敷金・礼金・仲介手数料がゼロ円、スマホ一つで引っ越しができるとうたうインド発のベンチャー「OYO」。どれほど便利なのか?なにが“新しい”のか? その実力を、OYOの全面協力のもと、実際に引っ越して徹底レビューしてみた。
リュックひとつで「引っ越し」してみた。持っていったものは:服3日分、洗顔、歯みがき、メイクセット、パソコン、スマホ、充電バッテリー&コード、財布。
突然だが、筆者はズボラである。
旅行の時もほとんど準備をしないし、足りないものがあっても「ま、いっか」とテキトーに現地で調達することもしばしば。
物欲もほとんどないので「スマホ一つで引っ越しできる」OYO LIFEはまさに私のためにあるようなサービスだ。
選んだ物件は、浅草寺から徒歩2分ほどという好立地にある物件。ちなみに参考までに、家賃は月14万5000円、管理費1万5000円だ。
ファミマで鍵受け取り、“秒速”入居
「OYOに住んでみた」企画にGOが出た5月初旬、1通のメールがOYOから送られてきた。
メールにはポストの解錠方法や宅配ボックスの番号、そして鍵が置かれた「キーステーション」の番号など。さらにハウスルールや家具・家電リストなど一通りの物件情報が載ったガイドもPDFファイルで送られてきた。
90日以内の契約であれば、予約、本人確認、クレジットカードで支払い、メールでの契約書締結まで、すべてスマホ一つで完結できる。
スマホを携え、入居当日に東京メトロ浅草駅近くのファミリーマートへ向かった。
キーステーションの様子。
指定された店に行くと、鍵がついたボックスが設置されており、ガイドに従ってボックスを開けると、鍵を受け取ることができる。ファミマがホテルのフロント代わりというわけだ。
家具・家電は備えつけで十分
物件の入り口のドア。
というわけで、“秒速”で鍵受け取り・入居が完了した。ドアを開けると「え、ピカピカすぎでは……?」
築年数は3年程度だが、モデルルームに足を踏み入れたかのようだった。OYOはこの4月にサービスを開始したばかり、今は「ボーナス期間」といえるのかもしれない。家具・家電もすべてが新品のようだ(すべての物件がこうなのかは、わからない)。
ピカピカの室内。
備え付けられていた家具や家電は以下だ。
- エアコン
- Wi-Fiルーター
- 調理器具、お皿、カトラリー
- 洗濯物入れ、簡易衣装ケース
- タオル(大・中)、バスマット
- 冷蔵庫、洗濯機、掃除機、電子レンジ、ケトル
- ベッド、テーブル、クッション、ハンガーラック、ラグ
地味に嬉しかったのは、簡易的な洗濯物入れと衣装ケースがあったこと。家具・家電に関しては1カ月なら十分このままでも暮らしていけるな、と感じた。
逆に、アイロンやドライヤーなどは設備に含まれないので、直前まで住んでいた自宅と比べると(当然だが)ちょっと不便だ。また洗剤類、シャンプーやリンス、ボディソープなどはその場で買い足さなければならなかった。
生活をまるごとサブスクする
OYO LIFEは、ただ“家がラクに借りられる”だけではないというのは、まだ多くの人が知らないことかもしれない。さまざまなシェアリングサービスと提携し「生活をまるごとサブスク化する」── そんな暮らしを提案している。
OYOが提供する「OYO PASSPORT」は、入居者が、提携企業のシェアリングやサブスクリプションサービスを1カ月間無料で利用できるサービスだ(利用回数などは企業によって異なる)。
その中から、家事代行の「べアーズ」と家具レンタルの「CLAS(クラス)」を試してみた。
まずは家具レンタルの「CLAS(クラス)」。ウェブ上のカタログから、ほしい家具をセレクト。今回はデスクとチェアを選んだが、ソファやオーブンレンジなど、備えつけにない家具・家電は一通りここで調達できる。料金は1カ月数百円〜数千円。
物置のケースまでひとつひとつ磨き上げてくれる徹底ぶり。「家事はプロの仕事だ」と実感した。
そして家事代行の「べアーズ」。家事代行は初めてだったので立ち会わせてもらったのだが、とにかくサービスがきめ細やか。
価格は、3時間家事をしてもらった場合で1回で1万2000円程度(デラックスプランを申し込んだ場合)と、他の家事代行サービスよりはやや割高だ。
しかし、洗濯・掃除・食器洗いはもちろんだが、荷物の受け取り、買い物、庭掃除、引っ越しの準備など、「高いところに登ったり、重いものを動かしたり」が必要なこと以外は、家事全般をなんでもこなしてくれるそう。
これを使えば、自宅にいながらホテルのような暮らしもできそうだ。
今回選んだのは二つだが、他にもOYO PASSPORTはカーシェア・レンタルファッション・定額制飲食・シェアオフィス・動画や音楽のストリーミングサービスまで網羅している。
リアル「わたし、定時に帰ります」状態に
これが近所の風景。ザ・下町の光景にテンションも上がる。
物件は浅草の浅草寺から徒歩2分という場所にあったので、観光しないともったいない!
というわけで、入居中はリアル「わたし、定時に帰ります」を実行。さっさと帰るために仕事がはかどったのはいうまでもない。
しかし浅草周辺にとくに飲み仲間がいるわけではないので、開いたのはマッチングアプリ「Tinder」。マッチする対象を自分の周辺1キロ以内に設定すると、すぐにたくさんの人がマッチした。
そうして、ひとりの外国人観光客とホッピー通りで仕事帰りにカンパイ。英語の勉強にもなり、プチ異文化体験も経験できた。
暮らしもサブスクなら出会いもサブスクで。なにも持たない、なにからも縛られない暮らし。
これこそ私が求めていた理想の生活だと感じた一方で、真夜中の雷門の前で一瞬だけツンと寂しくなったことは秘密である。
深夜1時、Tinderで出会った人と飲んだ帰りの雷門は少しだけエモかった。
最後に、今回の物件で1カ月「OYO LIFE」してみた場合にかかる費用を計算してみた。
- 家賃:16万円(管理費込み)
- 家具レンタル:2160円(デスクとチェア)
- 家事代行:約2万3000円(月2回、1回3時間の場合)
今回使ってみた分だけでも、18万5000円ほどだった。これに加えて、OYO PASSPORTで提携している収納スペースやファッションなどをサブスクするとしたら、1カ月あたり20万円強になるだろうか。
いくら「敷金・礼金・仲介手数料ゼロ」といっても、OYO LIFEは「安く住む」サービスとは全く違う方向を目指していることがわかる。
今は、住居コストにそれなりの出費ができる人向け、ある意味“独身貴族の遊び”感があるOYO LIFE。今は東京23区内を中心に展開しているが、地方都市などでも1カ月10万円程度で住める物件が増えてくれば、ぐっと手が届きやすいものになる。
「生活をサブスク化」して、都市を選ばずに全国どこでも1カ月単位で住み放題 ── OYO LIFEが本当の意味で「暮らしのインフラ」となれるのは、その時なのではないだろうか。
(文・写真、西山里緒)