今日もバブルの象徴とされるディスコ「ジュリアナ東京」。お立ち台で過激に踊り狂う女性たち。写真は2008年9月のリバイバルイベントのものだが。
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平成はバブル経済の絶頂と崩壊に始まった。その呪縛はいまだに続いていると言っていい。
重厚長大の製造業を軸に、大都市を中心として驚異的な経済成長を遂げた1960〜70年代は、土地が最も貴重な資産であり、地価は基本的に右肩上がりだった。
お金を借りて土地を買えば必ず儲かる、土地さえ担保にとれば融資は安全という「土地神話」が日本人の中に深く定着し、経済成長が地価上昇を生むという因果関係はいつしか忘れ去られ、地価は上昇するという結果だけが一人歩きするようになった。
1980年代に入ると、地価上昇の前提だった高度成長に陰りが見えだす一方で、成長の果実として蓄積された巨額の投資マネーが行き場を失い、「金余り」の時代が幕を開けた。
実はこの金余りこそが、現代の世界経済が抱える最大の病理なのである。
金余りは、人の病気に例えるなら、糖尿病のようにさまざまの合併症をもたらす。一度発症すると完治は困難であるため、残念ながら平成の終わりとともにサヨウナラというわけにはいかず、令和に入ってからも別の合併症を引き起こす可能性が高い。
令和の時代を担うミレニアル世代の方々は、その本質をよく理解しておく必要がある。
土地バブル崩壊のメカニズム
1996年4月、合併後の東京三菱銀行本店前。バブル時代の地価高騰を背景に同行などが販売した「変額保険」で損失を被った消費者たちのデモ行進。
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昭和から平成にかけて起きたバブル崩壊のメカニズムは、ざっと次の通りだ。
- 事業のための「土地投資」から、値上がり益を狙った「土地投機」が始まる。一流企業はこれを「(本来管理部門である)財務部が稼ぐ」という意味で「財テク」と称した
- 金余りで融資先に困った銀行が、こぞって土地投機のための資金を融資
- 土地投機により地価が上昇
- 「土地さえ担保にとれば融資は安全」と信じる銀行からいくらでも融資を受けられるため、高い価格でも取引が成約する
- 2〜4のプロセスが繰り返される(いわゆる土地転がし)ことで、地価上昇が加速
- 地価上昇に伴い、土地を保有する企業(地価銘柄)や銀行株が牽引して株価が上昇
- 地価と株価がピークに達する(平成元年=1989年)
- 銀行による融資が地価高騰を煽っているとの批判が高まり、当時の大蔵省が不動産融資を規制(平成2年)
- 銀行子会社を含むノンバンク(銀行以外の貸金業者)を通じた「迂回融資」が増大
- 大蔵省が銀行に対し、ノンバンクへの融資を規制
- 土地投機に融資がつかなくなったため、売買が成立せず、土地の投げ売りが始まる
- 投げ売りが集中して地価が暴落すると、銀行はますます融資に慎重になり、どの土地も取引が成立しない「塩漬け」状態に
- 地価下落に伴い株価も暴落
- 長期にわたる景気低迷の時代に突入
バブル崩壊後、リーマンショックまでの道筋
リーマンショック前の2007年1月時点で、日本の借金(債務残高)は800億円弱。令和時代に入る2018年度末時点では1000兆円を超えるとされる。
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その後、リーマンショックへ向かっていく経緯はおおざっぱに以下の通りだ。
- 金融機関が業態ごとに共同で設立した「住宅金融専門会社(住専)」だけはノンバンクに該当しなかったため、迂回融資が集中し、貸し付けのほとんどが不良債権というブラックホールが形成される
- 住専の破たんは金融機関の経営を脅かしかねないとして、公的資金の投入を訴えた当時の宮沢喜一内閣が解散に追い込まれる。これにより、平成4年=1992年まで問題が先送りされ、事態の悪化を招く
- 財テクに取り組んだほとんどの企業が巨額の損失を抱え、のちの山一証券破綻やオリンパス粉飾決算事件で問題となる「飛ばし」(損失を連結対象外のファンドなどに移して隠蔽)の原因となる
- バブル崩壊によりもたらされた不況が、不良債権の増加に拍車をかける。抜本的な処理を先のばしにしたことが景気回復の重しに
- 平成13年=2001年に小泉純一郎内閣が成立すると、銀行の不良債権開示と償却を強力に推し進める。厳格な銀行規制の時代が始まり、上の顔色ばかり見て顧客を見ない「ヒラメ行員」と揶揄されたように、銀行員の劣化が急速に進んだ
- 同時期、景気対策のために日本銀行が低金利政策を採用。高い成長性を期待できる産業が見出せないなか、抜本的な景気回復は見込めず、政府の景気刺激策(カンフル)に頼り切りの状態が続く
- 景気刺激策を継続するために赤字国債の発行が常態化
- 国債市場の急拡大を受け、銀行は収益増を狙い国債の売買で値ざやを稼ぐ大規模なトレーディングに手を出すように。その失敗が不良債権に苦しむいくつかの銀行を破綻に導く
- 経費削減に利益を見出すしかない大手銀行の統合が加速し、メガバンクが出現
平成に置いていくべき、銀行融資の悪弊
令和を迎え心機一転、といきたいところだが、金融分野では平成に引き続き、あるいはより深刻な問題が露呈する可能性もある。
Franck Robichon/Pool via Reuters
先に糖尿病に例えた「金余り」は令和の時代も続くだろう。肝心なのは、ここまで一気に流れをさらったバブルとその破たんのような合併症を引き起こさないために、生活習慣を改善することだ。
バブルと言うと、土地投機を害悪視する者が少なくない。しかし、投機そのものは資本主義社会のなかで当然に起こる経済活動であって、それを抑制することはむしろ健全な市場形成を害する。
本当の問題は、投機に対して銀行が無思慮に融資を行うことである。どんなに価格がつり上がっても、買う側に資金がつかなければ取り引きは成立しない。資金がつけばつくほど価格は膨らみ、(上で書いた大蔵省の規制のように)何かのきっかけで融資が止まると、膨れあがった分だけ、いや多くの場合それ以上に、価格が暴落する。
バブルをつくるのは投機家ではなく銀行なのだ。
本来、事業投資に比べて投機はリスクが高い。しかも、投機によって儲けることができる機会はさほど長続きしない。したがって、銀行が適切にリスク判断をすれば、買い手に資金はつかず、価格も自然とあるべき水準に収まる。
平成の最後に起きた、不動産投資をめぐるスルガ銀行の不正融資問題も根は同じだ。筆者はさらに深刻な問題が、令和になって露呈するのではないかと懸念している。まあ、その話はまた後日、「平成に置いてこれなかった問題」として取り上げることにしよう。
大垣尚司(おおがき・ひさし):京都市生まれ。1982年東京大学法学部卒業、同年日本興業銀行に入行。1985年米コロンビア大学法学修士。アクサ生命専務執行役員、日本住宅ローン社長、立命館大学教授を経て、青山学院大学教授・金融技術研究所長。博士(法学)。一般社団法人移住・住みかえ支援機構代表理事、一般社団法人日本モーゲージバンカー協議会会長。