ファーウェイの創業者兼CEO、任正非氏。
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- 中国の大手通信機器メーカー・ファーウェイ(華為技術)は、アメリカ商務省のブラックリストに追加された。つまり、アメリカ企業とビジネスを行う際、まずアメリカ政府の承認を得なければならない。
- アメリカ政府は以前から、ファーウェイのテクノロジーが中国政府によるスパイ行為に使われているという懸念を表明してきた。一方、同社は一貫して否定している。
トランプ大統領が「情報・通信技術と関連サービスへの脅威」に関する国家非常事態を5月15日(現地時間)に宣言したことは、ファーウェイにとって大きな打撃となった。
アメリカ政府は、同社が中国政府のためにスパイ行為を働いており、アメリカの安全保障を脅かしていると考え、2018年からファーウェイとの対立を深めている。
ファーウェイは、まずアメリカ政府の承認を得ない限り、アメリカ企業とビジネスを行うことを禁じられた。司法省は2019年はじめ、ファーウェイと同社の孟晩舟(Meng Wanzhou)副会長兼最高財務責任者(CFO)を銀行と通信に対する詐欺などの容疑で起訴した。また孟氏のアメリカへの引き渡しを引き続き求めている。
アメリカ人にとって、ファーウェイは馴染みのある名前ではないだろう。だが今では実際、アップルを抜き、サムスンに次ぐ世界第2位のスマートフォンメーカーとなった。
ファーウェイについて知っておきたいこと、および同社とアメリカ政府の間の争いを見てみよう。
ファーウェイは巨大テック企業、通信サービス、企業向けテクノロジー、スマートフォンなどのコンシューマー製品の製造・開発を手がけている。製品は70カ国以上で販売されている。
ファーウェイは2019年、アップルを抜いて世界第2位のスマートフォンメーカーとなった。
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2018年の売上高は約1000億ドル(約11兆円)、マイクロソフトとほぼ同じ。世界最大の通信機器メーカーであり、サムスンに次いで、世界第2位のスマートフォンメーカー。
ファーウェイのMate 20。
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ファーウェイは1987年、任正非(Ren Zhengfei )氏が設立、同氏は現在もCEOを務めている。ファーウェイ設立以前、任氏は人民解放軍でエンジニアとして働いていた。
ファーウェイの任正非CEO。2012年撮影。
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同氏は社内では、ことわざや象徴的な言葉を好んで使う哲学的な起業家として知られている。
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任氏の哲学的な一面を表す例として、数羽の黒鳥(ブラックスワン)が飼われていることがある。
ファーウェイ本社で黒鳥に餌を与える施設管理者。
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黒鳥は「企業のカルチャーの中で満足してはいけない」という意味を表すと言われている。
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本社は広東省深セン市にある。同社の従業員は世界中に約18万人とされるが、本社メインキャンパスだけで6万人が働いている。
広東省深セン市のファーウェイ本社。
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報道によると、メインキャンパスにあるリサーチラボのニックネームは「ホワイトハウス」。訪問者が内部に入り、同社の最先端テクノロジーを垣間見ることは、ほとんど許されない。
ワシントンD.C.のホワイトハウス。
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最近、中国南部の東莞市に新しいキャンパスを建設した。このオックスホーン(Ox Horn)キャンパスは12の「町」に分けられ、それぞれがヨーロッパの主要都市を模したデザインとなっている。
広東省東莞市の松山湖地区にあるファーウェイのオックスホーン・キャンパス。
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ファーウェイのスマートフォンは世界中で人気。安価、かつパワフルで、ときにはiPhoneの売り上げを上回ることもある。
Shona Ghosh/Business Insider
出典 : Business Insider
ファーウェイは、アメリカ市場への進出を試みた。だが、提携先と見られていたAT&Tとの関係は2018年1月に解消された。同社が未だに提携を望む別のキャリアを見つけられないのは、中国企業を信頼していないアメリカ政府からのプレッシャーが一因と見られている。このため、ファーウェイのアメリカでの実績は限られたものとなっている。
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議会は以前から、中国政府との密接な関係からファーウェイをアメリカの安全保障上の脅威と見てきた。同社のスマートフォンや電子機器は、アメリカ政府関係者をスパイするために使われているという説を唱える者もいた。ファーウェイはそうした訴えを否定し続けている。
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だが、ファーウェイに対するアメリカの懸念は、サイバーセキュリティに留まらない。報道によると、当局は同社がアメリカからイランに製品を輸出し、アメリカの対イラン制裁に違反したとして、2016年から捜査を続けている。
