日本のAI産業は高専生がつくる? 「高専DCON」がすごかった —— 製造現場をAIの目が支援、逆転発想の「電線点検AI」

01

高専DCON 2019で優勝した長岡高専長岡高専プレラボチームの3人(中央)。右は司会の厚切りジェイソンさん、右から2番目はDCON準備委員会委員長の松尾豊教授、左は小島瑠璃子さん。

「全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(DCON) 2019」の本選が4月24日、東京都内で開催された。同コンテストは日本ディープラーニング協会と日本経済新聞社が共催、高専を対象に「ディープラーニング活用のビジネスコンテスト」として実施したものだ。

審査員には、著名なベンチャーキャピタルのトップやAI技術動向の第一人者である東京大学大学院の松尾豊教授らが並び、その事業性を評価した。参加グループ評価手法がユニークで、仮にベンチャー企業だったとしての「仮想・企業価値評価額(バリュエーション金額)」で順位を決めるという方法を採用。単なる技術コンテストではない点が特徴だ。

今回が第1回目となるDCONは、AI人材として注目される高専生を対象に予選を開催。ディープラーニング研究でも高専出身者が活躍しており、そのポテンシャルに対する期待の大きさから生まれたコンテストだという。

02

ベンチャーキャピタルの面々が、「仮に企業だったら投資するかどうか」の目線で審査。審査員は、WiLの伊佐山元氏、DBJキャピタルの河合将文氏、IGPIビジネスアナリティクス & インテリジェンスの川上登福氏、東京大学エッジキャピタルの郷治友孝氏、ディープコアの仁木勝雅氏。

DCON準備委員会委員長で東京大学大学院工学系研究科の松尾豊教授は、「技術力が高いことと、社会で通用するかは別問題。中途半端なビジネスモデルは良くない。本当にいいビジネスと技術が組み合わされないと意味がない」と強調し、社会課題を解決する新しいビジネスモデルにまで昇華させることを期待するとした。

03

東京大学大学院工学系研究科の松尾豊教授。複数の著書やテレビ出演など、AI技術動向の第一人者として知られる。

予選は約20校が参加し、本選にはチーム8組が選ばれた。本選出場は沖縄工業高専、長岡工業高専、香川高専からはそれぞれ2チームが出場。さらに阿南工業高専、沼津工業高専から1チームずつが本選で6分間のプレゼンを行い、技術と事業性を競いあった。今回は優勝を争った上位2校のビジネスモデルを紹介していこう。

04

1位と2位で同時にバリュエーション金額を掲げた結果、長岡高専プレラボチーム(右)が優勝となった。左4人は香川高専「MILab & TEAM ARK」チーム。

1位:アナログメーターを画像認識で読み取って製造現場を改善

第1位となった長岡高専プレラボチームは、モンゴルからの留学生2人と日本人1人というチーム。同チームが出展作品「METERAI」で着目したのが、製造現場におけるアナログメーターだ。工場のラインにはさまざまな機器があり、そこにアナログのメーターがあり、点検作業や巡視作業では従業員が目視で確認して手で記録をつけている。

05

製造現場のラインにはアナログメーターがたくさんあり、その作業を人が行っている。

まずはこのメーターを読み取るカメラを考案。Raspberry Piに搭載したカメラで読み取れるようにした。ただ、「これだけではビジネスにならない」と判断した同チーム。これに事業価値を加えるために、「AIの持つ価値を最大限に利用した」という。

Raspberry Piには、ニューラルネットワークのAlexNetを導入して画像解析を行うようにした。メーターから得られるさまざまなデータをリアルタイムで読み取ってビッグデータとして集積でき、電力消費の削減や製品の品質改善に繋がることを目指した。

06

メーターの数値をリアルタイムに読み取って品質改善などに役立てられる。スライドの「アルフォート」は、新潟県の菓子メーカーであるブルボンの製品。

企業のAIに対するニーズを調べたところ、特に中小企業からは低コストであることが求められたという。

低コスト化のためにローカルで画像処理を行うようにして、中継地点には数値データのみが送信され、クラウドサーバーにも負荷がかからない設計にした。サーバー自体はクラウドサービスを想定しているが、工場内などにローカルサーバーを設置しての稼働にも対応。セキュリティや機密保持の観点にも対応できる。

07

今回のシステムでは、エッジコンピューターであるRaspberry Piで画像処理などを行い、サーバーを経由してスマートフォンアプリで作業員がチェックする、といったことができる。

