実験:アリババの「AIホテル」顔認証の限界に挑戦した結果……

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テクノロジー感満載のアリババのFly Zoo Hotel。

REUTERS/Xihao Jiang

中国IT企業のアリババがテクノロジーを詰め込んだ近未来ホテル「菲住布渇(Fly Zoo Hotel)」は2018年12月中旬、杭州市で華々しくオープンしました。通常、中国で「無人〇〇」「最先端〇〇」といった話題の施設ができると、すぐさま日本人ライターやブロガーが「行ってみた」レポートをあげてくれるのですが、このホテルに限っては3カ月経ってもなかなか出てきません。ならば自分がと、はるばる足を運んでみたところ、なぜ体験レビューが少ないのかよく理解できました。

アプリから数時間かけて……「予約」に一苦労

オープン時のさまざまな記事によると、Fly Zoo Hotelは予約からチェックイン、ルームサービスの手配やチェックアウトまで、全てアプリで完結するそうです。まずはアプリ、ということで、Fly Zoo Hotelの公式ウェブサイトからQRコード経由でアプリをインストールしました(Google Playでは見つけられませんでした)。

最初の画面

アプリを開くとこのような画面が。日本の携帯番号では現状認証ができず、予約に進めません。

さっそく立ち上げると、ユーザー登録するためには、携帯番号を入力し、SMSで送られてきた数字を使って認証しなければなりません。日本の携帯番号を入れても認証できないため、中国の番号が必要です。

私は北京在住の友人の携帯番号を入力し、彼のスマホに送られてきたパスワードをメッセージアプリのWeChat(微信)で送ってもらうという手間をかけてユーザー登録しました。以後、全ての通知が彼のスマホに来るようになってしまいましたが……。

一番安い部屋は1399元(ツイン・ダブル)。日本円にして2万円強、中国だと五つ星ホテルの水準です。この強気の価格が、「泊まってみた」レポートがない理由の1つだと思います。

日程と部屋のタイプを選んで予約しようとすると、今度はアリババの決済アプリ「アリペイ(支付宝)」との連携が求められました。つまりアリペイユーザーでなければ、このホテルを予約できません。

アリペイはVISAやMastercardなど国際クレジットカードと紐づけて決済できるのですが、Fly Zoo Hotelは、クレジットカード経由の支払いもNGなのです。アリペイを中国の銀行口座と紐づけるか、あるいは友人などからアリペイに送金してもらう必要があります。そして宿泊代金は事前決済です。

中国人の助けを借り、さらにはカスタマーサポートにも問い合わせ、数時間かけて予約完了。ここまで外国人対応がなされていないと、本当に泊まれるのかかなり不安でしたが、カスタマーサポートは「大丈夫」と返事。その言葉を信じて杭州に飛びました。

空港からタクシーで高速飛ばして1時間半

中国国内フライトあるある……ですが、前泊した深センから杭州へ向かうフライトが1時間以上遅れ、杭州の空港に到着したのは18時前。地図アプリでホテルへのルートを確認すると、公共交通機関を使った場合は2時間半。タクシーで1時間半。ホテルに泊まることが最大の目的なので、腹をくくってタクシー乗り場に並びました。

杭州はアリババの本拠地なのですが、本来は風光明媚な観光地として知られる場所です。上海や深センほどには、IT好きな若い日本人はやってきません。さらにFly Zoo Hotelが立っているのは、空港や市街地から見て、市内最大の観光スポット「西湖」のさらに向こう側。日本人のレビューが少ない理由その2は、アクセスの悪さだと思われます。

