あなたの会社は大丈夫?働き方改革で陥りがちな、6つの落とし穴

対談

企業の業務プロセスの改善を手掛ける沢渡あまねさん(左)と、働き方変革に関するコンサルティングを行っている内田洋行 知的生産性研究所の平山信彦さん。働き方改革は、本当に進んだのか。

働き方改革関連法が施行されて約1カ月。大企業を中心に残業が減り、改革は一見進んでいるように見えるが、「名ばかり働き方改革」に陥ってはいないだろうか。

「“働き方改革ごっこ”ならば進んできている」と言う、企業の業務プロセスの改善を手掛ける沢渡あまねさんと、働き方変革に関するコンサルティングを行う、内田洋行 知的生産性研究所執行役員の平山信彦さん。働き方改革の現場をよく知る2人に、日本の組織が陥りやすい6つの失敗パターンと、今後の処方箋について聞いた。

1.制度ありきに陥っている

「働き方改革を進めなければ、という思いで、試行錯誤して制度はつくった。でも実は使う人がいない会社はたくさんあります」と沢渡さん。

平山さんも「例えば在宅勤務制度が導入された。育児や介護を抱えている社員は使いたいはずです。でも、職場のみんなが忙しい中で、自分だけがその制度を使うことに対する後ろめたさや、周りから『なぜあいつだけが』と思われないかという警戒心から、一歩を踏み出せないのです」と言う。

使う人の心理的負担を取り除いてあげたり、その制度を導入することによってチーム全体の生産性が上がることを全員に納得してもらったりしなければ、実効性は伴わないのだ。

2.「あうんの呼吸」に依存している

ビル群

組織は過去の成功体験にとらわれていないか(写真はイメージです)。

日本企業によく見られる「あうんの呼吸」に依存して、相手が察してくれることを前提とした組織や、仕事が属人化された組織は変化に脆弱で働き方改革が進みにくい。

「こういう組織は、人事異動のときに引き継ぎがスムーズにできなくて困るんです。なぜかと言うと、仕事が属人化されていて整理されておらず、業務設計ができていないからです」(沢渡さん) 。せっかく在宅勤務を導入してもタスクを送る側、受ける側の業務設計がしっかりされていなければ、うまく回らないという。

「この仕事の意味、目的、出すべきアウトプット、そして『報連相』(報告・連絡・相談)はこの方法で、ということを明文化する。こうすると仕事が脱・属人化します。さらには、対面したときのコミュニケーションも、結論から伝える、困りごとを言葉で明確にするといった具合に、必要なコミュニケーションやそのやり方が明確になり、“筋肉質”になるんです」(沢渡さん)

3.組織がガラパゴス化している

平山さん

「組織の強みは進化させなければならない」と、内田洋行の平山さん。

働き方改革を進めたいという企業のコンサルティングを請け負う中で、平山さんは「組織の弱みを潰すより、強みを再認識するほうが重要です」と言う。

さらに、今持っている強みを今後も強みとして持ち続けるためには、進化させていかなければならない。

「例えば、製品の精度の高さを強みにしている製造業は、それをさらに上げるために多くの人員を充て、手間暇かけて検証するという従来のやり方に固執しがちで、新しい技術を取り入れようとしないことが多いんです。こういうやり方は限界を迎えています」

社会がドラスティックに変化する中で、時代に合わせる努力を放棄する組織も働き方改革が浸透しにくい。

「細かいことですが、出張申請の仕方や議事録の書き方まで、『わが社流』にこだわる企業もあります。こういうことも改革が進まない要因の一つです」

4.現場の課題を無視している

沢渡さん

トップは「今期は売上げを落としてもいいから、未来の成長の投資をしようと、腹をくくる必要がある」と、沢渡さん。

沢渡さんはこんな例を挙げる。

「例えば、営業部門のメンバーが、決済が速い外資系のコンペティターにお客さんを取られてしまうとする。これがチームのリアルな課題ですよね」

こういう現場の課題を無視して働き方改革を押し付けても、うまくいくはずがない。

さらに、研究部門であれば、事務作業や報告義務に追われて「研究する時間が取れない」、そこから「成果を出せない」「メンバーが疲弊する」「いい人材が集まらない」という悪循環に陥る組織も多い。なぜか。

「社内の会議に提出するパワーポイントの資料を作るため、あるいはA案を通すためにB、C、D案を捨て案として準備するために徹夜する。でも結局、時間がなくてそれは登場しなかった。真面目な社員ほど疲弊してしまう。こういう話はたくさんあります。意思決定の仕組みが、制度疲労を起こしているんです」と平山さん。

こういうところからの改革が、必要なはずだ。

5.ミドルマネージャーの“ぼっち化”

