目標設定の「暗黒面」、エベレストでの死者数急増から知る

長蛇の列

エベレストが恐ろしく混雑している。

Twitter/@nimsdai

  • 世界最高峰エベレストでは今シーズン、少なくとも11人が山の危険な区域での渋滞中に命を落としている
  • 1996年にも同様の渋滞が複数の犠牲者を出していて、ある社会心理学者は、多くの登山者が「サミット・フィーバー(summit fever)」 —— 頂上に到達したいという執着心が命を守るための決断を見えなくする —— にかかっていると指摘する。
  • 会社であれば、CEOがあまりにも高い目標を設定すると、従業員たちはタスクを実行できるかどうか不安になる。登山者と同じく、チームのメンバーは感情的な結びつきがあるため、目標達成に向けてさらに懸命に働くことになる。

世界最高峰エベレストでは今シーズン、少なくとも11人が山登りの途中で命を落としている —— 雪崩や猛吹雪のせいではなく、確立された登山ルートで、だ。

あまりにも多くの登山者が山頂を目指して列をなし、"渋滞"になっているからだという。この渋滞のせいで、登山者は「死のゾーン」と呼ばれる標高約8000メートル以上のエリアで待つことになる。

経験不足の登山者に、山頂を目指すことを許した許可制度の緩さも犠牲者を出すことにつながったかもしれないが、心理学は、「サミット・フィーバー」 —— 頂上に到達したいという登山者の執着心 —— が影響した可能性を示している。

エベレストで渋滞が複数の死者を出すことにつながったのは、これが初めてではない。1996年には、8人が山頂近くで渋滞中に命を落とした。当時、組織心理学者のクリストファー・ケーズ(Christopher Kayes)氏は、ヒマラヤの山麓の丘から登山者を観察していた。

2004年の研究論文で、ケーズ氏はエベレストの山頂に到達することが登山者の社会的アイデンティティーの一部になっていると指摘。登山者たちは目標を達成したいあまりに、誤った判断を下しているとした。

山頂に到達したいというエベレストの登山者たちの衝動が、他の行動を考えることを妨げていると、ケーズ氏は主張する。目標達成だけを追求する登山者の視野の狭さが、その途中で遭遇した渋滞や酸素量の低下といった問題を見えなくし、引き返すという選択肢を消してしまう。

加えて、頂上に近ければ近いほど、登山者はここで引き返したらこれまで投資した時間や労力が無駄になると恐れるかもしれない —— これは「サンクコストの誤り」と呼ばれる現象だ。

ジャーナリストで『The Antidote: Happiness for People Who Can't Stand Positive Thinking』の著者でもあるオリバー・バークマン(Oliver Burkeman)氏は、ケーズ氏の主張を拡大し、高すぎる目標設定は成功を遠ざけかねないと指摘した。例えば、CEOがあまりにも野心的な目標を掲げると、チームのメンバーはタスクを本当に実行できるかどうか不安になる。

この不安は、目標を達成できないのではないかという恐れとあいまって、彼らはさらに懸命に働くことになる。チームのメンバーは登山者同様、それが本当に達成可能かどうかにかかわらず、目標に対する感情的な投資を増やす。例え計画が「だんだん無謀」に見えてきても、サミット・フィーバーが彼らを目標にこだわり続けさせる。

企業の野心的すぎる目標に従業員たちがあまりにも執着していると、彼らは誤った判断を下す。

目標への固執が逆効果になると考えているのは、バークマン氏だけではない。『Irresistible』の著者でニューヨーク大学の経営大学院スターン・スクールの准教授、アダム・オルター(Adam Alter)氏は、スマートフォンのアプリが理不尽な目標設定を促していると、Business Insiderに語っている

それが登山であれ、外国語学習であれ、人は目標を達成するためだけに必要以上に自分を追い込んでいると、オルター氏はいう。そして、目標を達成しても、その喜びは新たに執着する別の目標のために、すぐに色あせてしまう。常に目標に向かって努力しているということは、自分の大半の時間を目標達成に「失敗」することに使っているということだと、オルター氏は指摘する。

何かを成し遂げたいときは、高すぎる目標を掲げるのではなく、システムを作ることをオルター氏は勧めている。ハーバード大学の社会心理学者、エイミー・カディ(Amy Cuddy)氏も、目標は小さく、一口サイズに刻もうとBusiness Insiderに語っている。例えば、本を書きたいと思うなら、毎朝、良くても悪くても、500単語書くシステムを作るべきなのだ。

「最終的には、積み重ねでゴールにたどり着く」とカディ氏はいう

[原文:What 'summit fever' and the spike in deaths on Mount Everest can teach you about the dark side of goals]

(翻訳、編集:山口佳美)

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