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アップルの「サービス会社化」が、グーグルにとって一番痛いワケ

Q. Appleが「サービス会社化」すると一番困るのはGoogleなのはナゼ?

A. スマホのOSを提供するライバル会社ではあるけれど、Googleは既存事業のしがらみがあるので、Appleが今回発表したようなサービスを提供できないから。

先日、Appleが大々的な新サービスが発表会を行いました。いつものAppleとは異なり、ハードウェアでもソフトウェアでもなく、サービス中心の発表会だったことがとても印象的でした。

発表会の直前にハードウェアの新バージョン発表を予告リリースなしで行い、多くの人が驚きました。さらに発表会そのものがサービス中心であったことが、アップルがハードウェア会社としてだけではなくサービス会社に生まれ変わろうとしている印象を強く与えました。

今日の記事では、Appleのサービスがどのように業界に影響を与えるのかを少し考えてみたいと思います。

個人的に一番強く感じていることを一言でまとめると、今回のAppleの「サービス会社化」の意思表示は、iOSがAndroidに勝つ唯一の方法なのかもしれません、ということです。

Google(Android陣営)から見れば、一番痛いところを突かれた、というのが正直な感想です。

今回発表されたサービスは、以下のつの新しいサービスです。


 

今夏開始予定の自社発行のクレジットカード「Apple Card」、

現時点で既にアメリカでローンチしている定額制ニュースサービス「Apple News Plus」、

今秋開始予定のNetflixのような定額制動画視聴サービスで、自社コンテンツも制作予定の「Apple TV+」、

さらに同じく今秋開始予定の新作ゲームだけを扱う定額制ゲームサイトの「Apple Arcade」

このうち三つのサービスを、それぞれ「Android陣営との競争」という観点で見てみたいと思います。

Googleが「Apple Card」の類似サービスを始めにくい理由

一つ目が「Apple Card」です。

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Apple Card

Apple Cardは、Appleとゴールドマン・サックスが提携して発行するクレジットカードです。

・Apple Storeでの購入やAppleの提供するサービスの購入は3%のキャッシュバック・Apple Store以外でApple Payを利用した購入は2%のキャッシュバック・Apple Payの取り扱いがない店舗で物理的なクレジットカードを利用した購入は1%のキャッシュバック

という具合にかなり大きなキャッシュバックを提供しているのが特徴です。

つまりスマホでの決済だとキャッシュバック率が高く、リアルのカードを使ったApple Payを利用しない決済だとキャッシュバック率が低く設定されています。

ちなみに、クレジットカードの年会費などは一切無料で、リアルなカードは一般的なプラスチックのカードではなく、チタン製のプレートにレーザーで刻印され、使用期限やカード番号などが一切記載されていないAppleならではのシンプルでカッコ良さを追求したデザインです。

アメリカで最も人気があるクレジットカードの特典はキャッシュバックなので、ある意味王道を進んでいるようにも見えますが、実はこれはGoogleから見ると、非常に嫌な打ち手であることは間違いありません。

GoogleがApple Cardのような自社ブランドのクレジットカードを大々的に提供することは、実は相当難しいことだからです。

というのは、Googleの検索・広告ビジネスに金融系のクライアントが占める割合は無視できないほど大きく、自社で競合するサービスを大々的に宣伝すると、Googleの屋台骨である広告ビジネスに大きな影響が出かねないからです。

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Googleの広告売上のトップ10

少し古い2011年のデータではありますが、Googleの広告売上のトップ10の業種が示されています。トップ10の業種のうち、金融カテゴリが最も大きく、このカテゴリの広告主と直接競合するようなサービスをGoogleが提供するのは、Googleの広告ビジネスの巨大さを考えればかなり困難だと言えるでしょう。

つまり、Googleは既存ビジネスのクライアントとのコンフリクト(対立)を恐れて、アップルカードと同じような自社サービスを始めることは、かなり困難であるというのが私の見方です。