高速を飛ばして1時間半、午後7時半にホテル到着しました。タクシー代については思い出したくもありません。

入り口

ホテルのエントランスはシンプル。

ロビー

明るくて開放感のあるロビー。従来のホテルのようなレセプションはない。

「無人ホテル」との報道も複数見かけましたが、スタッフさんが普通にドアを開けてくれました。これ、強調しておきたい。

チェックインコーナーは無人でした。事前にアプリに顔と身分証を登録しておけば、そのまま部屋に直行可能らしいですが、外国人はその機能を使えません。

チェックインコーナー

チェックインコーナー。

チェックイン端末

「身分証を置いてください」との案内です。チェックイン端末でパスポートを認証。

中国人なら身分証と顔情報を登録してチェックイン完了なのでしょうが、私はそうは行きません。中国は外国人の宿泊にあたり、パスポート番号やビザ情報、入国日のスタンプなどを警察に届け出なければいけないのですが、自動カウンターはそこまで対応できないようで、人が出てきます。

チェックインカウンター

「外国人ゲストはビザ情報などを登録しないといけないので、スタッフが来るのをお待ちください」

スーツ姿の女性スタッフさんが、私のパスポートをめくりながら、必要な情報を撮影しています。

スマホ撮影

こんな感じで、スタッフさんは自分のスマホで色々登録していました(イメージです)。

shutterstock.com

スタッフさんはおもむろにスマホを私の方に向けて、顔を撮影。そして彼女のスマホ画面に表示された番号を見せて、「これがあなたの部屋番号です」と教えてくれました。

この時は気づかなかったのですが、これが後の悲劇となります。

ホテルのプロモーション動画などによると、ロボットが部屋まで案内してくれるそうですが、スタッフさんが手動で手続きしたためか、私は一人で部屋まで向かいます。

途中でロボットとすれ違います。エレベーターでは、人間を優先してくれました。

エレベーターに乗ると、パネルに私の顔が映し出され、ボタンが押せるようになりました。ようやくテンションが上がってきました。

エレベーター

顔認証でボタンが操作できるようになります。

部屋の前に到着しました。最初はちょっと時間がかかりましたが、ドアのセンサーが緑になり、ロック解除。

部屋に足を踏み入れると……何だか広い。メインのベッドルームに加えサブのベッドルーム、リビング、そしてバスルームも2つ。どうも最上級の部屋にアップグレードしてもらったみたいです(そうならそうと言ってほしい)。普通に予約すると、約4万円のお部屋でした。

部屋には、電源とUSBポートがこれでもかというほど設置されています。

電源

部屋のあちこちに電源があります。

電源

ガジェットの数がどれだけあっても何とかなるでしょう。

アプリが連携されず途方に暮れる

下調べによると、アプリを使って備品を届けてもらったりルームサービスを頼んだり、レストランの予約ができるとのこと。早速試そうとアプリを開いたのですが、「未チェックイン」と表示されています。色々試してようやく気付きました。

アプリ

私のアプリの画面は、チェックイン後も、「チェックインする」とのアイコンが表示されたままでした。

さっきのスタッフさんが自分のスマホのアプリでチェックインしたため、私のアプリと連携が切られ、何もできなくなっている模様……。

普通ならチェックイン後に、アプリに色々な情報が表示されるのでしょうが……。絶望しながらロビーに降りて、スタッフを探して、まずはWi-Fiのパスワードを教えてもらいました。

カーテンの開閉や照明の調整を音声で指示できるスマートスピーカーは、中国語のみ対応。言葉以前に、「OKグーグル」「アレクサ」「Hey Siri」的な声掛けの方法がわかりません。ネットで検索しても見つけられず、「ニイハオ」「ウェイ」など試してみたものの応答なし……。