事業モデルとしては、まずは食品業界をターゲットとした。食品製造業は新潟の第一の産業だと説明。IT化が進んでいなくても、METERAIなら工場のラインを大きく変更しなくても導入できる点もポイントになる。新潟の地元企業であるブルボンがすでに導入に前向きで、試験利用したところ電力消費3割減を実現したという。

松尾教授は、METERAIでは利用しているAlexNet自体に手を加えている点が、他のチームにはない点だと評価した。5人のベンチャーキャピタルの代表者は全員が興味を持ち、5人全員が「投資したい」と手を挙げた。

最終的な審査の結果は、バリュエーション金額(企業評価額)が4億円、投資額が4000万円。「この段階で4億円はそれなりに高い評価」と審査員からは声が上がり、「アナログメーターを人が読み取ることを課題とした着眼点」や「その対処として画像認識を使うソリューション」を評価する声が多かった。さらに省力化やコスト削減ではなく、品質向上などの付加価値に繋げる点も評価に繋がった。

ほぼ満点の評価だったMETERAIだが、チームは特に苦労した点として、アルゴリズムの開発に8カ月かかっている点を挙げている。

2位:送電線を安全に低コストで点検できるロボット

08

日本の送電線網は地球2周分。

ヘリコプターを使った点検作業もあるが、コストが高く、飛行区域制限があってすべての送電線を点検できないという課題もある。香川高専のMILab & TEAM ARKでは、これを解消するために、送電線を滑走して撮影を行うロボットと、その撮影データをディープラーニングによる解析で異常を検出する、というシステムを開発した。

09

送電線にはさまざまな損傷が発生する。

11

点検ロボットを四国電力らと共同開発。送電線を撮影して映像解析で損傷を見つける。

このロボットは約6kgと軽量な上にプロペラを使って機体を浮かせることで容易に送電線に設置でき、振り子型フレームによって重心を常に中心に保つことで、急な傾斜の送電線にも対応できるそうだ。

ロボットの開発は四国電力、テクノ・サクセスとの共同開発。またAI送電線点検システムは同チームが独自開発した。ディープラーニングによる画像解析を使っているが、開発では学習するための「電線の異常を示した画像」が多く集められないという問題に直面した。

ブレイクスルーは、逆転の発想だった。たくさんの「正常な電線の画像」を学習させ、「正常部分を検出する」ようにした。これによって、電線を撮影した映像内で「正常な電線ではない部分」で検出の信頼度が低下し、損傷などの異常部分として検出できるようになった。

12

送電線の異常を示す画像が十分に集められず、正常な電線を大量に学習させ、「正常ではない部分」を異常として認識できるようにした。

13

本来は存在しないシールを貼った部分を異常として検知。実際の損傷を同様に検出できることが期待できる。

すでにロボット部分は特許申請をしており、ビジネスモデルとしては、まずこのロイヤリティ収入を見込む。加えて、動画解析による収入によって四国内で4000万円/年を確保し、その後全国展開によって9億円/年という売上を見込んでいる。さらにサービスの高機能化や世界展開、道路や線路といった応用分野への進出によって、2030年には国内で1600億円規模に達する「インフラ点検市場」をターゲットとしたビジネスモデルを提案した。

dcon01

まずは四国で事業展開してベースを固め、全国展開も視野に。「今すぐにでも(事業を)やったらいいのでは」という声が上がるほど完成度の高い内容で、新たなハードウェアとソフトウェアを両方とも開発した点も評価された。

16

異常データを必要としない仕組みで、異常データの収集が困難な他のインフラの点検にも活用できるとアピール。

AI人材としての「高専生」のポテンシャルと熱量

両チームとも、社会にある課題を的確に見つけ、その解決策を高いレベルかつ独自の仕組みで提案した点が評価されていた。長岡高専プレラボチームはブルボン、MILab & TEAM ARKは四国電力と、実際に課題を抱える事業者とすでに協力している点もポイントといえる(もちろん、チームによっては、課題やニーズがまだ自分たちの頭の中にとどまっている例もあった)。

DCON

各チームには、メンターとしてベンチャーキャピタルなどの企業の代表が参加して助言もしている。審査を含めて「研究開発さえすればいい」というのではなく、いかに社会の課題を解決して事業として成立しうるか、という観点が重視されるコンテストに会場は熱気にあふれていた。

(文、写真・小山安博)

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中