中国EC法で爆買いに異変、でも日本メーカーは「闇バイヤー取り締まり」歓迎

「代購」と呼ばれる個人ブローカーを取り締まり、越境ECを推進する目的で、中国政府が電子商取引法(EC法)を2019年1月1日に施行した。日本ではインバウンド消費への逆風にもなっているが、メーカー側は「中国市場に本腰を入れて取り組む機会」と前向きに受け止めている。

中国人買い物客

個人ブローカーを取り締まる中国EC法が1月に施行され、日本のインバウンド消費にも影響が出ている。

REUTERS/Thomas Peter

違法ネットバイヤーには最大3200万円の罰金

「周囲の友達は、みな代購を自粛中です。罰金を考えたら割に合わない」

中国地方の大学院に通う中国人留学生(26)は、そう明かした。

中国に住む中国人の代わりに海外商品を購入して手数料を得たり、価格を上乗せして転売する「代購(代理購入)」ビジネスは、2010年代に入り中国人の間で急速に盛り上がった。留学生は、「日本にいる中国人留学生の10人中9人は、代購をやったことがあります。それが目的で留学する人もいるくらいですから」と悪びれずに話す。

売れ筋の商品をドラッグストアや量販店で大量に購入し、ネットショップやSNSで売りさばく彼らは、爆買いの原動力にもなってきた。

だが、こうした個人業者を取り締まるEC法が2019年1月に施行され、風向きは一変した。ECプラットフォームを通じて商品・サービスの売買する事業者は個人であっても企業と同様の登録と納税が義務付けられ、違反者には最大200万元(約3200万円)の罰金が科される。

EC法施行で7割が代購休止

中小企業の中国進出を支援するコンサルタントの日本人男性は、「中国のイベントで日本企業のブースを出展すると、個人業者が日本からスーツケースで運び込んだ商品を安く売りさばいている光景によく遭遇する。こちらは関税をきちんと払い、貿易の手続きをしているため、どうしても高くなってしまう。以前から不公平と感じており、グレーゾーンを明確にしたEC法を歓迎したい」と話す。

EC法はこうした不公平を解消し、消費者保護をも狙ったものだが、法律の内容が明らかになると、爆買いの恩恵を受ける日本ではむしろインバウンド消費への影響が懸念された。

baidu

バイドゥの調査では、約7割がEC法施行後の取引休止意向を示した。

バイドゥ(百度)の日本法人が在日中国人バイヤーを対象に2018年12月に実施した調査によると、約7割がEC法施行後に代購を休止する意向を示した。

法施行と同時に中国の空港で手荷物検査が厳しくなったとの情報が駆けめぐり、旅行者も日本での買い物を手控えるようになった。日本商品に特化した中国向け越境ECサービスを展開するInagora(インアゴーラ)の広報、板野可奈子さんは、「北京や上海のオフィスへの出張時にも、日本酒など高額品をお土産に持っていくのはやめました」と打ち明ける。

メリーズ、リファ……インバウンド銘柄を直撃

企業の決算からも、EC法施行の影響が徐々に明らかになってきている。

花王が4月24日に発表した2019年1〜3月期連結決算では、売上高が前年同期比1.1%減の3469億円となった。化粧品事業やスキンケア事業は増収だったが、紙おむつ「メリーズ」の売り上げの大幅減少が響いた。メリーズは日本の紙おむつの中でも中国人の間で圧倒的な人気を誇っている分、EC法による買い控えや、転売目的で日本で購入されたメリーズの中国での価格下落が直撃した形だ。

もっとも影響を受けた企業の一つが、トレーニング機器「シックスパッド」などを手がける美容・健康機器のMTGだ。5月10日に発表した2018年10月〜2019年3月期連結決算では純利益が前年同期の37億円から5300万円に急減。中国人の爆買い銘柄でもある高価格美容ローラー「リファ」の販売落ち込みが原因の一つだった。

「EC法はプラス」と考える企業も

転売

日本で購入した商品を、中国で転売する個人業者も多い。

撮影:浦上早苗

それでも、足元では売り上げの減少に直面しながらも、メーカー各社は前向きにとらえている。

高所得の中国人女性に人気が高いポーラ。及川美紀取締役執行役員は「1、2月は代行業者と思われる人々の購入が減り、(EC法の)影響がないわけではなかった」としつつも、「代行業者による転売は価格をコントロールできず、ブランドイメージの毀損にもつながるので、これまでも正規ルート以外での販売を見つけたら注意してきたし、百貨店でも1人あたりの購入数量を制限してきた。長い目で見れば、EC法は当社にとってプラスと考えている」と語った。

ポーラは中国で百貨店、アリババのECサイトTmall(天猫国際)、越境EC、直営店の販売チャネルを展開、2018年は海外売上高82億円のうち、中国市場が19億円を占めた。現地では2018年末時点で15店舗を展開しているが、将来的には40店舗まで増やす計画。「EC法施行で中国人顧客による日本での売り上げが減っても、中国での売り上げが増えれば何も問題はない」(及川さん)と、データ分析や顧客との関係強化につながる越境ECや中国直営店での販売を強化する考えだ。

インアゴーラの板野さんも、「これまでの中国インバウンド消費には、副作用も伴っていることを知ってほしい」と指摘する。

中国人インフルエンサーが紹介して人気が出た商品は、旅行者だけでなく、代購業者がドラッグストアなどで大量に買い占めて、自身のSNSやECショップで売りさばく。だが、ブームが過ぎると今度は在庫をさばくために、値下げしたり他の商品とセットで投げ売りしたりする。

「メーカーのコントロールできないところで、相場が形成され、崩れてしまうので、ブランドイメージにはマイナスにもなる」(板野さん)

医薬品やサプリメントは、中国で認可されていない成分が使われているなどの理由で、輸出が禁じられている商品も少なくないが、人気になると代購業者が転売を始め、メーカーとしてリスク管理ができなくなることもある。

爆買いは「天の恵み」

インアゴーラ

越境ECサイトを展開するインアゴーラのインフルエンサーを起用したイベント。「商品の魅力を丁寧に説明し、メーカーの思いを伝えたい」という。

撮影:浦上早苗

ポーラの及川さんは、日本で大ヒットしているシワ改善美容液「リンクルショットメディカルセラム」が、中国未認可の成分が使用されているため輸出できないことを例に挙げ、「中国での認可に向けた取り組みを進めていく」とし、今後は商品開発段階から中国市場を意識する方針を明かした。

板野さんは「これまでの爆買いはいわば“天からの恵みの雨”のようなもの。中国人が勝手に商品を発掘し、SNSで販促してくれた。だが、先んじて爆買いの恩恵を受けた企業は、中国市場の大きさに気づいて、すでに越境ECや中国向けマーケティングの強化を始め、自力でヒットを起こそうと動いている」と話した。

(文・浦上早苗)

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