日経平均は当面、2万1000円を挟み荒っぽい展開。カギは「米中」と「中間決算」

株価ボード。

東京株式市場では5月14日、激化する米中貿易戦争への懸念などから日経平均株価の終値が3年ぶりに7営業日連続の下落を記録した。

REUTERS/Kim Kyung-hoon

10連休明けの日経平均株価は7営業日連続で下落した。2016年4月以来、約3年ぶりだ。令和の株式市場はほろ苦い幕開けとなったが、この先はどうなるのだろうか。株価の基礎となる企業業績から先行きを見通す。

「見た目」は悪くない2020年3月期業績予想

米中首脳会談。

株価の先行きについては弱気な見方もある。主な要因は米中貿易摩擦の再燃だ。米中関係がこれ以上悪化すれば、世界的な景気減速や株価下落につながると懸念する投資家は少なくない。

REUTERS/Kevin Lamarque

はじめに、主要企業の経常利益(合計額)は、年度初めの予想に比べて期末の実績値が上振れする傾向がある【図表1】。

【図表1】

【図表1】

2014年3月期以降で「下振れ」に終わったのは、「チャイナ・ショック」が起きた2016年3月期と、米中貿易摩擦が激化した2019年3月期だけだ。よく「日本企業の業績予想は慎重」と言われるが、その様子がデータでも確認できる。

先週ほぼ出そろった2020年3月期の見通しは1.6%の増益予想で、悪くないように見える。

前述の経験則に従えば増益幅の拡大も期待できよう。実際、市場では「業績悪化の最悪期は脱した」という見方もある。

それにもかかわらず、日経平均は上昇基調を取り戻すどころか、再び2万1000円の節目を割る可能性すら危ぶまれる。

主な要因は米中貿易摩擦の再燃だ。米中関係がこれ以上悪化すれば影響は中国にとどまらず、世界的な景気減速や株価下落につながると懸念する投資家は少なくない。

電機・精密など「外需セクター」が株価の重荷に

国内の自動車工場。

「外需」頼みの業種では、厳しい業績見通しが目立つ。自動車・輸送機セクターこそトヨタ自動車など一部企業の増益予想が業種全体の数字を良く見せているものの、厳しい予想の企業が多い。

Lerner Vadim / Shutterstock.com

実は、その様子が業績予想に表れている。全体では1.6%の増益予想でも、業種別にみると良いところと悪いところがハッキリ分かれているのだ【図表2】。

【図表2】

【図表2】

業績見通しが良い業種は、電力・ガス、建設・資材、小売など主に国内で稼ぐ「内需セクター」が多く、軒並み大幅増益の予想となっている。

一方、株価への影響が大きい「外需」については厳しい内容が多い。自動車・輸送機セクターこそトヨタ自動車など一部企業の増益予想が業種全体の数字を良く見せているものの、厳しい予想の企業が多い。

機械、電機・精密も米中貿易摩擦や欧州の景気減速などの影響を受け、市場の事前予想より悪い内容を発表した企業が目立つ。

先行き不透明感が強いため、例年以上に慎重な見通しを出した企業が多い可能性もあるが、「思った以上に悪い」というのが市場の受け止め方だろう。

秋までは一進一退が続く

トランプ米大統領。

これから本格化する、日本とアメリカの貿易交渉の先行きも不透明だ。2020年に大統領選を控えて成果を急ぎたい米トランプ政権が日本に矛先を向けないとも限らない。

REUTERS/Carlos Barria

仮に現時点の業績見通しが例年以上に慎重だとしても、それが事実かどうか確認できるのは、半年後に中間決算を発表する時まで待たされる可能性が高い。

言うまでもなく米中関係が進展するかどうかがカギだが、中国の国営メディアが「中国はアメリカとの貿易交渉に関心がない」と報じるなど、ここ数日、中国側から強気な発言が相次いでおり、短期決着の期待は薄い。

さらに日本とアメリカの貿易交渉がこれから本格化する。2020年に大統領選を控えて成果を急ぎたい米トランプ政権が日本に矛先を向けないとも限らない。

こうした状況で日本企業が業績見通しを引き上げる余地は極めて小さいと見るべきだろう。

「過去のように業績が上振れする」と現時点でタカをくくることはできないので、中長期の投資家は様子見姿勢を強め、株式市場では短期志向の投資家が取引の中心にならざるを得ないだろう。

ただ、米中がいつまでも妥協点を見出せなければ、双方とも国内の景気悪化や政権に対する支持率低下を招きかねない。2019年の秋にはアメリカでは大統領選まで1年となり、攻防が本格化するのと同時に、10月1日には中国が建国70周年を迎える。

「米中の歩み寄り」と「中間決算」で日本企業の業績上振れに対する期待が出てくれば、日経平均は再び上昇基調を取り戻すとみられるが、当面は2万1000円を挟んで値動きがやや荒っぽい展開が続くのではないか。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。


井出真吾:東京工業大学卒業後、日本生命保険に入社。1999年からニッセイ基礎研究所に出向、2015年からチーフ株式ストラテジスト。

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