瓦町駅にて、筆者撮影
四国・香川県の市街地を走る高松琴平電気鉄道(通称ことでん)はユニークな企画を次々に世に送り出すローカル鉄道として知られ、しばしばネットで話題にもなっている。改元を記念して特製のデザインで発売された独自ICカードの「新元号記念IruCa」(読みはイルカ。ちなみにことでんのキャラクターはイルカをモチーフにした“ことちゃん”と、“ことみちゃん”で、夫婦だ)も、デザイン発表時に「攻めすぎている」として、ネット上で大いに話題となった。
令和となってすぐの5月3日の午前9時30分から、このデザインのIruCaが800枚限定でことでん瓦町駅にて発売されるというので朝から並んでみることにした。
新元号記念IruCaがネットで話題に
新元号が見えていないのに、ドヤ顔で掲げていることちゃんが可愛い。
引用:ことでんウェブサイト
「新元号記念IruCa」のデザインは、前述のことちゃんが新元号である「令和」らしき紙を掲げているところに、妻のことみちゃんの絵が被っているというもの。
勘のいい人ならすぐ気づいたと思うが、新元号発表時のテレビ中継時に菅官房長官の掲げた「令和」の文字に、手話通訳のワイプ画面が重なってしまい、新元号が見えなくなるという「生中継ならでは」のハプニングをオマージュしたデザインとなっている。
IruCaとは:IruCaはことでんの発行する交通系ICカードだ。ことでん傘下の電車やバスでSuicaのように利用することができるほか、自動販売機や加盟店、公共施設での支払いに利用できる。2018年よりことでんでは、SuicaやPASMOなどの交通系ICカードも利用できるようになったが、逆にIruCaは他社の利用エリアで利用できるわけではない点には注意が必要だ。
四国の“攻める”地方鉄道「ことでん」
琴電琴平駅にて、筆者撮影
日本において少子高齢化や東京一極集中の波は止まらず、多くの地方都市は縮小を続けている。不動産を持たない中小私鉄は通勤・通学客にその収益を頼っているため、厳しいあおりを受けている。
これらの背景事情に加え、 関連する駅ビル内百貨店の経営破綻に連鎖する形でことでんは2001年に経営破綻、その後に経営陣を刷新し新経営ビジョン「ことでん100計画」を掲げた。
ウェブサイトに掲載された計画では、“前経営陣時代は乗客に対するサービスマインドに欠けており、県民感情は最悪であったこと”に対する反省が随所にあり、行政、周辺施設、地域住民と連携し、地域と共に歩む会社にすることをが指針として掲げられている。
瓦町駅にて、ことちゃんとことみちゃんと並べる顔ハメ。筆者撮影
この経営改革と合わせて「ことちゃん」というイルカのマスコットキャラクターも登場した。讃岐うどんを好みお腹が少々出ているイルカのキャラクターで、妻の「ことみちゃん」も後に登場した。
キャラクターにイルカを採用した理由を以前、関係者に聞く機会があったが、経営刷新に伴い県民にヒアリングをした際に「香川に鉄道はいるが、(サービスの悪い)ことでんはいらない」などと言われ、「本当にことでんはいるか?」と常に自らに問うためだ、というシュールな理由があるそうだ。
瓦町駅にて、筆者撮影
この「ことちゃん」はことでんの駅内のさまざまなところで使用されているほか、グッズやLINEスタンプにもなり、地域住民に愛されている。
発売は3時間半待ちの大行列だった
瓦町駅にて、筆者撮影
さて、そんな中5月3日に発売されたのが今回の新元号記念IruCaだ。ことでんについて長々と書いてきたが、筆者はとりたてて深い鉄道ファンではないため、いつから並び始めればいいのか見当もつかない。
確かにネットで一時的に話題にはなったが、そうした情報はすぐに流れて忘れられてしまい、実際は購入する人は大して多くないのではないか、という予想も少しあった。
新元号記念IruCaは、発売日の5月3日、9時30分ごろにことでん瓦町駅で発売されるという公式情報をもとに、ことでんの始発が瓦町駅に到着する6時30分の少し前を狙って到着した。筆者が並び始めたのは6時10分過ぎだ。
瓦町駅は駅ビルもあり、高松市内では都会の方だが、ふだん、早朝にあまり人はいない。しかし待機列として案内された瓦町駅2階のコンコースは既に多くの人が並んでいた。「最後尾」の看板を持った係員に尋ねたところ、発売の3時間半前にもかかわらず既に380人以上が並んでいるという。
発売されるIruCaは800枚。だが、1人あたり2枚まで購入できるため、全員が2枚買った場合には400人までしか購入できない計算になる。新元号記念IruCa人気を甘くみていた自分を反省しつつ、なんとか「ギリギリ確保できる」ところに滑り込んだ。
名古屋に住む孫に頼まれて……
時間が進むと、さらに行列はのびた。瓦町駅にて、筆者撮影。
並んでいる人の層としては、大学生くらいから家族連れ、高齢の人まで多様だった。午前6時10分過ぎから発売される9時半まで、およそ3時間半ほど並んでいたが、たまたま前に並んでいた81歳の女性が延々と話をし続けてくれたおかげで退屈することなく過ごせた。
彼女は名古屋に住む孫に頼まれて並んでいるそうで、最近孫や子供と福山雅治のライブに行ったと話していた。その他、遠方から“遠征”して買いに来ているという人も見受けられた。
Twitterの情報によると、結果的に発売までにおおよそ800人以上が並んだようだ。列の途中からは並んでも購入できない可能性があると告げられていたが、購入できない人には同デザインのステッカーが配布された。
かくして、無事自分のIruCaは購入できたが、筆者の購入後、間もないうちに「完売」とのアナウンスがあった。
完売を伝える看板。瓦町駅にて、筆者撮影。
いざ蓋を開けてみれば当初の勝手な心配はよそに800枚はあっという間になくなった。地方でしか使えないICカードではあるものの、やはりネットのバズりと鉄道ファンの力は大きいということか。
“攻める企画”で地域と共に生きることでんは、他にも面白い施策を多々行っているのだが、それについてはまたそのうち、別の記事で紹介したいと思う。
なお、この改元IruCaは現在、通信販売で追加発売が予定されている。応募は4月25日〜5月31日まで、往復ハガキで応募することで100枚のみ発売される(応募多数の場合は抽選)。詳しくはことでんのウェブサイトまで。
(文・写真、永井公成、編集、西山里緒)