さて、アプリもスピーカーも使えない。仕方ないので、顔認証がどこまで認証するのか、延々と試すことにしました。

眼鏡

メガネは問題なし。

眼鏡は問題なく認証しました。

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普通の「変顔」のレベルも問題なく認証。

笑顔、泣き顔、起こり顔も認証。

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白目をむくとさすがにブロック。

認証失敗のときは、結構な間の後に、赤くランプが灯ります。

白目をむいた顔はブロックされました。

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顔そのものをガードして、どこから認識するかもテスト。

保湿用のフェイシャルマスク。フルガードは当然だめでしたが、少しずつ素顔を出していってもなかなか認証されません。

sanasana

ここまでだして、ようやく……。

ほとんど顔を露出したところで認証。輪郭は重要な判断要素っぽいです。

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これはなぜかエラーに。

眼鏡は問題なかったけど、ちょんまげ髪プラス虚ろな表情だとエラーが出ました。

一帯はアリババエリア

顔の筋肉が疲れてきたところでおなかもすいたので、ホテルに隣接するショッピングモールに行くことにしました。

実はここは、アリババの本社がある「アリババエリア」的な場所で、ショッピングモール地下には、未来型スーパーHEMA(盒馬鮮生)があります。

HEMA

購入した海産物は、店内で調理して食べられます。

水産物コーナー

店内はエンターテイメントの要素いっぱい。

ショッピングモール内をうろうろしていると、店員さんの呼び込みを受けたので、お店に入りました。

ミーセンのお店

店にはメニューがありません。女性の店員さんが「卓上のQRコード読み込んで注文してね」と言っていなくなりました。アリペイでQRコードを読み込むと、メニューが出てきて、選ぶと支払画面に移ります。

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店員さんは料理を運んできたり片付けるだけ。そのうちこの役割も、ロボットがやるんでしょう……。

夕食後、ホテルに帰還し、何気なくテレビをつけたらこちらもIoT仕様になっていました。テレビからでも、さまざまなオーダーができると判明。

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部屋にロボを呼んだつもりが、人が来た

プロモーション動画によると、部屋の備品を注文すると、ロボットが運んできてくれるとのこと。試しにロボットにミネラルウォーターを持ってきてもらおうとしましたが、「あなたはまだチェックインしません」と受け付けてくれませんでした(泣)。

ルームサービス

テレビに表示されるQRコードを読み込んで、アリペイで支払えばルームサービスを頼めます。

しかし、ルームサービスは注文できました。安くないし、おなかもすいてないので、相当悩みます。タクシーで予定外に出費しちゃったし。

でも、ロボットが運んでくる動画を撮りたい。葛藤の末、一番安い抹茶ケーキを注文(それでも100元超え)。代金はアリペイで決済します。

10分ほどで、部屋のチャイムが鳴りました。スマホの録画モードをオンにし、ドアを開けると……立っていたのはロボットじゃなくて人間でした。私のスマホに映っていたのは、男性スタッフの股間(ロボットの身長に合わせていたので)。もちろん削除しましたが。

ややひきつった笑顔の男性スタッフさんから、お皿を受け取ります。

ロボットのために、100元以上を支払って注文したケーキ。という目的を忘れれば、とてもおいしい。スタッフの礼儀正しさも、中国のサービスのクオリティーを知っている人にとっては感動ものです。

コーヒーメーカーでコーヒーを入れて、深夜0時のケーキタイム。


ケーキ

中国のケーキのクオリティーも高くなったと感動。

コーヒーメーカー

部屋には本格的なコーヒーマシンも設置されていました。

ベッドもIoT仕様。マットレスにかかっている体圧を可視化でき、ちょっと面白いです。

睡眠

体圧を分析し、調整してくれるようです。

朝は普段通りスマホのアラームで起床し、朝食会場へ。こちらでも朝食券代わりに顔認証。

ロボット

昨夜来てくれなかったロボットがここに。

オープン時の報道やプロモーション動画では、ロボットが料理を運んでくれる姿が掲載されていましたが、レストラン内にロボットはおらず、結構な人数の人間が働いていました。

レストラン

レストラン

日本っぽい飾りも。

日本コーナー?

