市場規模1200億円超の「eスポーツ」にインテルが注力するワケ:IEM Sydney 2019

IEM Sydney 2019

インテルの世界最大級のeスポーツ大会「IEM Sydney 2019」が開催された。

インテルは5月3日から5日、世界規模のeスポーツ大会「Intel Extreme Masters」(以下、IEM)をオーストラリア・シドニーで開催した。

IEMは毎年シドニーでの開催を皮切りに、eスポーツの盛んな都市である中国・上海、アメリカ・シカゴ、ポーランド・カトヴィツェで開催されている。

Qudos Bank Arena

会場となった「Qudos Bank Arena」。シドニー・オリンピック公園にあり、2000年の夏季オリンピックで実際に利用された競技場だ。

その人気度は、約2カ月前の現地時間3月3日に閉幕された「IEM Kadowice 2019」にも表れている。同大会の累計観客者数は約17万4000人、21の言語で配信されたネット中継の視聴者数は2億3200万人にのぼったという。

世界屈指の半導体メーカーであるインテルが、大規模なeスポーツの大会に取り組む理由は何か。IEM Sydney 2019の会場でインテルの役員が語った。

ハイエンドPCはゲームやクリエイティブ向けに特化

Counter-Strike: Global Offensive

IEM Sydney 2019の対戦タイトルのひとつ「Counter-Strike: Global Offensive」。チーム制のサバイバルゲームだ。

まず、シンプルな理由として現代のPC市場のトレンドが挙げられる。つまり、「高性能なPCが特定の分野に特化してきている」ということだ。

例えば、同社がIEM Sydney 2019の対戦タイトルとして採用している「Counter-Strike: Global Offensive(通称、CS:GO)」や「Overwatch」などのPCゲームは、決して最新かつ最高性能のCPUやGPUを載せたPCでないと動かない、というわけではない。

プレミアムPC

インテルは高性能なプレミアムPCの用途として「ゲーマー向け」「クリエイター向け」の2つを主軸に置いている。

しかし、これらは3Dのタイトルのため、より快適なプレイ環境を求めるなら、より高い処理性能やグラフィック性能が必要になってくる。

インテルがIEMなどによってeスポーツ分野に注力するのは、市場を盛り上げ、自社の比較的高性能な半導体を載せたPCの需要を高めるためだ。

インテルが4月に正式リリースした最新CPUの第9世代Coreシリーズでは、処理性能をさらに強化。モバイルPC向けCPU(Hプロセッサー)においては、3世代前のCoreシリーズを搭載したPCと比べると、ゲームの画面描画性能(FPS)は最大56%、起動速度は最大38%高速化している。

Predator Helios 700

台湾のPCメーカー・エイサー(Acer)のゲーミングノートPC「Predator Helios 700」。キーボードなどのLEDイルミネーションを自在にカスタマイズできる。

なお、インテルでゲーミングおよびVR/AR分野のセールス担当ジェネラルマネージャーのLee Machen氏は、これらの高性能なCPUについて「ゲーマーだけではなく、クリエイターにも需要がある」と語る。

例えば、前述の第9世代CoreのHプロセッサーの場合、3年前のPCと比べると4K解像度の映像編集の速度が最大54%高速化している。しかし、これはゲーミングPCがクリエイターにも売れる、という意味ではない。

ゲーマー向けPCとクリエイター向けPC、その2つの違いをMachen氏は「見た目、そして性能のバランス」と語る。ゲーマー向けPCの外観は黒くて大きく、最近ではまるで「デコトラ」(きらびやかな電飾を施したトラック)のようなLEDのライトパフォーマンス機能が備わっている。一方、「クリエイターが求めるのはより軽くて薄いスマートなデバイス」とMachen氏は話す。

MSI New PCs

台湾メーカー・MSI製で第9世代Coreを搭載したノートPC。奥はゲーミングPCだが、手前の1台はクリエイターを意識したもの。

しかし、高い処理性能を求めると当然半導体はより高い“熱”を発する。また、筐体(きょうたい)の薄さ・軽さを求めると放熱性能が犠牲になる。なので、クリエイター向けにはそのバランスをとったデバイスが必要だ。

とくに第9世代CoreのHプロセッサーでは現状、Core i5から上位のCore i9までTDPは45Wと、デスクトップ向けの約半分(Core i9-9900KのTDPは95W)に抑えられており、「クリエイター向けPCにも使えるCPU」と同社は語っている。

※TDPとは:
Thermal Design Powerの略。インテルの場合、すべてのコアが動いている時の平均的な消費電力。消費電力やそれに伴って必要な冷却性能を示す指標として使われている。

eスポーツの市場規模は1200億円以上、スマホ向けの戦略もあり

IEM Sydney 2019

IEM Sydney 2019の観客席。オーストラリアだけではなく、世界各国のeスポーツファンが集まっている。

インテルが意識しているように、eスポーツの市場はグローバルで人気が非常に高まっている。オランダの調査会社NewZooによると、2018年のeスポーツ観客者数はのべ3億8000万人同年のeスポーツ市場の収益予測は11億ドル(約1200億円)。NewZooは2019年の観戦者数を4億5380万人と予測しており、今後の成長も期待されている。

Lee Machen氏

Lee Machen氏。

「ゲーム市場」という点では、特に日本やアジア圏を中心に盛り上がっているスマートフォンゲームについてはどうか。インテルはスマホ向けCPUのポートフォリオは持っていないが、Machen氏は「スマートフォン向けのゲームであっても、(インテルの半導体が重要なことは)同じこと」と語る。

スマートフォンであれ、IoTデバイスであれ、ゲームであれ、インターネットにつながるのであれば、その先には必ずサーバー(もしくはクラウド)がある。

eスポーツ分野では当然、複数人のプレイヤーが戦うタイトルが盛んだ。そのようなタイトルの場合、サーバーからデータを高速かつ低遅延にダウンロードし、同期性を持たせることが重要になってくる。そのような場合、サーバーにはある程度のスペックが必要なわけだが、インテルは当然サーバー向けにも高性能なスペックのCPUなどを提供している。Machen氏は「私たちにとって、スマートフォンへのビジネスチャンスは主にデータセンターにある」と話している。

2020年、東京でも「IEM」は開催されるか?

ワールドワイドオリンピックパートナー

インテルはワールドワイドオリンピックパートナーだ。

インテルは何も昨今のeスポーツブームにあやかるために急遽IEMを開催しているわけではない。同社は15〜16年前からゲーミングについては投資を行っており、今回のIEM Sydney 2019も14シーズン目にあたる。

また、インテルのeスポーツに関する取り組みの中でも注目なのは、オリンピックおよびパラリンピックだ。同社は2017年から半導体分野におけるワールドワイドオリンピックパートナーを務めている。

2018年の平昌オリンピックのタイミングでは、国際オリンピック委員会(IOC)の協力のもとIEM PyeongChangを開催した(観戦はオンラインのみ)。

Brittany Williams氏

Brittany Williams氏。

東京でも2020年にオリンピック・パラリンピックが開催される。インテルは平昌のときのように東京でもeスポーツイベントを開催するのだろうか。

同社のeスポーツビジネス開発担当で、IOCとの調整を行っているBrittany Williams氏は「現状、発表できることはない」としているが、日本のeスポーツファンに向けて「今後数年間、eスポーツ分野は更なる成長の余地があると考えている」と話している。

2020年の東京五輪のタイミングでIEMが開催されるかは言葉を濁した形だが、何かしらのeスポーツイベントがあるのでは?という期待は高まる。

(文、撮影:小林優多郎 取材協力:インテル)

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