上海で流行する日本流「コーヒー店」ブームの謎 ——ドトールや独立系喫茶店も上陸

ドトールコーヒーの中国第1号店。

ドトールコーヒーが上海で2018年8月にオープンした中国第1号店。

人口2400万人を抱える中国の経済都市・上海で日系コーヒー店(カフェ)が出店する動きがにわかに目立っている。

数年前から上海進出をしているPRONTO(プロント)やコメダ珈琲店に加えて、2018年8月にはドトールコーヒーが、中国1号店を上海の中心部でオープンさせた。また、東京で3店舗を運営する独立系のスペシャルティコーヒー店「堀口珈琲」は、さらに早い2017年12月から、上海の観光地・外灘で店舗を開いている。

なぜ、日本のカフェが次々と上海上陸をしているのか? 現地を訪れた。

コーヒー需要が旺盛な中国

luckin coffeeの店舗。

中国のコーヒー需要の増加は、急拡大しているコーヒーチェーン「luckin coffee」をみても感じる。1年あまりで2000店舗を突破した同チェーンも、上海に店を持っている。

撮影:浦上早苗

中国はコーヒー需要の高まりで、この10年でカフェが激増した。中商産業研究院の調べでは、2007年には1万5906店だったが、2016年には8万6000店。そして、2018年には14万902店になったと推定している。一方、日本の喫茶店の店舗数の変遷は、全日本コーヒー協会の統計資料によると、2016年は6万7198店。しかし、ピークの1981年の15万4630店に比べると半分以下になっている。

中国では2018年の一人あたりコーヒーの年間平均消費量は6.2杯とアメリカのわずか1.6%だが、コーヒー市場規模は既に569億元(約9511億円)とされ、2023年には一人平均10.8杯、市場規模は1806億元(約2兆8820億円)にまで拡大するとの予測もある。

成長余地のある巨大市場だけに、スターバックスは、中国でも積極的に投資している。

コーヒー市場が急拡大する中国

スターバックス・リザーブ・ロースタリー上海。

世界最大級の面積を誇る「スターバックス・リザーブ・ロースタリー上海」。週末だけあって行列ができていた。ドトールコーヒーの上海第1号店から数百メートルの位置にある。

スターバックス ・リザーブ・ロースタリー上海

スターバックス ・リザーブ・ロースタリー上海の店内。

Starbucks

こういった背景で、上海はいま、中国最大のカフェ激戦区になっている。

ドトールの中国1号店は南京西路駅から地上に出た周辺の「四季坊」と呼ばれる飲食店街の端に位置する。この一帯は平日の夕方以降や土日は人で溢れかえるエリアだ。

4月中旬のある土曜日、夕方にドトールの中国1号店を訪れた。2階建てで、日本の店舗と基本的には変わらない。2階にはテラス席が設けられていた。

ドトールコーヒーの上海第1号店にある2階のテラス。

ドトールコーヒーの上海第1号店にある2階のテラス。

ブレンドコーヒーを注文すると、価格は1杯18元(約287円)。日本の店舗とほぼ変わらない価格設定だ。ちなみに、上海のスターバックスではアメリカンコーヒーの中サイズが25元(約400円)だった。

ドトールコーヒーがなぜ中国に進出したのか。ドトール・日レスホールディングスの海外事業本部シニアプロジェクトマネジャーの張志成氏は、その理由をこう説明する。

上海は中国で一番の経済都市。あとは外国の文化を積極的に受け入れようとする都市となると、北京よりは上海と広州です。また、中国はこれから更にコーヒーのマーケットが成長していきます。中国のコーヒーの消費量は、毎年15%くらい上がっている。これらが大きな理由です」(張志成氏)

ドトールはその数年前に上海への進出を準備していたが、当時は領土問題で日中関係が悪化したこともあり、一時、頓挫していた経緯がある。その後、再び上海の現地パートナーとともに、オープンにこぎつけた。ドトールとしては以前から海外展開を考えており、すでに台湾やマレーシアにも出店している。

「ドトールとしてのブランドを海外に広げていきたいという夢がありました。ただ、会社の売り上げに占める割合は、国内の売り上げが大半で、海外での売り上げ増はこれからです。我々としては日本で、美味しいコーヒーを何十年も手頃な価格で提供してきた自負がある。中国でも美味しいコーヒーを提供したい」(同)

早々に上海進出した2社、撤退したサンマルク

上海の古北エリアにある「PRONTO(プロント)」。

日系企業のオフィスが多い上海の古北エリアにある「PRONTO(プロント)」。

冒頭のとおり、日本で馴染み深いPRONTO(プロント)やコメダ珈琲店も、数年前に中国第1号店として上海に進出し、現在も営業を続ける。一方で撤退企業もすでに出ている。サンマルクカフェは一時、上海市内で3店舗まで広げたが、現在は全て閉店した。

また、純粋なカフェとは異なるが、ミスタードーナツは上海で20年に渡って営業してきたが、2019年3月に、同じく閉店している。

スタバより高い「高級路線」で進出した堀口珈琲

上海の堀口珈琲で飲んだ焙煎コーヒー。

上海の堀口珈琲で飲んだ焙煎コーヒー。イギリス租界時代の歴史的建築物で営業を続けている。焙煎コーヒーの価格は98元(約1570円)。ドトールやスタバよりはるかに「高級路線」だ。

東京・世田谷区が本社の「堀口珈琲」は、焙煎コーヒー豆の生産や小売りなどが中核事業で、東京のコーヒー好きには知られるチェーンだ。しかし、店舗はまだ都内に3店舗のみ。日本の他地域に広げる前に、なぜ上海に出店したのか?