マネジャー

平山さんはコンサルティングの現場で、ミドルマネージャーの悩む姿によく遭遇する。

「経営者は本気で『従業員の働き方を変えたい』と考え、若い世代の従業員は目を輝かせて『こんな働き方をしたい』と語る。そんな中、ミドルマネージャーは取り残される。でも彼らを責められません。トップからは働き方を変えろと言われ、現場からはすぐに対応すべき問題が上がってくる。彼らにしてみれば『改革が必要なのはわかる。でも、今起きているこの問題はいったいどうする』となるんです」

働き方改革のビジョンが全従業員に浸透していないため、ミドルマネージャーだけが取り残されてしまうことになるのだ。

沢渡さんも指摘する。

「トップや部門長クラスが、例えば、今期は売り上げを落としてもいいから未来の成長への投資をしようと、腹をくくる必要があります。中長期を見据え、個人や組織をどう成長させて、取引先や地域社会も含めたファンをどうエンゲージしていくかを考えてほしいです」

6.働き方改革のバズワード化による錯覚 

沢渡さん、平山さんともに、今は、働き方改革がバズワードになってしまっていることも問題だとみる。

「次から次へとバズワードを見つけ、それを消費することでやった気になっている。現状では、ほとんどの企業が働き方も体質も旧態依然、しかも利益はアップしていません」 と、沢渡さんは指摘する。

「マネージメントキーワードが一人歩きしすぎです。例えば『ダイバーシティーを進めよう』と、本人はやりたがっていない女性を管理職に仕立て上げる。『イノベーション』を進めようとイノベーション推進室をつくる。でも、つくっただけでやった気になってしまう」(沢渡さん)。

大企業の社員が最先端のコワーキングスペースでスマートに働く——。その姿を、メディアが「新しい働き方」として大々的に紹介するが、平山さんも「これが本当に新しい働き方なんでしょうか」と疑問を投げかける。

「彼らはオフィスワーカーのいったい何%なのか、そもそも組織のハイパフォーマーなのか」

そこをただ、形だけメディアが持ち上げることで、本質的に日本社会の働き方が前進したと言えるかは、確かに疑わしい。

陥りがちな失敗に、処方箋はあるのか

それでは今、組織の働き方改革に対する処方箋はどんなことがあるのだろうか。

「一番大事なことは、働き方を変えることで、一人でも多くの従業員が『ワークハピネス』を感じられること。そうすれば、エンゲージメントが高まり、結果として生産性も高くなります。それが結果として時短につながればいいですし、浮いた時間で面白い仕事に対するトライアンドエラーができればさらにいいですね」と、平山さん。

沢渡さんも言う。

「組織単位や自分単位で今やっていることを書き出して、“やめること”を決めましょう。何も生まない定例会議はやめる。意思決定が遅くなるなら、紙の手続きはやめる。日本の組織は30年、40年かけて今のやり方を確立してきたので、その常識を1カ月や1年で覆すのはなかなか難しい」

ただし、「 新しいことをわざわざやろうとすると、ごっこ遊びになってしまいます。だったらやめることを決めていくほうが、はるかにハードルが低いんですね」(沢渡さん)。

最後に平山さんはこう締めくくった。

「自分なりの成功方程式を持つベテランの社員に『あなたの成功パターンは古い』と言ったって何も変わりません。でも、行動は変えられる」

それは例えば、こういうことだ。

「部下とのコミュニケーションの方法を変えてみる、会議の運営にファシリテーターを入れてみる。それでハピネスを感じられたら意識は勝手に変わります。そういう人が増えて、マジョリティーになったら組織風土も変わるんです。まずは、小さな行動変革から始めてみませんか」

(文・宮本由貴子、取材/編集・滝川麻衣子、写真/今村拓馬)


平山信彦:内田洋行執行役員・知的生産性研究所所長。2010年から知的生産性研究所にて働き方変革コンサルティング・サービスを開始。日本テレワーク学会理事。千葉大学工学部卒業。内田洋行スペースデザイン室、INTERNI(アメリカ・ロサンゼルス)などを経て現職。近著は『チェンジ・ワーキング イノベーションを生み出す組織をつくる』。

沢渡あまね:あまねキャリア工房代表。株式会社なないろのはな取締役。業務改善・オフィスコミュニケーション改善士。企業において「働き方見直しプロジェクト」や「社内コミュニケーション活性化プロジェクト」のファシリテーターやアドバイザーを務める。早稲田大学卒業。日産自動車、エヌ・ティ・ティ・データなどを経て現職。最新刊は『業務デザインの発想法~「仕組み」と「仕掛け」で最高のオペレーションを創る』。

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