世界を制したK-POPビジネスの光と闇。「YouTube再生8億回」BLACKPINK生みの親に聞く

sinxityinterview

SINXITY(シン・シティ、中央)と、彼が2018年に立ち上げたクリエイティブプロダクション「AXIS(エクシス)」の所属アーティスト、「ambitious ambition」のelan(エラン、右)とLOGAN(ローガン、左)。

撮影:西山里緒

2019年4月、BTS(防弾少年団)はアメリカのビルボード200で3度目の1位となった。5月に開催されたビルボード・ミュージック・アワードでは、3年連続でトップソーシャルアーティスト賞、さらにはトップデュオ/グループ賞というダブル受賞も決めた。いま「K-POP」は世界で大きな注目を集めている。

なぜ、世界を制したのはJ-POPではなく、K-POPだったのか?

韓国の大手芸能事務所であるYGエンタテインメントに2009年から所属、BLACKPINKなどをプロデュースして世界規模のアーティストに育てあげたシン・シティ(SINXITY)氏に、K-POPの今とこれからを聞いた。

シン・シティ:韓国のアーティストプロデューサー、クリエイティブプラットフォーム 「AXIS/エクシス」創業者。2009年に韓国の大手芸能プロダクションYGエンタテインメントに入社し、のべ300以上の楽曲、ミュージックビデオ、オンラインプロモーションを手がけた。

“上場が基本”の韓国大手芸能事務所

BLACKPINK

BLACKPINKの「DDU-DU DDU-DU」は再生回数が8億回を突破し、K-POP史上最高の再生回数を記録したアーティストとなった。

Roger Kisby / GettyImages

世界基準の楽曲クオリティ、完璧にそろったダンス、そしてSNSを活用したマーケティング。

そうしたK-POPの強さの背景に、受け入れる市場側の寛容さがある。韓国の芸能事務所はある程度事業規模が大きくなると上場するケースが多く、中・長期的に発展性のあるビジネスを生み出せる、シン・シティ氏はそう指摘する。

シン・シティ氏自身、入社当初はアーティストプロデュースではなく、上場のサポートをしていたという。

日本において上場している芸能事務所として有名なのは、アミューズとエイベックスだが、そのほかは、ジャニーズ事務所やホリプロ、LDHなど、著名アーティストを多く抱える事務所も上場していない。

「IPO(株式新規公開)のメリットは、色々なトレンドを取り込んで、さまざまなメディア戦略を試しながら(コンテンツを)届けられるところ。IPOをして資金を安定的に調達することで、浮き沈みの激しいエンタメ業界でもものづくりに集中できるところもある」

BTS一人勝ちの理由は……

BTS

大手事務所ではない事務所からデビューし、スターダムを駆け上がったBTS。

Ethan Miller / GettyImages

乱立する韓国の芸能事務所の中でも、大手と呼ばれる3社(SMエンタテインメント、YGエンタテインメント、JPYエンタテインメント)はそれぞれ異なる戦略を取っているとシン・シティ氏は言う。

BoAや東方神起を生み出したSMエンタテインメントは、AI(人工知能)やキャラクタービジネスなど、音楽という軸に止まらない「未来のエンタテインメントのあり方」に力を入れているそうだ。

2017年にデビューしたボーイズグループ、NCTはその典型だ。メンバーは多国籍で、発表する楽曲ごとにメンバーを入れ替える方式を採っており、「グローバル市場に向けた戦略でシステムを作り出している」と評価する。

日本でも人気が高いTWICEなどを擁するJYPは「アーティスト本人の人格を大事にし、コンテンツにも活用している」という。

TWICEはメンバーのうち5人が韓国人、3人が日本人、1人が台湾人という「多国籍」グループだ。

動画:jypentertainment

さらにBLACKPINKを輩出したYGエンタテインメントは「すばらしいプロデューサーやアーティストが集まって『アーティスト・ブティック』のように、世界の誰が見てもかっこいいと思えるコンテンツを作ることに集中している」という。

一方で、BTSが世界を席巻するグループに成長した理由については「選択と集中」がうまく機能したのではないか、と考えている。特に、SNSを最大限に活用した戦略は、時代のニーズに刺さった。

「(K-POPアーティストがライブ配信などを行う)V LIVEのアプリが始まったときに、NAVERの担当者から、BigHitという会社の防弾少年団というアーティストがものすごく謙虚でがんばっている、という話を聞いていたんです。(スタッフさえも)彼らのファンになっていた」

また、近年は女性の練習生も取らず、BTSのみに集中していたこと、タイアップなども必要最低限にとどめていたことも功を奏した、とシン・シティ氏は分析する。

いま必要とされるのは“人格教育”

V.I

日本でも人気の高いBIGBANGのV.I氏による性的不法行為疑惑は、大きな衝撃をもたらした。

Chung Sung-Jun / GettyImages

その一方で、韓国芸能界は、たび重なるスキャンダルに揺れている。

BIGBANGのメンバーだったV.I氏が売春あっせんなどの疑いを持たれているほか、元東方神起メンバーのパク・ユチョン氏にも薬物使用の疑いがかけられている。また2017年末には人気グループ、SHINeeのメンバーだったキム・ジョンヒョン氏が自ら命を絶った。

こうした流れを受け、韓国の大手事務所では数年前からメンタルケアや「人格教育」に力を入れ始めているという。「人柄・人格(インソン)」の養成を行う協会から専門の講師を派遣し、毎週プログラムを組んでメンタルケアを行っているそうだ。

この中には、チーム同士で心を開くためのコーチングや、個別のカウンセリングも含まれている。

「SNSの発展で、情報が隠せない時代になっています。アイドルとしての側面だけでなく、アーティストのプライベートも尊重するべきだという流れに今、変わってきています」

きらびやかなステージの裏で、報じられ続けている韓国芸能界の“闇” —— K-POPがこうした構図から一歩前に進むことができるのか、いま分水領にさしかかっていると言えそうだ。

(文・西山里緒)

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