そんな疑問を抱えながら訪れた店舗は、見事に満席という人気ぶりだった。堀口珈琲の伊藤亮太社長は、外灘という超一等地に第1号店を出した理由として、宣伝効果を挙げる。

「戦略的な出店と割り切った。地価も高いですが、そういうところに店を出せるブランドなんだということですね。それからいろんなところに出していくということです」

さらに上海進出の資金について深堀りすると、中国の店舗はいわゆる看板貸しの形で、パートナーとして組んだ香港人たちのグループが資金を出していることもわかった。

伊藤社長は、彼らと一緒になって海外出店をした理由を、「熱意」だと口にする。

「日本国内の市場は縮小傾向ですし、今後アジアの市場というのは重要だなとここ数年考えていました。ただ、我々には自力で中国に出店するだけのリソースが無かった。だから、良い現地のパートナーがいれば出店しようと思っていました。良いパートナーとは、我々の理念、ブランド価値をきちんと理解してくれる(相手であること)。中国の市場で広めてくれる熱意が重要だと思っている。今回たまたまそういうパートナーに恵まれました」

現在のパートナーと組む前、2014年頃にも上海人のある夫婦から話があったという。当時、コーヒー投資ブームがあったせいか、夫婦の視点はビジネスに終始しており、コーヒーという嗜好品への熱意が感じられなかったため、オファーは断った。

上海の観光地・外灘に出店した堀口珈琲。

上海の観光地・外灘に出店した堀口珈琲。

上海の観光地・外灘に出店した堀口珈琲。

上海の観光地・外灘に出店した堀口珈琲。

その後、現在の香港人のグループから話が来た。

彼らはコーヒー好きで、日本に何度も旅行などで訪れており、堀口珈琲を気に入っていた。そして、この堀口珈琲をそのまま中国に持っていきたいと、伊藤社長に話を持ちかけた。「彼らだったら、我々のブランドを使って、むちゃくちゃにはしないだろうなと」約半年の間じっくり交渉した上で、ゴーサインを出した。

「市場のポテンシャルとして中国は大きい。まず海外でやるのなら、中国、上海ではないだろうかと。ただし、我々はどんどん儲けるというよりは、まずは堀口珈琲のブランドの基礎を上海で築きたい。良いコーヒーだけでなく、サービスも含めて、パートナーに注力してほしかった。

きちんとビジネスが軌道にのって、彼らが1店舗目もしっかり作って基礎ができたら、2店舗目、3店舗目とゆるやかに成長していけるように、あまり彼らを焦らさせないようにしました。最初からロイヤリティをもらうとか考えずに、まずは焙煎したコーヒー豆の卸売先という形にしました」(伊藤社長)

堀口珈琲の隣接店にはライバル「アラビカ」もいる

アラビカの上海第2号店。

堀口珈琲の隣にあるアラビカの上海第2号店。

アラビカの上海第1号店。

上海の旧フランス租界にあるアラビカの上海第1号店。常に人で溢れる人気店。

堀口珈琲のようなスペシャルティコーヒー屋が進出する背景には、焙煎コーヒーなどの高級志向の消費が、中国でも急速に高まっていることもある。

実は堀口珈琲の隣には、香港が発祥で日本では京都で3店舗を展開する人気の焙煎コーヒー屋「% ARABICA(アラビカ)」が、上海第2号店を構えている。さらに、スターバックスの高級店も同じ通りにある。

そういった状況は、高級コーヒーへの需要の高さを示している。だから投資家たちは、ブルーボトルも参考にしたという「日本の喫茶店文化(焙煎コーヒー屋)」に注目したのかもしれない。

日本と中国のミレニアル世代消費はここまで違う

RUMORS COFFEE。

上海の旧フランス租界エリアにある自家焙煎コーヒー店「RUMORS COFFEE」。日本人の中山恵一さんが中国人の奥さんと切り盛りする。

脱サラして上海で2011年から、本格的な自家焙煎コーヒー店「RUMORS COFFEE(ルマーズコーヒー)」を開いている中山恵一さんは、日本と中国でカフェに求められるものの違いがあるとする。

「日本と中国は生活スタイルが違う。例えば、中国では日本のように駅近くのカフェで、ビジネスマンが確実に集まって商談の場になったりしている訳でもありません」

また、中国では1990年〜95年以降生まれの世代を中心に、従来のコーヒーの楽しみ方とは異なる飲み方が見られるとも言う。

「コーヒー本来の味を楽しむということにこだわらず、カクテルのようにコーヒーにお茶やフルーツを入れて楽しんだり、新しいオシャレなカフェには行列してでも飲むような若者も増えている」

こういう話を見聞きすると、中国のコーヒーカルチャーに合わせて、日本のコーヒー店の「ローカライズ」も今後進みそうな感触もある。もちろん、巨大市場に期待して、中国、上海に進出する日本のコーヒー店がさらに増える可能性もあるだろう。

(文、写真・大塚淳史)

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