ファーウェイの次は孔子学院か。アメリカの強まる「チャイナ狩り」留学生、研究者まで

習近平とトランプ

中国に対し、関税引き上げなど圧力を強めるトランプ大統領。米中貿易戦争が再び世界を振り回し始めた。

REUTERS PICTURES

中国を標的にした「チャイナ狩り」がアメリカ社会を覆っている。ファーウェイに続く新たな標的は、中国語教育の海外拠点「孔子学院」。

国防総省は「中国スパイ活動の温床」としてパージ(排除)を開始し、この1年半で全米15大学が同学院を閉鎖した。貿易戦争に「ファーウェイ」排除……まるで米ソ冷戦時代の「赤(共産主義者)狩り」の再来を思わせるが、米中対立は「文化戦争」の様相も呈してきた。

FBI長官の証言を皮切りに

kanji writing

自国の言語や文化を世界中に広めるために中国は孔子学院を設立。その存在がアメリカで危うくなっている(写真はイメージです)。

GettyImages

孔子学院は、海外での中国語・文化教育を目的に中国政府の支援でスタートした「ソフトパワー」の象徴的存在。2004年に韓国で開学したのを皮切りに、2018年末までに世界154国家・地域に548カ所に設立された。各地域にある大学と提携するケースが多い。日本では立命館大学をはじめ2005年から15大学が開いている。

国別でトップの数を抱えるアメリカでは、100以上の大学が設立、中国語需要の高まりを裏付ける。ただここ数年、同学院は「中国政府の意向が働き、学問の自由が保障されていない」などの批判が議会やメディアでくすぶっていた。

そんな「疑惑」に追い打ちをかけたのが、米連邦捜査局(FBI)のレイ長官が2018年2月の議会証言で、孔子学院の一部が親中派の育成やスパイ活動に利用されている疑いがあるとして「捜査対象になった」と発言。以来、パージの動きが次々に表面化してきた。

資金停止で15大学が閉鎖

HAUWEI

最初にアメリカの標的になったのは、世界的通信機器メーカーのファーウェイだった。

GettyImages

特に政府主導の排除を鮮明にしたのが、2019年会計年度の国防権限法(2018年8月)。国防総省に対し、孔子学院を設立する大学への資金支援の停止を求める条項を盛り込んだ。

同法には、移動通信システム技術「5G」の構築から「ファーウェイ」排除するよう求める条項もあり、米中「デジタル冷戦」を主導するベースにもなっている。

ペンス副大統領が2018年10月に行った「米中新冷戦」演説の中身を具体化したような法律である。「ニューズウィーク」(電子版4月30日付)は「国防総省が、孔子学院設置の米大学への語学資金支援を停止へ」と題する記事で、この1年半でインディアナ大学、ミネソタ大学など少なくとも15大学が孔子学院を閉鎖したと伝えた。

15大学のひとつ、オレゴン大学の閉鎖決定の声明によると、2016、2017教育年度に国防総省から計380万ドル(約4億1800万円)の中国語教育支援資金を提供されたが、新たに申請した交換留学生資金を含む「340万ドルの支援申請が全て拒否されたため」と説明している。

同誌は、国防総省報道官のコメントとして「資金提供は国益にならないと判断した」「(孔子学院を設立している大学は)今後、語学支援資金を米国政府から受け取るか、それとも中国から受け取るかの判断を迫られる」と書く。近く新たに3校が閉鎖するという。

留学生、研究者も摘発の対象

chinese students

アメリカで学ぶ中国人留学生にも監視の目は厳しくなっていると言われる(写真はイメージです)。

shutterstock

中国留学生や研究者も「チャイナ狩り」の対象だ。国務省は2018年6月、先端的技術を専攻する中国人大学院生の査証(ビザ)の有効期限を5年から1年に短縮すると決定。「安全保障に関わる分野でのスパイ行為のリスクを抑え、知的財産権の侵害を防ぐことが目的」と説明している。

FBIは、中国人大学院生や研究者の電話の通話記録をチェックし、米中両国のソーシャルメディアのアカウントの調査も検討している。既に電話盗聴やPCへのハッキングまで行っていると報じられている(ロイター通信2018年11月29日)。

ほかにもある。米司法省は2018年9月、中国国営新華社通信と中国環球電視網に対し、「外国代理人登録法」への登録を義務付けると通告した。登録法は1938年、ナチス・ドイツの利益を代表するロビー活動を制限するための法律。かつてはナチス、今は中国と聞けば、対中警戒感がいかに高いかが分かる。

孔子学院にも登録を求める法案も上程された。アメリカで生活する中国人にとっては、さぞかし息苦しいことだろう。

「敵なければ生きられない」

back in eighties

米ソが対立した冷戦時代。今は米中で緊張感が高まっている。

shutterstock

「アメリカ人は危険な外敵に直面していると気づいた時には団結する。そして見よ!(外敵が)現れた。中国だ」

こう書くのは、ニューヨークタイムズのコラムニスト、デイビッド・ブルックス氏(ニューヨークタイムズ電子版2019年2月15日)。

アメリカは伝統的に「敵」がないと生きられないメンタリティを持つ国家・社会である。古くは西部劇における「インディアン」(先住民)。旧ソ連初の人工衛星「スプートニク1号」成功で受けたショック後の反ソ・キャンペーン。1980年代の日本バッシング(叩き)に「9-11」後のイスラム過激派——。

「敵」を挙げればきりはない。そして今は中国を「敵」とみなす空気が、米社会の隅々に浸透している。

中国が成長すれば、やがて「民主化」「自由化」するとみてきた「幻想」が裏切られた反動もあるだろう。ワシントンDCでは、中国製の地下鉄車両を導入すれば、「監視装置が埋め込まれスパイされかねない」という「バカ話」が新聞の大見出しになるほどだ。

アメリカで研究生活の経験がある朱建栄・東洋学園大教授は、

「孔子学院排除はメディアなど民間での話でした。アメリカ政府はむしろ抑えてきたが、ここにきて政府主導に変わったのが特徴。中国側も当面チャイナ・バッシングが続くとみており、中国叩きに対しても低姿勢で臨むとみています」

と話す。

中国を敵視する「われわれ」とは?

china and us

中国かアメリカか。メディアの中には単純な二元論に陥る危険性を指摘する声も。

shutterstock

「チャイナ狩り」一色に染まっているように見えるアメリカだが、すべて「右へ倣え」ではない。メディアは「権力監視」の機能と、「自己再生」を促す役割を維持している。先のニューヨークタイムズのブルックス氏は、中国を「敵」とみなす自分たちの認識の「落とし穴」をこう描く。

「もし中国がわれわれに対して『他者』だとするなら、その『われわれ』とは何者なのか? 中国がリベラルな国際秩序に対する脅威であるなら、われわれが自分たちのシステムを改善して、挑戦に立ち向かう能力はあるだろうか」

米中対立が激しさを増し「アメリカか中国か」の二択論にはまりがちなメディアが多い。その中でも、冷静に自分のポジションを相対的に見つめる識者は健在である。


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中

あわせて読みたい

Popular

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み