。株式会社LDHを株式会社LDH JAPANに社名変更し、アパレル、キッチン、ダンススクールなどLDH関連の事業を「グループ会社」として置いた。

狙いは、それぞれの事業を明確化し、ビジネスとして長期的に発展させていくためだ。

飲食事業のLDH kitchenは2019年、羽田空港にオープンした旗艦店「LDH kitchen TOKYO HANEDA」を皮切りに、現在運営している飲食店の一部をLDH kitchenブランドとして打ち出していく。

「『芸能事務所がやっている飲食店の割にはおいしい』という存在では終わらせたくない。質の高い料理を出す『LDH kitchen』というブランディングへ、自ら格上げをしていきたい」(鈴木)

LDH apparelの小川にも「ブランドを育てること」への強いこだわりがある。

「たとえアーティスト中心に立ち上げたとしても、イメージ的にはブランド=個人ではなくなる時が来ていると思います。ディオールもシャネルも、もう創始者は亡くなっていますが、ディレクターを変えながら、その世界観を守り続けている」

多角的な攻め方で風穴を開ける

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2018年、LDHは格闘技ジム「EX FIGHT」をオープンし、さらに事業の拡大を続ける。

日本でも類を見ない「エンタメを中心とした360度ビジネス」を進めるLDHだが、そのルーツはヒップホップにある。

アメリカのヒップホップアーティストは、自分たちで服やお酒などをDIY(ドゥ・イット・ユアセルフ)するのが一般的だったため、LDHにとってもそれは自然なことだった、と広報担当者は明かす。

日本で足場を固めた後は世界へ。LDH apparelは2018年、ロサンゼルスで毎年行われている世界最大のストリートファッションの祭典である「COMPLEX CON」に初めて出店。

2019年には規模を拡大して再出店することも発表している。

「向こうでは、アーティストの力は影響しにくいので、ファッションとして良いかどうかで勝負をしなければいけない」(小川)

アメリカでストリートファッションは、すでに一大ブームだ。

LDH apparelがそこに提供できるあたらしい価値とは何なのかと聞くと、小川はやはり「360度ビジネス」の強みをあげた。

「アパレルや飲食や映画やダンススクールなど、いろいろな事業が相乗効果を生んで、ひとつひとつ(の事業)が成立していく。そういったモデルケースは海外では少ないので、多角的な攻め方をしていけば、何か風穴を開けられる可能性はあるはずです」

(敬称略)

(文・西山里緒)

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