ホリエモンロケット「MOMO3号機」の成功が日本の宇宙産業にもたらす本当の意味とは

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打ち上げの離床寸前の1カット。このあとMOMO3号機は着実な上昇を続け、宇宙空間に到達した。

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ホリエモンこと堀江貴文さんが出資する宇宙ベンチャー、インターステラテクノロジズ(IST)の観測ロケット「MOMO3号機の打ち上げ成功」のニュースは、10連休で静まった日本を沸かせた。「宇宙品質にシフト MOMO3号機」と名付けられたロケットは2019年5月4日5時45分、北海道大樹町の射場から打ち上げられ、最大高度113.4キロメートル(IST発表による暫定値、詳細は解析中)に到達した。

IST設立から6年、観測ロケットMOMOの打ち上げ開始から2年、高度100キロメートル以上の宇宙空間に到達するというマイルストーンをクリアし、ISTはこれから本格的な「MOMO運用」の時期に入る。

航空機が飛行する高度を超えた大気圏の高層部分の観測は、現在でも決して需要がなくなった分野ではない。ソフトバンクが発表した成層圏通信プラットフォーム開発など、高高度の領域の利用が広がってきていることを考えれば、さらなる観測需要も見込める分野だろう。

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MOMO3号機の打ち上げが成功した瞬間。苦楽を共にしたチームから大きな歓声があがった。

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軌道投入ロケット「ZERO」。

ISTが並行して開発を進める軌道投入ロケット「ZERO」も注目だ。高度約500kmの軌道上に100kg以内の人工衛星などを投入する性能を目指している。MOMOを商業化し、ZEROが世界の小型ロケットと肩を並べて戦うとすれば、ライバルはどこで何が強み、弱みなのか?

宇宙エンジニアリング企業が発表する、世界のマイクロランチャー(超小型衛星専用ロケット)のマーケット予測から見てみよう。

ISTのライバルが「この2社」の理由

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マイクロランチャーの実力ランキング。

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スペースワークス社は、世界のマイクロランチャーの実力を評価するランキングを毎年発表している。2019年のランキングによると、

1位 「エレクトロン」ロケットラボ社、本社アメリカ、射場ニュージーランド、アメリカ

2位 「ランチャーワン」ヴァージンオービット社、本社アメリカ、射場アメリカ・イギリス(予定)

3位 「快舟1A」中国航天科工集団、本社中国、射場中国

4位 「朱雀1号」LandSpace、本社中国、射場中国

5位 「SSLV」ISRO、本社インド、射場インド

6位 「Vector-R」ベクタースペースシステムズ社、本社アメリカ、射場アメリカ

となっている。ランキングは打ち上げ成功率やコスト、開発状況などを総合的に勘案したものだ。

ランキングトップのロケットラボは、1kg当たりの打ち上げコストが3万3000ドル(約370万円)となっていて、5位のSSLVの1万2000ドル(約130万円)と比べるとおよそ3倍。ただし、エレクトロンロケットは2018年の商業打ち上げ開始から連続して安定的な成功を見せており、NASAから預かった衛星の軌道投入にも成功している。まだ構想段階のSSLVに先んじて実力を発揮しているというわけだ。

ZEROはまだ開発段階であり、こうしたランキングに登場するには至っていない。だが「ランキングの要素」に着目すれば、何を強みに戦えるのかが見えてくる。

まずは重要な検討事項であるコストの面。ZEROは100キログラムを6億円以下で打ち上げる目標を打ち出していて、1キログラム当たり600万円ということになる。この価格帯で比較すると3位の中国の快舟1A(約630万円)と6位のアメリカのVector-R(約600万円)が相当する。同程度のコストで2社を上回るメリットを打ち出せればいいわけだ。

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中国Landspaceの「朱雀1号」。

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中国の快舟1Aは2014年から人工衛星の軌道投入に成功しており、経験を積んだ高い実力のロケットだ。日本はキャッチアップを目指して戦うべき相手だが、搭載する衛星(顧客)という面で考えると中国という国そのものに「障壁」がある。

アメリカは国際武器取引規則(ITAR)という輸出規制に基づいて、アメリカ製の衛星またはアメリカ製部品を使用した衛星を中国に輸出することを禁じている。中国のロケットはアメリカの衛星を顧客にできないのだ。一方で日本のロケットはアメリカの衛星を打ち上げることができ、より広いマーケットにアプローチできる。

アメリカのVector-Rは、元スペースXのエンジニア、ジム・カントレルCEOが設立した企業だ。日本では総合商社の兼松と業務提携しており、アメリカだけでなく日本にも販路を持っている。ただし、Vector-Rは高度550キロメートルへ送り込める搭載量が28キログラムとZEROよりはるかに小さい。これを利用する衛星はどちらかといえば実験、開発目的の衛星が中心と考えられ、商用の超小型衛星がターゲットに入ってくるZEROとは顧客層が異なるだろう。

ISTの「弱み」を考えてみる

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ISTが手がけてきたロケットなどの一覧。

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ISTに弱みがあるとすれば、組織として圧倒的に小さいことだろう。

現在の社員数は21~22人。地元、大樹町による応援やJAXAによる開発支援などを加えても開発、運用、マーケティングに法務までこなすことは大きな負担だ。「ホリエモンロケット」という言葉は新しいものに関わりたい人を引きつける求心力になるが、さらに「成功したロケット」という将来の期待を大きくする要素を加え、凄腕の経験者を惹きつけたい。

ISTは今回のMOMO3号に搭載した機体カメラの映像を公開しており、十勝地方の海岸線がくっきり映る印象的な映像で飛翔時の安定性をアピールしている。また開発に関するデータをGitHubで公開しており、こうしたオープンな姿勢が開発者や衛星側の顧客を引きつけることも期待できる。

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宇宙空間へ向けて上昇中のMOMO3号からの映像。左下に斜めに見えるのが海岸線だ。

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最後に、1月にISTの稲川貴大社長が語った、歴史上の傑作ロケットエンジンへの愛あふれるコメントを紹介したい。

「バイキングという欧州のアリアン4ロケットに使われていたエンジンがあって、現在はその派生系がインドのPSLVロケット第2段に使われていますね。技術が枯れていて、簡単な製造時の検査で試験せずに打ち上げて、失敗しないという点が何よりもすごい。PSLVが安いのは、あのエンジンを選択できたということが一番の理由だと思います。燃料に毒性のあるヒドラジンを使っていて、規制のために欧州があのエンジンを捨ててしまったのはすごくもったいないと思っています。

あとは、LR-101。日本のN-1、N-2ロケットでも使われていた、米ロケットダイン社製の姿勢制御用エンジンです。これもすごく好きすぎて、輪切りにして断面を研究したこともあるんです。液体ロケットをどのように安く作るか、というひとつの答えになるようなエンジンなんですよね。プレス機でバコーン!と半面を作って、もう一つ作って溶接して、中の再生冷却装置も簡単な銅のコイルをぐるぐるぐるっと巻いて、点でぺっぺっぺっと付けて「はい完成」。作り方が一番シンプルで、1000基以上作られた名作エンジンなんです。そういう、量産できるロケットエンジンを現代版にしたものが作れると、ZEROは世界のロケットエンジン開発の中でも意味があるものになると思います。もっと性能の良いエンジンならたくさんありますが、安くて信頼性の高いものを目指しています」(収録:2019年1月)

極限スペックの追求ではなく、コストと信頼性の両立へ。こうした設計思想に支えられて、ZEROは世界のマイクロランチャーランキング入りを目指す。

(文・秋山文野)

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