【徹底分析】米制裁でファーウェイが陥った部品危機はどこまで深刻か

上海のHUAWEI

アメリカの制裁で苦境に立たされているファーウェイ。

REUTERS/Aly Song

中国通信設備・端末大手ファーウェイ(華為技術)が苦境にたたされている。

米商務省産業安全保障局(BIS)のエンティティリストに掲載されたため、アメリカの技術を使った製品をファーウェイに販売することが禁じられた。この規制は米企業のみならず、世界中の企業を対象としたもの。違反すれば「ディナイド・パーソン・リスト」(取引禁止顧客リスト)に掲載され、アメリカでの商取引が禁止される。

エンティティリスト掲載後、グーグルをはじめとする多くの企業がファーウェイとの取引中止や見直しを発表したが、各企業の判断は違反した場合の影響を考えれば致し方がないところだろう。

この制裁はファーウェイにどのような影響を与えるのだろうか。主要部品を対象に考えてみたい。

別の会社から地図アプリを調達できるのか

ファーウェイのスマホで、Google Payをタッチ地用としている様子

REUTERS/Marko Djurica/Illustration

まずOS(操作システム)だ。ファーウェイのスマートフォンはAndroid OSをカスタマイズしたEMUIが搭載されている。Androidそのものはオープンソースのプログラムのため、今回の制裁にかかわらず利用は可能だ。

それでもファーウェイには課題が残ると、スマートフォンに詳しいインターネットプラス研究所の澤田翔所長は指摘する。

最大の問題はグーグルとの取引ができなくなると、Google Mobile Services (GMS)という一連のアプリ、サービスの利用ができなくなる点にあるという。

これによりGoogle MapやGmail、Google Playなどのアプリをインストールできなくなるほか、グーグル以外が開発したアプリであってもGMSのインストールを前提条件としているアプリに影響が及ぶことが考えられる。

例えば、ホテルの予約アプリでは、目的地の地図を見ながらホテルを探せる機能があるが、これにはGMSが提供しているグーグルマップが使われている。GMSが搭載されていないスマートフォンに対応させるためには、別の会社から地図を購入するなどの対応が必要になる。

独自OSを発表する方針だが……

ホテルの予約アプリのスクリーンショット画面

Google Mobile Suite (GMS)が使えなくなれば、グーグルマップと連動したこうしたホテル検索サービスも使えなくなる。

ファーウェイはスマートフォン以外にもパソコンやサーバーの事業も展開しているが、これらの製品も問題となる。

マイクロソフトは現時点では立場を表明していないが、中国テックメディア「快科技」は5月26日付の記事で、ファーウェイ本社に駐在していたマイクロソフトのサービスチームが撤退したと報じている。エンティティリスト掲載企業との取引が大きなリスクを伴う以上、マイクロソフトが取引を継続することは難しいのではないか。

ファーウェイがOSをインストールせずに出荷した上で、代理店や顧客が入手したマイクロソフト製品をインストールする分には問題ない。

一方、ファーウェイが最近力を入れているクラウドインフラにおいては、影響が大きい。クラウドインフラでは、OSやソフトウェア環境はプラットフォーム、すなわちファーウェイが提供する。もしファーウェイクラウドでマイクロソフトの製品を顧客に提供できなくなれば、大きな痛手となることは間違いない。

ファーウェイは、スマホやパソコン、サーバー、車載機器など多くのカテゴリをカバーし、既存のAndroidのアプリが動作する独自OSをリリースする方針を示している。オープンソースのソフトウェアをベースに独自開発を続けているとみられるが、クリアすべきハードルは多い。

ARMとの取引再開の可能性は

次に半導体チップだ。

ファーウェイは子会社に半導体メーカー・ハイシリコン(海思半導体)を持つ。スマートフォン向けSoC(システム・オン・チップ、統合チップ)のキリン(Kirin)、サーバー用CPUのKunpeng、5G携帯電話基地局向けコアチップのTiangang、端末向け5GモデムチップのBalong、AIチップセットのAscendなど、多くの製品の自社開発に成功している。

ただし、これらのチップセットはほとんどがソフトバンクグループ傘下の英ARMのアーキテクチャに依存している。そのARMがファーウェイとの取引停止を表明したことは大きな打撃だろう。

もともと、ファーウェイがARMを大々的に採用してきた背景には、米企業に依存しすぎないようにと、地政学リスクを回避するためとの見方もあった。

ところがそのARMが、アメリカの規制に抵触する可能性があるとして、早々に取引停止を決めた。日本資本の英国企業でアメリカにも開発拠点を持つ、まさにグローバル企業なだけに生じた問題だ。

ただし、ARMとファーウェイの取引が再開する可能性はゼロではない。ファーウェイのプレスリリースには、「現在ARMはエンティティリストの影響の確認、評価を行うとともに積極的に米国政府とコミュニケーションを行っています。私たちは(ARMの行動に)理解と支持を表明します」とある。