全体的にラグジュアリーホテルのビュッフェのようです。

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一人客がかなり多いです。皆黙々と食事をしており、アリババに用事があるビジネス客かもしれません。写真を撮りまくっているのは私くらい。

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窓の外に広がるのは集合住宅。周囲は住宅と商業施設が一体化したエリアのようです。

さて、そろそろチェックアウト。本来はアプリでチェックアウトするのですが、私のアプリは朝になっても「チェックインしていません」と表示されたままなので、テレビの画面で手続きをします。あとは普通に出て行けばOK。

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バスー地下鉄ー空港バスを乗り継ぎ、2時間ちょっとかけて空港に着きました。

領収書はアプリで請求できました。必要事項を記入するとメールで送ってくれます。

領収書

領収書はメールで送ってもらえます。

断言。中国版「変なホテル」ではない

日本のメディアではFly Zoo Hotelを中国版「変なホテル」と表現した記事もありましたが、実際、両者は全く違います。

客室

現状、全て中国語しか対応していないので、言葉が分からない人にとってはテクノロジー以前の問題です。

変なホテルは、基本的にはビジネスホテルのスペック。そして、変なホテルの取り組みは、「人手不足への対応」を見据えたものだとも言われています。

一方Fly Zoo Hotelは、大きなバンケットルームやスパなどはないものの、客室やレストランのクオリティ、価格は五つ星ホテル並みです。実際に泊まってみると、ロボットや顔認証など「未来」「テクノロジー」の要素は脇役で、人間のスタッフは過剰なくらいいたし、かなり教育されていました。

日本人による宿泊体験記をあまり見かけない理由として、これまで(1)価格が高い、(2)アクセスが良くないという2点を挙げましたが、もう一つ、より大きな理由にも気づきました。「外国人が自力で泊まるのは、かなり難しい」ということです(原稿執筆中に、アリババが英語のプロモーション動画を3月に公開しているのを発見しましたが、パスポート情報の提出が必要な外国人は、この動画のようにスムーズにはいかないです)

アリババ公式のプロモーション動画。

アプリから予約をするには、「中国の電話番号」「中国の銀行口座と連携したアリペイ」が必要で、予約ができても中国の身分証明書を持たない外国人は、スムーズなチェックインができません。ホテルならではのテクノロジーの体験も、相当に制限されます。

AIスピーカー

英語のプロモーションビデオで、スマートスピーカーは英語の呼びかけに応答していましたが、実際は中国語対応のみのようです。

アプリからの予約で数時間格闘した私は、先日宿泊したという在日中国人の友人に、「日本からどうやって予約したの?」と質問しました。すると、「中国の旅行会社に手配してもらった」というまさかの返事。さらに、「周囲で泊まってる人は、みな代理店経由だよ。アプリは使ってない」とのこと。全然未来じゃねーよ! アナログそのもんじゃん、と脱力したのは言うまでもありません。

私は杭州に向かう前日、深センで開かれたファーウェイのアナリストサミットに出席していました。そこで驚いたのは、ほとんどの中国人スピーカーが英語でスピーチし、中国語の通訳が入っていたことです。質疑応答では、メキシコやインドの記者が我れ先にと質問を投げかけていました。

セキュリティー責任者による会見は、中国語の通訳すら入らず、完全に英語でした。

ファーウェイは早くからグローバル市場を意識し、先進国の同業他社と競争し、製品を海外で売りまくってきました。その結果として、アメリカから激しい攻撃を受けているとも言えます。

中国IT企業のグローバル化を目の当たりにして、「日本の中にここまで徹底している企業はあるだろうか」と考えながら杭州に移動し、中国が誇るもう一つの“世界的な”IT企業のホテルに宿泊したわけです。ですが、そこには英語の案内すらなく(これまでの写真をもう一度見返してみてください)、AIスピーカーも中国語にしか反応しませんでした。

アリババは中国消費者にフォーカスし、海外メーカーに「中国市場へのアクセス」という機会を提供することはあっても、表だった脅威は与えていません。同社の真髄は、「中国人の中国人による中国人のための」サービスなんだな、と再認識させられたのでした。

追記:2019年5月5日現在、アプリからホテルの空き室情報を調べると、宿泊価格が4月までの半分以下の599元~に大幅値下げされていました。ホテルはそれほど人気がないのかもしれませんが、テクノロジー要素を除いても十分快適な施設だったので、この価格ならありだと思います。

(文・写真、浦上早苗)

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