LDHが挑む芸能人の“パラレルキャリア”問題。EXILE、三代目JSBらは「アーティストの寿命」とどう向き合うか

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2018年に東京・代官山にオープンした、LDHが手がけるトレーニングジム「EXFIGHT(エクスファイト)」。

撮影:今村拓馬

EXILE / 三代目J SOUL BROTHERSのNAOTO(35)、EXILE / EXILE THE SECONDのTETSUYA(38)、AKIRA(37)……。

彼らはほんの一例だが、近年、多くのLDH所属アーティストが「経営」にも携わっている。その背景にあるのは「アーティストとしての“寿命”にどう向き合うか」という問題だ。

格闘家の“第2の人生”サポート

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「LDH martial arts」取締役の島影直弥。LDHの手がけるトレーニングジムの経営・運営をサポートする。

撮影:今村拓馬

LDHに所属する格闘家たちの第2の人生をサポートするために、一役買ってくれないか?

トレーニングジムの運営や不動産業などを務めていた島影直弥(36)が、LDH martial artsへの参画を打診されたのは、2016年のことだった。

当時30代前半だった島影にとって、EXILEは「学生時代にクラスみんながカラオケで歌っていた」という憧れの存在。「自分の人生の大きなターニングポイントになるかもしれない」と、入社を決めた。

LDHの考えは、髙谷裕之(41)と岡見勇信(37)という2人の所属格闘家たちとともに、次の事業を生み出していくこと。

LDHの前身は、EXILEのオリジナルメンバー6人で立ち上げた有限会社エグザイル・エンタテインメントだ。アーティストとして長く生きていくための“新規事業立ち上げ”は、LDHでは珍しいことではない。

髙谷、岡見も交え、さまざまな事業計画を検討した末、これで行こうと決めたのは、トレーニングジムと格闘技ジムをかけあわせた「メガジム」だ。代官山に「EXFIGHT(エクスファイト)」を2018年4月にオープンした。

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EXILE TETSUYAが手がけるコーヒーショップ「AMAZING COFFEE」の店内。

撮影:的野弘路

近年、多くのLDH所属アーティストが音楽以外の領域に手を広げている。EXILE / 三代目 J SOUL BROTHERSのNAOTOはアパレルブランド「STUDIO SEVEN」を2017年に立ち上げた。

EXILEメンバーのTETSUYAはコーヒーブランド「AMAZING COFFEE」を展開するほか、ダンスの研究にも取り組んでおり、淑徳大学人文学部表現学科の客員教授、美作大学の客員准教授を歴任している。

その根底にあるのは、 パフォーマーとしての体力の問題を含めたアーティストとしての寿命に、どう向き合っていくかだ。

知名度活かしたコラボに強み

そもそも、アーティストやアスリートがセカンドキャリアとして別の事業を立ち上げたり、投資をすることは、世界に目を向ければ特段めずらしいことではない。

その最たる例として、アメリカのラッパーで音楽プロデューサーのドクター・ドレーがヘッドホンブランド「Beats by Dr. Dre」を立ち上げ、アップルに約30億ドル(約3000億円)で売却したことはよく知られている。

そのほかにも近年は、ファレル・ウィリアムズやグウィネス・パルトローなど著名なアーティストや俳優が実業家や投資家として活躍している。

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LDHが販売しているサプリメント「EXSUPPLI」。

撮影:今村拓馬

LDHのアーティストビジネスもそんな潮流の一つとして捉えることができるが、異なる点は「企業として」垂直統合的に事業を立ち上げている、という点だ。

メリットの一つは、事業同士のシナジーが見込めること。例えば前述のLDH martial artsは2018年、 サプリメント「EXSUPPLI(エクスサプリ)」を販売する際、GENERATIONSとE-girls とともにプロジェクトを始動させ、それぞれ楽曲をリリース。楽曲によって認知度が高まり、売れ行きも好調だという。

自らHIROに「事業プレゼン」

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中目黒にある、LDHが手がけるファッションブランド「J.S.B.」の店内。

撮影:今村拓馬

とはいえ、アーティストの知名度さえあればビジネスが成功するというわけでもない。

LDHの飲食事業を手がけるLDH kitchenの鈴木裕之も、所属アーティストの認知度は助けになるとは言いながらも、「(軌道に乗せるのは)決して甘いものではない」とクギを刺す。

では、LDH内で“新規事業”を立ち上げることができるのはどのような基準を満たした人なのか?

LDH apparel社長の小川哲史はその条件を「(本人の)熱量、バイタリティ、想い」ではないかと言う。

そもそもLDHに所属するアーティストたちは、自らの数年単位での“キャリアビジョン”について、EXILE HIROと話し合う機会を定期的に設けている。

その中でも、事業立ち上げを希望するアーティストは自らHIROへ「事業プレゼン」を行うという。

やりたいと言った本人がどれだけやるか

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EXILEのブランド「24karats」のショップ外観。

撮影:今村拓馬

LDH apparelの取締役を務めるNAOTOは、クリエイティブディレクターとして服のデザインにも関わるほか、売り上げの責任も負う立場にある。この他、EXILE、三代目J SOUL BROTHERS、HONEST BOYZ®という3グループのメンバーを兼任。タレントや俳優としても精力的に活動している。

「最終的にはHIROさんに(NAOTOが)プレゼンして。それだけの想いがNAOTOさんにあったから、HIROさんも『じゃあやろう』と。やりたいと言った本人、中心となる人間(NAOTO)がどれだけやっていくかが大事だと思います」(LDH apparel・小川)

前述のAMAZING COFFEEを手がけるTETSUYAについては、「コーヒーへのこだわりがすごい。クオリティに妥協しない」(LDH kitchen社長の鈴木裕之)という。もともとのコーヒー好きの思いが高じてビジネスまでになった。

LDHは“大学”にも進出?

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LDHはアーティストの新たな一面を引き出し、ビジネスにつなげる。

撮影:今村拓馬

2019年、LDHは新たなプロジェクトを発表した。 ファンクラブ会員が参加できる、その名も「LDH BASE」だ。その中の取り組みのひとつに「LDH UNIV.」がある。

ウェブサイトやリアルな場での特別講義を通じて、LDHの歴史、音楽、ライブ、文化、映画、飲食など、LDHが手がけるエンタテインメントをさまざまな角度から“大学のように”学ぶことができる。

LDH UNIV.が“大学”ならば、“部活”もある。

LDH CLUBでは、COFFEE部はTETSUYA、日本酒部は橘ケンチ、トレーニング部は白濱亜嵐や数原龍友など、LDH所属アーティストと各事業のスタッフがイベントなどを企画し、ファンクラブ会員と体験を通じて特定のテーマの知識を深めていく。

今までLDHが仕掛けてきた事業は、アーティストの知名度を活かしつつ、商品としてのクオリティの高さで勝負する、という売り方が基本だったが、今後はそこから一歩進み、ビジネスにファンを巻き込んでいく。

EXILE TETSUYAが淑徳大学で客員教授として教えた経験は、「EXILE UNIVERSITY」というドキュメンタリーになっている。

動画:ldhofficial

LDHはこうした取り組みで、アーティストの新たな一面を引き出してビジネスにつなげてゆく。

「ファン×コミュニティ×ビジネス」という壮大な試みが巨大な経済圏を築き上げる日は、おそらくそれほど遠くないはずだ。

(敬称略)

(文・西山里緒)

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