東京から思いきり離れた場所で仕事をしてみたとき、仕事や自分の中にどんな変化が起きるのか? そんなテーマを掲げて始まったBusiness Insider Japan編集部による第2回リモートワーク実証実験が、長崎県・五島列島(福江島)で5月7日からスタートしている。
テック記者である筆者も、妻(デザイナー)と一緒に五島列島に上陸、5泊6日の期間で滞在することに。3日目となる今回は、そもそもこのBIコミックがどのように描かれているのか。その制作裏話をお送りする。
ただ夫に付いて行くだけではなく
作業環境が変わっても仕事ができるか?
※フォトショ=画像編集ソフト「Adobe Photoshop」、イラレ=ベクター型ドローソフト「Adobe Illustrator」、クリスタ=イラスト・マンガ制作ソフト「CLIP STUDIO PAINT」、液タブ=「液晶タブレット」、プロクリエイト=iPad向けドローアプリ「Procreate」のこと。
とはいえ、仕事の内容的にもひと工夫が必要
※プロット=物語の流れのこと。また、それを組み立てること。
“遠方リモートワークレポ”ならではのよさ
※鬼岳=おんだけ
デザイナー×編集の現場はもちろん……
リモートワークで、画面3台体制からタブレット1台へ
11インチiPad Proは持ち運びに適しているが、これ1台だけで漫画は完成するのか。
妻は、企業から依頼を受けて在宅で作業をするフリーランスのデザイナーだ。普段、ほとんどの作業をPCで行っている(たまにアイデアなどは紙のノートに書いている)。
自宅の作業スペースには21.5インチのワコム製液晶タブレット「Cintiq 22HD」とは別に2つのディスプレイが置かれており、1つは資料確認用、もう1つは作業用BGMとしてYouTubeなどが延々と再生されている。
そんな一種の“工房化”したようなスペースで作業をしている妻が、リモートワークでは「11インチiPad Pro」とスマホ1台だけで作業をすると聞いたときは、けっこう驚いた。ちなみに、対する自分はレビュー作業と趣味の関係で、「MacBook Air(2019)」1台、「第5世代iPad mini」1台、スマホ2台、カメラ2台という超重量体制だった。
Procreateの動画書き出し機能で作成。
では実際、妻はそんな装備で大丈夫だったのか?
快適さで言えば、当然自宅の方が快適だったようだ。液晶タブレットも込みで3画面の作業領域は、当然11インチのiPad Proが1台でなんとかできるものではない。
だが、「リモートワークで漫画が描けるか」という命題には、工夫次第で十分に可能という結論になった。
妻がiPad向けアプリ「Procreate」(1200円)を普段からネタ出しやプロット段階の作業に使っている。しかし、下書きやペン入れには使ってこなかった。今回、ここが挑戦した部分。下書きからペン入れまですべて同アプリでこなせるのか試行錯誤を重ねたわけだ(ペンをあらかじめ設定しておいたり、塗り方の工夫など)。
ちなみに、筆者もApple Pencil(第1世代)対応のiPad miniを持っていたので、修正指示も完全にデジタル。
また、技術的ではなく精神的な部分で、遠征地でのリモートワークは有効だったように思える。人にもよるだろうが、漫画を描くという作業は、どうしても家にひきこもりがちになる。
ただ、ここは五島列島。一歩外に出れば大自然が広がっていて、都会より気分転換の価値・効果は圧倒的に高い。それに、ウェブのレポート漫画という性質上、納品してまもなく公開されるため、それを見たプロジェクト参加者や島民の方からの感想が直に聞けるのも、クリエイターとしては励みになっていたようだ(それは編集者としてもうれしい)。
実際、この記事の回をコワーキングスペースで描いていたときに、ちょうど「1日目・コワーキングスペース編」の記事を見た島民の方が来てくれ、「こんなスペースあるなんて、住んでいたけど知らなかったよ!」と言ってくれたときは、少しうれし涙が出そうになった。
五島市にある標高315m「鬼岳」での1カット。楽しそうだが、一緒に作業していたら途中、妻が休憩に出発。帰りが遅いな、と思っていたらこれがチャットで送られてきたときの編集者としての気持ちを誰かわかってほしい。
作業環境や内容、好みは個々人で大きく異なるため、すべての人に対して「クリエイティブな作業は、東京から約1500km離れた場所でもできる」と言えるとは思わないが、このような魅力や工夫次第で実現できる可能性があるのであれば、一考したり、試してみるのも悪くないのではないだろうか。
(漫画:さかいあい、文・撮影:小林優多郎)