中国を揺るがせたパナソニックのファーウェイとの取引中止報道。異例の2度の緊急声明

ファーウェイロゴ

5G開発に取り組むファーウェイ。アメリカ政府との対立が深まる

Kevin Frayer/Getty Images

トランプ米大統領は、ピンポイントでファーウェイ(華為技術)を抹消しようとしている。

第5世代移動通信システム(5G)の分野で一時的にファーウェイへの封じ込めや制裁を緩和したとしても、アメリカは最終的には制裁を強め、中国企業を徹底的に封じ込める政策は変わらないだろう。

東西冷戦後に広がったグローバリゼーションは、モノづくりの世界を大きく変化させた。冷戦時代の完成品を中心とした貿易は、部品を中心とする貿易体制に変わった。iPhoneも部品を世界各国から調達し、中国で組み立てているのはよく知られたことだ。

しかし、トランプ大統領の出現によって貿易の世界は冷戦時代のように各国国内で完結する生産体制へと逆流していくかもしれない。

在中国日本企業は、このグローバリゼーションの新たな変化をどう感じているのか。相次ぐ日本企業のファーウェイとの取引中止などの情報発信などを見ていると、非常に動揺している印象を受ける。

未明に報じられたパナソニックの取引中止

パナソニック

日本メディアではファーウェイとの取引中止を報じられたパナソニック。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

日付が5月22日から23日に変わった日本時間の午前1時過ぎ、共同通信社からこんな記事が配信された。

「パナソニックは22日までに、米政府による中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)に対する禁輸措置を受け、自社でも措置の対象となる製品についてはファーウェイとの取引を中止することを決め、社内に通達した」

23日、各社の朝刊はほぼ同じ内容を報じ、中でも朝日新聞はこのようにパナソニックの取引中止を報じた。

「(パナソニックは)22日夜には『米国が禁止した華為向けの取引を中止するよう社内で徹底している』とのコメントを出した」

朝日新聞はこの文章の前に、パナソニックの広報担当者の言葉として、デジタルカメラはレンズ以外の大半を中国で生産しており、「移転か値上げかを検討している」と書いている。

パナソニックは中国でスマートシティ事業や電気自動車事業などを拡大させている。だからこそ、あたかも中国市場全体を“敵に回すような”コメントに、筆者は驚いた。

現地パナソニックから“緊急声明”

ファーウェイ携帯電話

ファーウェイの新製品「P30」。日本ではほぼ全てのキャリアが発売を見合わせている。

REUTERS/Soe Zeya Tun

今中国では毎年700万人から800万人が大学に進学し、そのうち半分ぐらいは第二外国語として日本語を選ぶと言われている。中国国内に簡単な日本語を読める人の数は少なくとも5000万人はいるとみられる。

日本からの情報は非常に速く中国に伝わる。共同通信、朝日新聞の「パナソニックがファーウェイと取引中止」という記事が伝わると、中国のほぼすべてのメディアは注目した。

23日午前10時ごろ、ポータルサイトとしてもっとも読まれている「新浪」は、「日経アジアンレビュー」の記事を引用する形で、パナソニックのファーウェイとの取引中止のニュースを流した

北京日報は23、24日にわたって取引中止問題を報じた

中国人ジャーナリストとして常に日本企業を取材している筆者に、パナソニックの中国現地企業・松下電器(中国)有限公司の広報部から「厳重声明」のメールが届いたのは、北京時間の5月23日11時04分だった。

「現段階で、パナソニックグループは華為(ファーウェイ)に正常に製品を供給しており、インターネットメディアなどで報じられている『供給停止』などは全て真実ではない。

華為はパナソニックの長年にわたる提携パートナーである。我々は所在する国家と地区の関連法律及び条例を厳格に遵守し、華為など中国の顧客への製品販売とサービスの提供を継続し、中国においてパナソニックグループは微力ながら事業の発展に貢献していく」

中国語では「厳重声明」という言い方はなく「厳正声明」と言う。さらに「厳重声明」と称しながら社印もなかった。筆者がこの「厳重声明」を微信(WeChat)にアップすると、「社印もなく、厳重声明と言えるか」などのコメントで炎上した。

11時59分に松下(中国)広報部から2度目のメールが来た。内容は全く同じ内容だったが、今度は「厳正声明」になっており、ちゃんと社印もついていた。

声明文として中国人がわかりにくい文章だったこと、さらに1回目の「声明」が「厳重声明」という“間違った”言葉使いから見ても、日本語で作成した文を中国語に翻訳したものと思われる。

松下(中国)の声明直後、ファーウェイは以下の声明を出した。

「松下は華為の重要な提携パートナーであり、双方は各領域で密接な業務協力を展開しています。松下集団と華為の全ての業務協力はこれまでと同じように続いています。松下の華為に対する一貫した支持に感謝します」

その後、中国では、中央テレビも繰り返し松下(中国)とファーウェイの反応を報じた。

ファーウェイの社名を出していいのか

安倍首相とトランプ大統領

REUTERS/Athit Perawongmetha

筆者は松下(中国)に対してファーウェイとの取引中止について取材したが、広報部から「厳正声明」以外のコメントはもらえなかった。

ファーウェイに関して、トランプ大統領は米中貿易交渉の“取引材料”にすることも示唆しているが、いずれにせよアメリカによるファーウェイ排除は当分継続するだろう。

日本政府が断固としてアメリカと行動を共にする姿勢を見せる中、最終的にファーウェイ との取引を中止する日本企業が相次ぐことは想像できる。

だが、すぐにファーウェイ との全ての取引を中止すると発表するのは、少し軽率ではないか。

アメリカが輸出入を禁止した分野以外ではこれまで通りビジネスをする。どんな分野でファーウェイを排除し、それをどのように情報を公開するのか。企業は慎重に考え、情報発信すべきであろう。また情報公開はいくつかのパターンもあり、公表の形式によって中国の反応も違う。

ソニー

David Ramos/Getty Images

パナソニックのようにファーウェイを名指しして「取引を中止する」と報道された事例のほか、通信キャリアや家電量販店がファーウェイ 製品の発売を見合わせた報道はあったが、その他の取引企業はファーウェイの社名を出さずにマスコミの取材に答えている。

例えばファーウェイの携帯にCMOSセンサーを提供しているソニー。5月17日に日本で開かれた経営戦略説明会で吉田憲一郎社長は、ファーウェイ ・リスクについて「ノーコメント」を貫いた。5月23日に中国のマスコミはソニーに取材を申し込んだが、ソニーは以下のように回答した。

「ファーウェイを含む取引については、弊社は一切コメントしない。アメリカの輸出制限に対して今後も継続的に注目する」

中国では、日本の通信キャリアやソニーを批判する記事はほとんどなかった。一時ではあるが、パナソニックの取引中止報道は中国で大きな騒ぎになり、中国サイドで声明を出してやっと沈静化した。

ファーウェイは2018年、日本から7000億円を超える部品を買い付けしている。そのすべてがアメリカが禁輸するものではないはずだ。簡単に名指ししてファーウェイとの取引を中止すると言えば、その代償は大きいのではないか。

陳言:在北京ジャーナリスト。1982年南京大学卒。経済新聞に勤務後、1989年から2003年まで日本でジャーナリズム、経済学を学び、2003年に中国に帰国。経済雑誌の主筆を務めた後、2010年からフリージャーナリストに。

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