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アメリカと中国の間の貿易関係は、不安定な状態が長年続いている。両政府による貿易戦争は膠着状態、互いに主要輸入品に何十億ドル相当もの関税を課している。
トランプ大統領と習近平国家主席。
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しかし2018年12月、同社の孟CFOがアメリカの要請でカナダで逮捕されると、両国の関係はさらに悪化した。当局は、孟氏がアメリカの対イラン経済制裁に反して機器をイランに販売しようとした企業とファーウェイとの関係を隠ぺいしたとしている。アメリカは今も孟氏の引き渡しを求めている。
ファーウェイの孟晩舟(Meng Wanzhou)CFO。
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孟氏の逮捕でアメリカと中国の緊張が一気に高まった。これは、両国の指導者が何らかの合意に達するように思われた直後のことだった。専門家はこれを、中国との貿易関係に対するトランプ政権の強硬路線を象徴するものと受け止めている。
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出典 : Business Insider
孟氏の逮捕に対する中国の対応は早かった。中国はアメリカとカナダに、孟氏をすぐに釈放しなければ、「深刻な事態」を招くと警告した。その後、警告通りに2人のカナダ人を逮捕し、もう1人には死刑判決を言い渡した。
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危機的状況が深まる中、2019年1月、公にほとんど姿を現すことがない任氏が、2015年以来初めて記者会見を行った。同氏はトランプ大統領を「偉大な大統領」と呼び、アメリカに対して「成功を分かち合い、協力し合う」関係の構築を訴えた。
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しかしカナダ政府は3月、アメリカでの裁判に向けて孟氏をアメリカに引き渡すことに合意。アメリカに送られるまでの間、孟氏はバンクーバーの自宅に軟禁される。
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ファーウェイが直面している課題は、依然として山積み。検察当局は、同社がアメリカ企業から企業秘密を盗んだとしている。スマートフォンの品質検査に用いるTモバイル(T-Mobile)のロボット技術などだ。
T-モバイルのジョン・レジャーCEOとファーウェイの任正非CEO。
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2019年1月、司法省は正式にファーウェイと同社CFOの孟晩舟氏を銀行および通信詐欺などの容疑で起訴。訴状の中で同省は、ファーウェイは企業秘密を盗んだ従業員にボーナスを与えたと述べた。
2019年1月、ファーウェイの起訴を発表するマシュー・ウィテカー司法長官代理。
REUTERS/Joshua Roberts
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だがファーウェイも反撃に出た。2019年3月、トランプ政権が制定した政府機関によるファーウェイ製品の購入あるいは使用を禁止する法律について、アメリカ政府を提訴。ファーウェイは、法律は憲法違反であり、アメリカ政府は同社がアメリカの安全保障を脅かしているという主張を裏付ける「いかなる証拠も提出できなかった」と述べた。
AP/Evan Vucci/Vincent Yu/Business Insider composite
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アメリカとその多くの同盟国は、ファーウェイは中国政府の支援を受けてスパイ行為を行っているのではないかと、今も恐れている。こうしたセキュリティ上の懸念が高まっていることから、多くの国々が ── アメリカに促されて ── ファーウェイとの関係を断ち、次世代通信規格5Gネットワークの構築への同社の参加を拒否する方向で動いている。
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ファーウェイとの関係を断つことを検討しているのは、オーストラリア、イギリス、カナダ、日本、ポーランド、ニュージーランド、そしてEU。
2019年5月、トランプ大統領は「情報・通信技術と関連サービスへの脅威」に関する国家非常事態を宣言し、ファーウェイへの圧力を一段と強めた。アメリカ商務省は、ファーウェイを「エンティティリスト」に追加。これにより、同社がアメリカ企業とビジネスをする際、まずはアメリカ政府の承認を得なくてはならない。
Alex Wong / Getty Images
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これに対してファーウェイは、企業の権利を脅かす「過剰な規制」と非難し、将来の5Gネットワークへの取り組みにおいて、アメリカが打撃を受けるだけと主張した。中国市民は、国家非常事態宣言のおかげでファーウェイは「無料で宣伝してもらえた」とトランプ大統領をインターネット上で笑った。
Reuters
アメリカの規制にも関わらず、ファーウェイは成功を収めている。2018年、同社の売上高は約1000億ドル(約11兆円)を超え、前年比19.5%増となった。
AP Photo/Vincent Yu
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(翻訳:仲田文子、編集:増田隆幸)