エンティティリストに抵触するのは、ARMのプロダクトのうち、25%以上の付加価値を米国由来の技術が占める場合になる。この数字を割り出すのは容易ではないため、結果がわかるまで暫定的に取引を停止した可能性も考えられる。

ARMにとってファーウェイはたんなる大口顧客ではない。サーバー用などARMアーキテクチャーの活用範囲を拡大する急先鋒だっただけに、本音はどうにかして取引を継続したいはずだ。

さらに言えば、ARMとファーウェイの取引停止は新規契約と発表されている。既存の契約については問題がなく、現行製品の生産には問題がない。

台湾の受託生産企業は取引継続

測定機有機半導体における過渡光電流のコネクタ

ファーウェイリスクは世界中から部品を調達するグローバリゼーションのリスクを顕在化させた(写真はイメージです)

gettyimages / CasarsaGuru

半導体チップに関してはARMだけではなく、ファウンドリ(半導体受託生産会社)の問題もある。

Kirinの製造を受託するなどファーウェイとの関係が深い、世界最大のファウンドリ、台湾積体電路製造(TSMC)は5月23日、ファーウェイとの取引を継続すると発表した。

アメリカの大手法律事務所に評価してもらったところ、米国由来の技術が占める付加価値は25%を大きく下回ることが判明したため、今回の規制には該当しないと判断したためだという。

ただし、この計算は米企業の半導体製造装置を除外して計算したもの。米当局の判断によっては判断が覆る可能性もありそうだ。ファーウェイが必要とするハイレベルの製造技術を持つファウンドリの数は限られているだけに、米政府がこの分野でも規制に乗り出せばその影響は甚大だ。

ファーウェイサーバー

ファーウェイが発表したARMベースのサーバー「タイシャン」。顧客が望むアプリケーションのARM版が利用可能になるまで多くの時間がかかるだろう。

ファーウェイHPより。

半導体で大きな影響を受けるのは、インテルから半導体の供給を受けているパソコンやサーバーなどの製品、そしてクラウドサービスの方かもしれない。

コンピュータではx86と呼ばれるARMとは異なる種類のCPUが主に使われている。これは仕様が公開されていないため互換品を作ることが難しく、現時点では事実上インテルとAMDのいずれかから供給を受けなくてはならない。

ファーウェイは2019年に入ってARMベースのサーバー「泰山(タイシャン)」を発表している。またARMで動作するWindows 10 も最近リリースされた。しかし、これらが一般に利用されているとはいいがたい。

オープンイノベーションの申し子

最後にスマートフォンのイメージセンサーについて。

ファーウェイのスマートフォンはカメラ性能がきわめて優れており、高い評価を受けている。その性能を支えているのがソニーのイメージセンサーだ。ソニーも日本企業とはいえ、その技術は日本一国で完結するものではないため、今回の規制に抵触するかどうかが注目される。

現時点でソニーは「ノーコメント」と取引については何も言及していないが、取引中止となればファーウェイにとってはやはり大きな打撃となる。

ここまでアメリカの規制がファーウェイにもたらす影響を検討してきた。改めて印象づけられたのは、現代のサプライチェーンのグローバル化だ。産業は一国で完結するものではなく、世界と密接につながっている。

ファーウェイのカメラで撮影している様子。

ファーウェイのスマートフォンのカメラ性能は高い評価を受けているが、それを支えているのはソニーのイメージセンサー。

GettyImages / Karlis Dambrans

以前にファーウェイ・ジャパンの中国人エンジニアに話を聞く機会があったが、その際にぽつりと漏らしていたのが、「世界的なオープンイノベーションの広がりこそ、ファーウェイが大きく飛躍した背景だ」という言葉だった。

オープンイノベーションとは一つの会社が技術を囲い込むのではなく、企業間の技術やアイディアの流動性を高めることで、イノベーションを加速しようというモデルである。

ファーウェイに限らず、中国企業は積極的に世界的なオープンイノベーションのコミュニティに加わることで、自らの競争力を高めてきた。アメリカの規制は奇しくもそのネットワークがどれだけ広範なものだったかを表面化させる機会となった。

オープンイノベーションによって利益を得てきたのは中国企業だけではない。協力関係にあった企業、さらには技術の進展によって便益を得た世界の消費者も含まれる。

米中の対立は世界に利益をもたらしてきたオープンイノベーションを逆転させかねないものだけに、制裁の波紋はファーウェイという一企業を超えて、世界に大きな負の影響をもたらしかねない。


高口康太:ジャーナリスト、翻訳家。 1976年生まれ。2度の中国留学を経て、中国の経済、社会、文化専門のジャーナリストに。著書に『なぜ、習近平は激怒したのかー人気漫画家が亡命した理由』『現代中国経営者列伝』。共著に『中国S級B級論ー発展途上と最先端が混在する国』

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