Googleが「Apple News Plus」の類似サービスを始めにくい理由

二つ目に、「Apple News Plus」というサブスクリプション型のニュースサービスを考えてみましょう。

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Apple News Plus

Googleの場合、ただでさえニュース会社と著作権関連で揉めています。

ニュース会社からすれば、Googleにトラフィックソースを抑えられるのが非常に嫌である一方、Googleからの送客数が無視できない規模になっているため、Googleと嫌々付き合っているというのが本音なのではないでしょうか。

こんな状況でGoogleが有料ニュースサービスを始めたとしても、ニュース会社から見ると顧客の入り口をさらにGoogleに押さえられることになるのため、有料コンテンツをGoogleのサービスに大々的に提供することは、おそらくしないでしょう。

Googleだけではなく、Appleもコンテンツ獲得という意味では順調な滑り出しとは決して言えず、主要なニュースサイトでApple News Plusにコンテンツ提供をするのは、ウォールストリートジャーナルしかありませんでした。

Appleですら、主要なニュース会社を説得するのにこれだけ苦戦しているところを見ると、おそらくGoogleが有料のニュースサービスを開始したとしても、Googleの検索シェアの高さからしてコンテンツを提供するニュース会社は少ないのではないでしょうか。

Googleが「Apple TV+」の類似サービスを始めにくい理由

三つ目に、「Apple TV+」を考えてみましょう。

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Apple TV+

Apple TV+とは、Appleが独自に提供する「Netflix」のようなものです。他のコンテンツ会社のコンテンツ提供に加えて、Appleも独自コンテンツを制作していくことを発表しています。

Googleが「Apple TV+」のようなサービスを提供し、独自コンテンツを作り始めると、先に述べたのと同じような理由で既存ビジネスへの影響が心配されたり、コンテンツ会社が既存コンテンツをGoogleに提供してくれなくなったりして、大きな問題になりかねません。

Google Playのように、既存コンテンツの配信・販売をしてるうちは、コンテンツ会社もまだGoogleをパートナーだと思ってくれるかもしれません。しかし、Googleの巨大な財務基盤を利用して、独自コンテンツを開発されるとことを好ましく思わないコンテンツ会社は多いでしょう。

ここまで読んでいただいてお分かりかと思いますが、Googleは検索エンジンの市場シェアが大きく、そこから発生する広告売上に大きく依存していることから、今回のAppleの新サービスに対抗してくるのが難しいのではないかと考えています。

同じようなサービスはリリースできるかもしれませんが、大々的にリスクを取って全Androidユーザーに自社のサービスをプロモーションしていくのは、Googleという会社全体の経営から見ると、非常にリスキーなのではないでしょうか。

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独禁法がGoogleを縛る

Googleは、今回のAppleが開始する三つのサービスにマッチしようとすればするほど、独占禁止法のリスクが高まります。

現在、iOSの世界シェアは約20%程度ですので、Appleが既存のiOSユーザーに対して自社サービスを提供することはそこまで大きな問題にならないかもしれません。しかし、市場シェア80%のAndroidが同じことをすると、特にヨーロッパで独占禁止法リスクが非常に高くなります。

少しユーザー視点で考えてみましょう。

これまでもiOSが新機能を搭載すると、Android陣営がすぐにそれに対抗する機能を提供するというパターンが数年間続き、最近ではカメラ機能などを中心に、Android陣営の方が進歩している機能もいくつか見られるようになりました。

しかし、これらのサービスに関しては、iOSの方がはるかに便利な状況が長く続くのではないかというのが私の見方です。

個人的には、ここ数年間Androidユーザーなので、Googleにも何とか頑張ってApple並みのサービスを提供して欲しいと思っています。皆さんはどう感じられましたでしょうか。


シバタナオキ:SearchMan共同創業者。2009年、東京大学工学系研究科博士課程修了。楽天執行役員、東京大学工学系研究科助教、2009年からスタンフォード大学客員研究員。2011年にシリコンバレーでSearchManを創業。noteで「決算が読めるようになるノート」を連載中

決算が読めるようになるノートより転載(2019年5月6日公開の記事

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