ファーウェイめぐる「米中デジタル冷戦」 結局“とばっちり”を食らうのは日本企業だ

P30シリーズ

日本でも展開される新型スマートフォン「Huawei P30シリーズ」。発表はすでにすんでいるが、実際の発売には懸念が出てきた(写真はグローバル版)。

撮影:小林優多郎

グーグルが中国・ファーウェイとの取引の停止を検討していると一部で報じられた。これにより、OSであるAndroidの供給や、Androidスマホに提供されているグーグルの一部サービスが使えなくなる懸念が出てきたとされた。

業界関係者の間では、先週の段階で「ファーウェイにAndoridが供給されなくなるのでは」という懸念がすでに頭の片隅にあった。米商務省が5月15日にファーウェイとその関連企業に対して、アメリカ企業による製品及びサービスの提供を規制すると発表していたからだ。

ファーウェイの規制を受けて、業界関係者の多くが2018年の「ZTE騒動」を思い出していた。

2018年4月、ZTEがイランや北朝鮮に通信機器を制裁措置に違反して輸出した問題で、ZTEが罰金の支払いに合意していたにも関わらず、虚偽の報告をしていたとして、アメリカ企業に対してZTEとの取引を禁止。「アメリカ企業がZTEに電話連絡することさえ禁止された」(米国企業関係者)という。

実際、クアルコムがチップセットをZTEに供給できなくなっただけでなく、日本で売られているスマホなどのソフトウェア更新が止まる事態に陥ったのだった(その後、2018年7月には取引禁止が解除)。

中国以外では、グーグルの影響は大きい

量販店のファーウェイ広告

すでに多くの製品を日本で展開しているファーウェイ。すでに同社製品を購入したユーザーに影響はないのか。

撮影:小林優多郎

ファーウェイのスマホに関しても、ソフトウェア更新が停止されたり、Google Playが使えなくなる可能性が浮上してきたが、今回の件に関して、グーグルはいち早く「私たちは命令を遵守し、影響を検討している。Google PlayやGoogle Play Protestによるセキュリティ保護は、既存のファーウェイ端末では引き続き提供していく」とコメント既存のファーウェイスマホユーザーが何らかの影響を受けるのは、ひとまず回避されたようだ。

しかし、このグーグルのコメントはあくまで「既存のファーウェイ端末(existing Huawei devices)」という言い方にとどまっている。場合によっては、これから発売される機種に関してはGoogle Playなどが提供できなくなる可能性は捨てきれない。

仮にグーグルのサービスが搭載できないとなれば、ファーウェイのスマホ事業は大打撃を受けることは間違いない。中国国内向けであれば、オープンソースで公開されている“素のAndroid”(もしくはそれをベースとしたカスタマイズOS)を使い、中国国内向けのアプリストアやネットサービスに対応すれば何の問題もない。

しかし、日本をはじめとする中国以外の国向けとなれば、グーグル関連サービスの対応は必須といえる。現在、世界第2位のスマホ販売シェアを誇るファーウェイだが、世界でAndroidスマホが売れなくなるとなれば、シェアの急降下は避けられない。

とばっちりを受けるのは、結局日本企業

P30シリーズの背面

カメラやディスプレイ、センサー類など、ファーウェイ製スマートフォンには日本企業の部品が採用されている場合が多い。

撮影:小林優多郎

もし、ファーウェイ製スマホが売れなくなると、とばっちりを受けるのは実のところ日本企業だ。

ソニー、パナソニック、京セラ、ジャパンディスプレイ(JDI)、村田製作所など、ファーウェイに部品を供給しているメーカーは数多い。

実際、ファーウェイは日本企業から2017年には5000億円、2018年には6800億円規模で部材を調達しているという。ファーウェイ製スマホの売り上げが落ちれば、日本メーカーへの悪影響は避けられないのだ。

ただ、今回の一件は、トランプ政権と中国政府との交渉の切り札として使われた可能性が高く、両国の交渉によっては、早期に規制が解除されることもあるだろう。

国内キャリアでは「チャイナリスク」懸念の動き

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撮影:伊藤有

日本ではSIMフリースマホで人気を得たファーウェイだが、この夏商戦では、NTTドコモが「HUAWEI P30 Pro」、KDDIが「HUAWEI P30 lite Premium」、ワイモバイル(ソフトバンク)が「HUAWEI P30 lite」を取り扱う。2018年から引き続き、キャリアがファーウェイをラインナップに追加する動きが加速している。

一方で、昨今の状況を踏まえて、キャリアの中にはいわゆる“チャイナリスク”を意識するような動きも出始めている。

例えば、ドコモの夏商戦モデルの中には、新たにシャープのモバイルWi-Fiルーターがラインナップされている。これまでモバイルWi-Fiルーターと言えば、ファーウェイの代名詞的な存在だったが「法人顧客のなかには中国メーカー製品を選びづらいという企業もある。顧客に選択肢を与えるため、シャープに作ってもらうことにした」(業界関係者)と言うのだ。

タブレットやキッズケータイなどもファーウェイが得意とするところだが、今後は別の選択肢として、日本メーカー製品も用意していく可能性があるようだ。

2019夏モデルの「ファーウェイ」は“既存端末”に含まれる?

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ドコモ2019年夏モデル発表会でハイエンドモデル「P30 Pro」の特徴を説明するNTTドコモの吉澤社長。

撮影:伊藤有

5月16日の新製品発表会でP30 Proを披露したドコモ社長の吉澤和弘氏は、米商務省が5月15日にアメリカ企業がファーウェイに対する製品及びサービスの提供を規制すると発表したことを受けて「米国政府が150日以内に(方針を)決めると思うが、先ほど、報じられたばかりであり、適切に対応していくというのが今の考え方」とコメントしていた。

夏モデルの中でも前評判の高いP30 Pro。「今夏発売予定」となっているが、果たして、このスマホはグーグルが言う「既存のファーウェイ端末」に含まれるのか?

ファーウェイだけでなく、キャリアや部品メーカー、さらにはユーザーなど、日本の多くの関係者が、トランプ政権と中国政府の交渉の行方を固唾を呑んで見守ることになりそうだ。

(文・石川温)


石川温:スマホジャーナリスト。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜22時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演。

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